大阪医科大学病院
南 敏明 病院長(みなみ・としあき)
1987年大阪医科大学医学部卒業。
関西医科大学客員教授、大阪医科大学病院副院長などを経て、2020年から現職。
大阪医科大学麻酔科学教室教授、学校法人大阪医科薬科大学理事兼任。
2020年4月から大阪医科大学病院のかじ取りを担う南敏明病院長。長年、麻酔科医として「痛み」をテーマに、患者に寄り添ってきた。大学創立100周年新病院建設プロジェクトも含め、注ぐ思いは熱い。
新病院建築の責任者
大阪医科大学病院では今、最新の医療設備を取り入れた新たな本館などの建設が進んでいる。これは、2027年に創立100周年を迎える大阪医科大学の記念事業の一環。これまでなかった3次救急機能も担う予定だ。「この病院が今後、どうなっていくのか。新たな病院建築ですべてが決まるほど重要な取り組みです」
副院長時代から、建築プロジェクトの責任者として力を注いできた。コンセプトは「超スマート医療を推進する大学病院」。幅広くアイデアを募ろうと、院内の医療者だけでなく、大学や系列の中学・高校スタッフなどにも呼び掛けた。「自由闊達(かったつ)な雰囲気は、うちの大きな特長の一つ。みんなが関心を持って、しっかり考えたと思います」
2016年に完成した中央手術棟は、ハイブリッド手術室やダビンチを導入した手術室など20室を備える。従来の13室から拡充。「超」緊急手術にも対応しやすい設計を施し、「24時間、あらゆる手術を断らない」医療を実践している。
「実は、プロジェクトのメインとなる本館が完成する2026年に、私は大学の麻酔科教授を退く予定になっています。私自身は新しい建物で診療に当たることはないかもしれません。だから、入院してお世話になる時をイメージして建てています」と笑う。
生まれ変わりつつある病院の長として、「適切な危機管理と迅速な対応が要。それらを〝見える化〟して、スタッフに周知することを徹底していきます」
痛みを和らげ、取り除くために
現役の大学受験は、発酵技術を学ぼうと大阪大学工学部を受けたが不合格。浪人中に医学部を志し始めた。「なぜ気持ちが変わったのか、どうしても思い出せないんです(笑)」
1年の浪人を経て地元の大阪医科大学へ。救命救急に興味があったが、当時それを学ぶ診療科がなく、幅広く学べる麻酔科を選んだ。
教室の当時の教授、故・兵頭正義先生は、早くからペインクリニックに取り組んでいた。そこに魅力を感じた。「誰であっても、痛みが続けば人格が壊れます。痛みを和らげ、取り除くことで、患者の命の予後や生活の質が変わる。大事な医療だと感じました」。長引く難治性の痛みを研究テーマとした。
一生涯、患者の人生を支え続ける
近年、身をもって「痛み」を思い知るという出来事も続いた。
5年前に帯状疱疹を発症。2019年には、腫瘤(しゅりゅう)が見つかった肺の手術を受けた。「帯状疱疹はたまらなく痛かった。『どう対処したら痛みが和らぐか』自分が経験したことで、患者さんに説明しやすくなりました」と、さらりと言う。
同年の秋、一通のうれしい手紙が届いた。数年前に椎間板ヘルニアの治療で担当した男子医学生の母親からだった。
〈息子はその後、医師の国家試験に合格、今は研修医をしています。希望する方向性を尋ねられ、「患者の生活を把握し、長く丁寧に関わるような疾患に取り組みたい。患者に寄り添える医師になりたい」と答えました。思いがけない疾患で希望を失いかけていた自分に寄り添い、学生生活を支え、人生観を変えてくれたあの先生のように―〉
「うれしかったですね。何より、治療によって、若い人がやりたいことを続けられたことが」。ライフワークである痛みの研究と治療には、「死ぬまで関わり続ける」覚悟だ。
大阪医科大学病院
大阪府高槻市大学町2-7 ☎072-683-1221(代表)
http://hospital.osaka-med.ac.jp/