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第23回 日本病態栄養学会年次学術集会~栄養をつなぐ~

第23回 日本病態栄養学会年次学術集会~栄養をつなぐ~

 1月24日から26日までの3日間にわたり「第23回日本病態栄養学会年次学術集会-栄養をつなぐ-」(会長:石川祐一・茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科教授)が国立京都国際会館(京都市)で開かれた。医師、看護師、管理栄養士ら5329人が参加。今回は、理事長講演と招待講演から、一部を紹介する。


●理事長講演
「働き方改革と働く人の健康・福祉」
清野 裕 氏(関西電力病院総長)

清野 裕氏

50年で大きく変化した「食」

 もともと質素だった日本人の食は、この100年で多様化。洋食や中華料理なども食べるようになった。寿命は延びているもののBMI(体格指数)が増加し、生活習慣病も増えているという状況だ。糖尿病に関して言えば、東アジアの人々の糖尿病の傾向として特徴的なのは肥満度が低く、インスリン分泌が少ないことが挙げられる。

 日本人の食事の回数は、はるか昔、1日2食だったが、江戸時代に3食になり、総エネルギー量が増加。1960年ごろまでは摂取エネルギー量のおよそ8割を、炭水化物に依存していた。

 しかし獣肉由来のタンパク質が増えるなど、日本人の食生活はこの50年間で大きく変化した。パソコンを扱う仕事が多く日中座りっきりの生活を送る人が増えたこと、夜型のライフスタイルが当たり前になっていることもあり、結果としてファストフード店やコンビニエンスストアの利用が非常に多くなるという現状がある。

 ただ、これらを否定するだけではいけない。食事の際、食べる順番に気をつけることで、血糖の上昇を抑えることができる。肉や魚に含まれている脂肪酸などは、腸管からインクレチンの分泌を促進する。その後に炭水化物を食べると、すでに分泌されているインクレチンによって血糖上昇を抑制できる。

 さらに、臨床研究によって、血糖上昇を抑えるためには、「主菜(肉や魚)を食べて5分後に主食(炭水化物)を食べるタイミングが最適」という結果も出ている。この食べる順番とタイミングは糖尿病の予防だけではなくさまざまな分野での応用の可能性があると考えている。

横断的な視点で食事栄養の検討を

 高齢者を見ると、加齢によって筋肉が減少するサルコペニアの方が増加。これが原因でフレイルなどが引き起こされて健康寿命が短くなることが問題だ。サルコペニアの予防や治療には、栄養と運動が必須だ。筋肉の合成にはタンパク質とアミノ酸の一種「ロイシン」が欠かせない。

 現在、進めている65歳前後を対象とした研究によって、1食あたりに必要なタンパク質は20〜30㌘ほど、1日にすると70〜90㌘だということが分かってきた。若年層はその3分の2程度の摂取で骨格筋が維持できるが、高齢者はそうではない。合成能力も低下するので、骨格筋維持のためには摂取するタンパク質の量を増やさなければならない。さらに、毎食後、骨格筋が合成されるようにするためには、3食平均的にタンパク質を摂取する必要がある。 

 ただ、高齢者は複数の疾患を合併していることも多い。高タンパクの食事が慢性腎臓病(CKD)や肝硬変を引き起こす可能性もあるように、どの疾患を優先的に治療するかを見据えて、栄養摂取を考える「食事療法」の確立が今後は欠かせないだろう。

 すでに本学会を核に22団体による協議会も設立され、「横断的な視点を踏まえた食事栄養」について検討する動きも進んでいる。栄養学を軸に、地域と病院、病院と診療所がつながり、医療と介護が連携することを期待したい。


●招待講演
「2025年以降を見据えた医療政策の動向」
迫井 正深 氏(厚生労働省大臣官房審議官)

迫井 正深氏

激動の時代に生きる私たち 地域差も見据えて

 医療を取り巻く環境や課題について考える上で、まず三つの要素を挙げたい。「人口の構成に象徴されるように社会が大きく変化していること」「高齢化に伴ってケアのニーズが変わってきていること」「科学技術の進歩」だ。

 私たちは今、激動の時代に生きている。人口ピラミッドは、いずれ釣り鐘型になる。団塊の世代が75歳以上になる「2025年問題」もある。65歳以上の高齢者が増えていく一方で、出生率は低下し、若い人が減り、生産年齢人口が減少していく。これからの100年を考えると今はちょうど折り返し地点だ。

 地域差も、医療について考える際に問題を複雑化している。(65歳以上の高齢者人口がピークになると推計されている)2040年は一つの節目と考えられている。日本の多くの地域を占める地方都市の中には、すでに高齢者の増加という現象が始まっているところも少なくない。地域ごとに丁寧に見なければ、医療や介護の政策は成り立たない。

