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第18回 日本トラウマティック・ストレス学会 ―トラウマからの回復と成長ー

第18回 日本トラウマティック・ストレス学会 ―トラウマからの回復と成長ー

 6月15日、16日、京都テルサで「第18回日本トラウマティック・ストレス学会」が開かれた。会長は大阪医科大学看護学部の元村直靖教授。医師や看護師のほか、臨床心理士や司法・警察関係者など、約600人が参加した。

●基調講演:
子ども虐待と脳科学 ―マルトリートメントによる脳への影響と回復へのアプローチ

友田 明美(福井大学 子どものこころの発達研究センター 発達支援研究部門)

友田 明美

 小児期に虐待を受けた経験などによって、脳の萎縮が起こることを脳画像などから明らかにしたことで注目される友田明美氏。子ども時代に虐待を受けた経験が脳やその後の人生に与える影響について、積極的に発信している。

 講演の冒頭、友田氏は、親からの暴言や暴力などに代表される「マルトリートメント(マルトリ)」について、「一般的には不適切な養育と言われているが、私はあえて『避けるべき子育て』と表現している」とスタンスを説明。

 国内で児童相談所が対応した子どもに対する虐待の件数は、年間約13万件超とした上で、「幼少期のマルトリの体験は、身体や心の健康を損なう。個人の健康の問題といった側面だけではなく、結果的に国の経済発展や社会成長を遅らせることにまでつながる」と、対策の必要性を語った。

 人の脳は、胎児期から1歳までにおよそ7割が形成される。友田氏がこれまでの研究で明らかにしたのは、暴言虐待によって引き起こされる聴覚野の肥大、性的虐待や両親のDV目撃による視覚野の萎縮など。マルトリの種類や頻度、期間などによって、脳への影響は多岐にわたり、両親間の暴力DV目撃経験よりも両親間の暴言DV目撃経験のほうが、脳に深刻なダメージを与えることを示す研究結果もあるという。

 脳のダメージは、PTSD、うつ病、自殺企図、薬物依存などにもつながる可能性がある。友田氏は「子どもの脳には可塑性という柔らかさがあり、褒め育てといった適切なケアをすれば回復する」と語り、褒めること、スキンシップをとることなどの重要性を強調した。

 「加害者だった親を非難して終わる時代ではないのではないか」と問題提起した友田氏。「マルトリは子育て困難な家族からのSOS」だと語り、母子保健、精神保健、児童福祉にかかわる職種の連携と、第三者や祖父母などとの「共同子育て」の必要性を提唱。「マルトリには、『北風』より『太陽』。親に厳しい目を向けるより、寄り添う風潮をつくることが、何よりも大事なのではないでしょうか」と訴えた。

●シンポジウム:人為災害とトラウマ:2020年東京五輪に向けて考えるべきこと
 世界各地でテロリズムが頻発する中、2020年の東京オリンピック・パラリンピックはテロなどのターゲットになり得るとされる。人為災害のトラウマケアについての講演をまとめる。

「人為災害が与える心理社会的影響」
重村 淳(防衛医科大学校医学教育部精神科学講座准教授)

重村 淳

 「日本では『災害=自然災害』と考えがちだが、世界的に見ると必ずしも当てはまらない」。そう指摘するのは、防衛医科大学校の重村淳氏だ。国内でも無差別な殺傷事件など「人為災害」がたびたび起きている。

 「人為災害の一つ『テロ』は殺人だけが狙いではなく、暴力や脅迫を使って恐怖や社会を分断、不安定化するもの。ターゲットは社会全体」(重村氏)。

 手法はさまざまで、近年はCBRNE(シーバーン)と呼ばれる化学、生物、放射性物質、核、爆発物を使った「特殊災害テロ」にも関心が高まっている。「地下鉄サリン事件」は、その代表的事例だ。

 特殊災害テロの特徴は膨大な対応が必要であること。まず現場に出る医療従事者などの身の安全のリスクが生じる。目に見えないものの場合には猛烈な不安や身体症状を引き起こし、社会的混乱も大きい。リスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、市民などで共有し、相互に意思疎通を図る「リスクコミュニケーション」の重要性も増すという。

 重村氏は「特殊災害テロではリスクコミュニケーションの原則が守られないと、社会が大混乱する恐れがある。情報は正確に迅速にそして透明性を持って十分に伝えたい。リーダーのコミュニケーション力も問われる。過熱するメディアによる二次被害もある」と語る。

 被害者に対する支援団体の関わりや連携の仕組みづくりも重要だ。「人為災害、特にテロでは、テロリストの心理的攻撃に屈しない、という社会全体の連携が重要になってくる」とまとめた。

「人為災害と精神的ケアにおける現在の課題」
高橋 晶(筑波大学医学医療系災害・地域精神医学准教授)

高橋 晶

 「テロ組織が拡散するなど世界的にテロが起きやすい状況だ」と危惧するのは高橋晶氏。グローバルテロリズムデータベースによると組織によるテロ攻撃は年間1万件以上、死者3万人以上だという。「テロが起きた場所を世界地図で確認すると、各地にまんべんなく広がり、日本にとっても対岸の火事ではない。国際テロ組織アルカイダなども日本をテロの対象としていると聞かれる」

 「過去のオリンピックを振り返ると、1972年のミュンヘン五輪、1996年のアトランタ五輪で、テロが起きている」と語り、「来年のオリンピック・パラリンピックもあり日本としてはどう構えていくかが求められる」と語気を強める。

 国内では、自然災害が起きたときの対応は「災害対策基本法」、テロに関しては「国民保護法」がもとになる。テロに対する医療現場の対策は十分とは言えない。日本赤十字社が放射線災害訓練を実施。そのほか「原子力災害拠点病院」も存在するが、未整備の県もある。人為災害に対する精神的対応も課題だ。

 さらに高橋氏は東日本大震災発災後の教訓を挙げながら、「テロが起これば、PTSDも増える可能性がある。閾(いき)値下PTSD、診断がつかない症状へのフォローも必要になってくる」と指摘。

 「人材の育成や精神科医療提供体制の構築に地域差はないか、発生後、誰がいつまで支えるのかといったことを平時から考えておく必要がある」と述べ、「マクロとミクロの視点を持って日本文化にフィットするサポート体制を考えていかなければならない」と訴えた。

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