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第27回 日本産業ストレス学会 産業ストレスと法~多職種の共働による予防法務の確立に向けて~

第27回 日本産業ストレス学会 産業ストレスと法~多職種の共働による予防法務の確立に向けて~

 (大会長=三柴丈典・近畿大学法学部教授)が2019年11月29・30日、大阪市中央公会堂で開かれた。テーマは「産業ストレスと法~多職種の共働による予防法務の確立に向けて~」。産業ストレスに関する予防法務をいかに構築するかを目的とした同学会には、法律の専門家や産業医をはじめとした医療職など約1200人が参加した。

 今回は、「『同一労働同一賃金』のすべて」の著者で、「働き方改革実現会議」の委員も務めた労働法の専門家、水町勇一郎・東京大学社会科学研究所教授の講演を紹介する。


●特別講演
「働き方改革と働く人の健康・福祉」


水町 勇一郎 氏
(東京大学社会科学研究所教授)

 2019年4月に施行された働き方改革関連法。今回の働き方改革は労働法制としては終戦後の労働三法制定以来、70年ぶりの大改革だ。

 「働き方改革関連法」のポイントは、長時間労働の上限時間の罰則付きでの設定、企業による年休付与義務、正規・非正規労働者間の格差是正。

 法定労働時間を超える時間外労働の限度は原則月45時間、年360時間。臨時的な特別の事情がある場合、労使協定(特別条項)によって限度時間を超える時間を定められるが、これについても上限が設けられた。

 資本金5千万円以下(小売業、サービス業の場合)の中小企業も2020年の4月から適用になる。医師に関しては、基本的な時間外労働は年960時間で、2024年4月から適用される。

 年休付与義務は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日については時季を指定して与えなければならない。

 また、同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法)の施行によって正規・非正規の不合理な違いを設けることは禁止されることになった。

弊害が目立ち始めた「日本的雇用システム」

 今回の「働き方改革」は、今まで手が入れられてこなかった「日本的雇用システム」を本格的に変えようとするもの。日本的雇用システムとは、働き方の根幹に関わる終身雇用、年功序列、企業別組合などだ。

 これらは主に正規雇用者を守るための仕組みだったが、弊害も生んだ。例えば「終身雇用」は、雇用の柔軟性を確保することが難しく、従業員に日常的な長時間労働を強い、過労死の原因にもなった。「年功序列」によって若い世代の収入は低く抑えられ、少子化につながった。

 日本的雇用システムで守られるのは正規雇用者であることから、正規と非正規の格差も当然ながら存在し、これまでの法律で是正されてこなかった。非正規雇用の増加、格差の拡大が、今の社会全体の不安定さを生んでいる。

労働改革であり経済政策である

 「働き方改革」は、労働にまつわる改革であると同時に、経済政策「アベノミクス」の一環でもある。アベノミクスの目的は成長と分配の好循環。つまり賃上げによって消費を拡大させ経済成長につなげることであり、その実現のためにも、働き方改革は重要だと認識されている。

 これまでの大きな労働法制改革は、長い期間をかけて行われてきた。しかし、今回の改正は、議論の開始から施行まで3年。アベノミクスと密接に関わっていることに加え、労働法の改正は好景気の時期が適していること、東京オリンピック・パラリンピック後には景気の反動が予想されることから、一気に進めたいということだったのだろう。

待遇の差は雇用側に説明義務

 今回の改正では、いくつかのポイントがある。例えば正規と非正規労働者間の格差を是正するため、待遇に差をつけてはならないことになる。

 雇用する側には、非正規雇用者に対して待遇差などの内容や理由について、説明が義務化された。待遇の差異の合理性を事業者側として説明できないようであれば、格差を是正する必要がある。非正規雇用は、正規雇用と同様にその希望に沿って能力を生かす労働者だと認識すべきだ。

ダイバーシティーを制度として埋め込む

 一連の改革は、正規雇用中心主義を是正することで、アブノーマルな日本の働き方を正常化し、どのような働き方でも保障されることを目的としている。ダイバーシティー(多様性)を制度的に企業などに埋め込んでいこうとしているのだ。

 全労働者の中で非正規雇用者が占める割合は約4割になる。この非正規雇用の待遇を改善し、正規雇用との格差を是正することは、所得格差をはじめとした社会的格差を改革することにつながるだろう。

 改革は途上のため、今後3年から5年程度は見守りたい。ダイバーシティーに沿った形になれば、日本全体の働き方が変わり、これまで問題とされてきた長時間労働や健康被害も減る社会が実現するかもしれない。

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