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腹式呼吸を取り入れた訓練で誤嚥を軽減

腹式呼吸を取り入れた訓練で誤嚥を軽減

耳鼻咽喉科
教授(くすのき・たけし)

1986年近畿大学医学部卒業。
米ミネソタ大学耳鼻咽喉科側頭骨病理研究室リサーチフェロー、
近畿大学耳鼻咽喉科学教室講師などを経て、2015年から現職。
順天堂大学医学部・大学院医学研究科耳鼻咽喉科学講座教授兼任。

 日本人の死亡原因の上位には悪性新生物(腫瘍)や心疾患、脳血管疾患などがあり、肺炎も多い疾患の一つ。その中でも、近年増えているのが、飲み込みの障害などによる誤嚥(ごえん)性肺炎によるものだという。楠威志教授は、腹式呼吸を取り入れた独自の訓練法で、誤嚥の軽減を図るユニークな取り組みを行っている。

—腹式呼吸を取り入れた訓練法を実践されています。

 もともとは声帯結節や声帯ポリープ、咽頭肉芽腫などの患者さんに対する音声治療を目的に当講座で開発した訓練法です。腹式呼吸に重点を置いている点が、この訓練法の大きな特徴の一つです。

 腹式は胸式呼吸に比べて呼吸回数も少なく、余計な力がかからないため声帯への負担も少なく、楽に発声ができます。音声訓練法を実践することで症状が改善され、手術をしなくて済む方もいます。また、再発率が抑制されるなど、その有効性も明らかです。

 本来の音声治療は、医師と言語聴覚士(ST)が連携していること、検査では音響分析装置を使用することが理想的ですが、そのような態勢を持つ医療機関や診療所は数少ないのが現状です。そこで耳鼻咽喉科医だけで訓練法の指導が可能となる、簡易的な方法を考案したいと考えたのです。

 近年、肺炎が日本人の死亡原因の上位にあります。感染の他、脳血管障害や心疾患によって、咽頭などの機能が落ち、誤嚥性の肺炎などを起こして亡くなる方が多くなっているのです。 肺がんや食道がん、そして甲状腺がんなどの手術後に、反回神経まひが引き金となって誤嚥を起こして亡くなるケースもあります。誤嚥を何度も繰り返し、入退院を繰り返す方も少なくありません。

 当講座では、治療として手術の他に音声訓練を取り入れ、咽頭などの機能を改善。摂食や嚥下障害の発生の軽減を図ろうとしているのです。

 また、飲み込みに障害が生じると、食事が取りづらくなります。そのために低栄養になってしまい、次には抗生剤が効きにくくなり、免疫も落ちてくるといった悪循環が生じます。高齢者が訓練によって嚥下の力を強化することは、社会全体にとっても大きな意義があると思います。

—具体的な訓練方法を。

 訓練では、まず患者さんに腹式呼吸を体得してもらうことを重視しています。しかし、腹式呼吸は言葉による説明だけでは理解しづらいと思います。

 私は患者さんの職業や趣味、好きなスポーツなどに合わせて、体の動きを具体的に見せながら説明。一緒に実演し、実際に体の動きを患者さんに体感してもらいながら指導します。例えばゴルフをする人であれば、ショットの時の体の動きと発声を組み合わせて見せることもあります。

 ポイントは上半身を脱力し、姿勢を整え、腹式呼吸を取り入れて発声をするという流れ。訓練方法を図で示した資料を渡し、まず3カ月は続けるようアドバイスをしています。

—後進の指導において大切にしていることは。

 どのような症例であっても、見過ごすことなくアンテナを張って、まるで探偵のように注意深く診る目を養ってほしいと考えています。見慣れているところにこそ新しい発見はあるもので、その視点が研究につながっていきます。

 また、医学への貢献として、臨床や研究で得たものを論文化することも大切だと伝えています。私の学生時代の恩師は「記録として論文化することは助けられなかった患者さんへの供養でもあります」とおっしゃったことがありました。指導においても厳しい方で、「自分が若い頃助けられなかった患者さんのためにも、後進の育成は自分に課せられた役割である」と語られた言葉は、強く心に残っています。

順天堂大学医学部附属静岡病院 耳鼻咽喉科
静岡県伊豆の国市長岡1129 
☎055—948—3111(代表)
https://www.hosp-shizuoka.juntendo.ac.jp/department/otorhinolary/

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