 医療や介護を取り巻く状況について言うと、働き手が減っているため非常に厳しい状況だ。2040年までをどう乗り切るのかというのが、今後の日本社会を見据えた一番大きな問題だと考えている。

 高齢者の方々に、元気に過ごしていただくことを願うのは当然のこととして、年齢を重ねても健康でいられる期間を延ばしていかなければならない。さらに言えば、高齢者にも「働き手」として社会に参加してもらえるようにしていきたいと考えている。

 現在進めている「働き方改革」は生産性向上のための手だての一つでもある。アメリカ、イギリス、ドイツといった国々と比較しても、日本の労働生産性は低いとされる。長時間労働の抑制、終身雇用の見直し、雇用形態の多様化などを進めていくことが求められている。

 長時間労働をしている職種で見ると、そのトップを走るのは医師。現在、見直しを進めつつあり、これからも社会全体で考えていく課題だと考えている。

高齢社会の疾患の変化 ケアのニーズも変わる

 認知症患者の増加も大きな課題だ。高齢化の進展に伴ってさまざまな疾患が増えているが、疾患の種類によって伸び方は異なっている。

 2005年から2055年までを予測・分析すると、最も増加する疾患は肺炎、心・脳血管疾患、骨折。超高齢社会では、高度ながん医療を中心とするような急性期の医療よりも、むしろ日常的な救急、例えばけがや脳血管疾患への対応が必要だと考えられる。将来に向けて、医療の姿を少しずつ変えていかなければならないということだ。ケアのニーズが変わることに伴って、医療の体制を見直し、医療サービスの中身も変化させていく必要がある。

 科学技術が進歩し、医薬品、医療機器が開発されているが、それらを活用した医療を提供するには、「それなりのお金がかかる」のが現状。社会保障費の増加についても、真剣に考え、医療を持続的なものにしていかなければならない。

地域包括ケアシステムとはご当地システム

 高齢化が進むと、「医療と介護の両方が必要だ」という認識の重要性はさらに増していく。(医療職も)医療の分野についてだけ考えるのではなく、介護とどう組み合わせていけば良いのかといった視点も持ってほしい。

 「地域包括ケアシステム」という言葉を最初に使い始めたのは、広島県の公立みつぎ総合病院で病院長を務めた脳外科医の山口昇先生だとされている。当時、術後の患者さんのケアが適切ではなかったことで寝たきりになったと知り、医療職だけでなく介護の分野の職種も加えて「寝たきりゼロ作戦」を展開。地域を巻き込んだこの取り組みが、後の「高齢者保健福祉推進十カ年戦略(ゴールドプラン/1989年策定)にもつながった。

 このように、それぞれの地域で、「ご当地システム」をつくっていくことが重要。成功の方程式はなく、むしろ、それぞれの地域に、いろいろなパターンがあって良いのだと考えている。

プロフェッショナルサービスと地域の力で

 将来、特に男性サラリーマンは非常に困難な状況に直面するのではないかと思っている。定年後、地域に知り合いがいない、外出しようにも、行き先がない。「引きこもり」になる可能性もある。

 男性を対象とした料理教室があれば、料理を作ることで楽しさを感じたり、作った料理をおいしいと思ったり、さらには友達ができたり―。好循環になって引きこもりから離脱できる可能性がある。

 この料理教室のような高齢者に対する「選択支援」と、高齢者自身がそれに参加する「アクティビティー」を組み合わせることで、相乗効果が生まれることが期待されており、そのための支援を全国の自治体にお願いしているところ。地域での取り組みが重要だ。

 地域包括ケアにおいては、医療・介護のプロフェッショナルサービスだけでなく、地域づくりも大事なポイント。最近では、植木鉢が例に使われており、葉っぱがプロフェッショナルのサービスであれば、土が生活支援といった地域の力だとされている。

社会が必要とする医療の提供が報酬評価につながる

 日本の病院の医療提供体制は、病床数で言えば7割を擁するプライベート(私立)病院に支えられている。諸外国と比較しても、特徴的だ。

 そして、各病院によって提供される医療の内容を、ニーズに合わせて調整しているのが「診療報酬」。医療提供側と厚生労働省の信頼関係を基本としており、医療者側と厚労省は、医療の長期ビジョンを見据えながら一緒に進むヨットのようなものだと考えている。

 医療者側に望むことは、患者さんの生活を中心に考える視点も大事にしてほしいということ。間違いなく医療は社会を支えているが、医療も社会から支えられているに違いない。社会が必要とする医療を提供していけば、報酬評価がつく。病院運営の厳しさもあるが、求められることをしっかりやっていけば、必ず評価されると考えている。

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