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笑いでがん免疫向上に期待 着想は「患者の視点」

笑いでがん免疫向上に期待 着想は「患者の視点」


総長(まつうら・なりあき)

1976年大阪大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部外科留学、
大阪大学医学部保健学科教授、同大学院医学系研究科教授などを経て、2014年から現職。
大阪大学大学院医学系研究科特任教授兼任。

 「笑い」はがん治療に貢献できるか。笑いの本場・大阪らしいユニークな実証研究とその成果が大きな注目を集めている。他に例のない研究の背景には、新築移転をきっかけとした、新しい病院への「生まれ変わり」への思いがあった。

―笑いの研究とその成果は。

 2週間に1回、計8回にわたってセンター内のホールで漫才や落語の舞台「わろてまえ劇場」を開催しました。その際に、40~65歳の主に働き盛り世代のがん患者さんと、20~65歳の看護師など職員を対象にアンケート調査や血液検査を実施。「がん医療における定期的な『笑い』の提供が自己効力感や生活の質に与える効果の検証」を行いました。

 笑いを体験した人と体験しなかった人との間で差がないか検討します。ただし、笑いに来なかった人に協力してもらうわけにはいきませんので、8回のうち、前半4回を鑑賞するA群、後半4回のB群を無作為に振り分け、全ての回を鑑賞するC群を加えて比較。アンケート調査で前向きな気持ちになる「自己効力感」や生活の質の向上を示す「QOL指標」などを調べたところ、笑いを楽しんだ後では、緊張、抑うつ、怒り、混乱、疲労、活気の6因子において、改善が見られました。

 また、QOL指標では、特に痛みの症状が改善し、認知機能の向上が見られました。血液検査で「免疫機能」を調べたところ免疫を高める物質であるインターロイキン―12Bの生産能力が向上。NK細胞が1.3倍に増加した例もありました。

 1度の笑いではなく、継続的な笑いの効果を実証した研究はおそらく国内外でもこれが初めてでしょう。

―ユニークな研究の着想は。

 大阪国際がんセンターは、2017年に新築移転し、名称も「大阪府立成人病センター」から変更して再スタートしました。移転に当たっては、誰もが来たくなる明るい病院にしたいと考えました。

 がん治療の栄養療法を行う「栄養腫瘍科」の医師がメニュー監修をしているセンター内の地中海料理レストランには、近隣の方が多く訪れています。また、大阪府が所蔵する美術品などおよそ140点を各フロアに展示。さらに、センター内のホールでは在阪4大オーケストラが、入院、外来患者さん向けに、交代で月に1回公演を行っています。

 その取り組みの一環として、吉本興業、松竹芸能、米朝事務所の協力を得て、お笑いの公演が実現しました。気分が落ち込みがちながん患者さんの心が軽くなることを提供したい。そして笑いについての研究もできればと考えました。

 病院の移転というのは、古い体制から病院が生まれ変わるチャンスではないでしょうか。移転前から「患者さんのために」と言っていましたが、なかなか思うようにはいきませんでした。そこで、移転と同時に当センターの理念も「患者の視点に立脚した高度ながん医療の提供と開発」に一新。「何が患者のためになるのか」を考え、改善していくようにしました。

―今後の抱負を。

 私は外科医としてスタートし、約20年、がん治療に当たりました。残念ながら、手術が成功してもがんが再発してしまうケースが少なくない。「何とかしたい」と外科医をやめて研究の道に入りました。

 がんの治療成績は向上していますが、転移再発する患者さんは一定数おり、再び苦しい思いをしなければならない。患者さんが落ち込まないようにサポートする必要があります。

 QOLも同じです。命さえ助かればよいという時代ではなく、闘病中、退院後のQOLの向上も病院は本気で目指さなくてはいけない。患者の立場になって、工夫や発想の転換をすることで、新しい研究が生まれると信じています。

 笑いの研究について検証に取り組み、このチャレンジを続けていきたいですね。

地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪国際がんセンター
大阪市中央区大手前3―1―69
☎06―6945―1181(代表)
https://oici.jp/

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