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温故知新

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 2月22日、23日の2日間、京都大学大学院医学研究科器官外科学講座婦人科学産科学分野の万代昌紀教授が会長を務めた「第42回日本産婦人科手術学会/第8回日本婦人科ロボット手術学会」(会場:メルパルク京都)が開かれた。医師、看護師、臨床検査技師ら、およそ600人が参加した。



●会長講演
LACC studyから我々が学ぶべきもの
万代 昌紀 氏(京都大学大学院医学研究科器官外科学講座
婦人科学産科学分野)

 2018年に米テキサス大学が発表した「」は、早期子宮頸がんに対する根治的子宮摘出術について低侵襲手術(腹腔鏡下またはロボット支援下手術)と開腹手術の生存率を比較したところ、開腹手術の方が高いとの結果を示していた。この研究結果が婦人科手術に与えたインパクトは大きかった。がんにとって手術とは何か、といったことを考える機会になった。

 欧米では子宮頸がんのI期は手術、Ⅱ期以上は放射線治療という流れが確立している。これに対し、国内では、当教室の3代目教授、岡林秀一先生が岡林術式を開発(1928年)。これが標準術式となり、その後、技術の確立と進化が進められてきた。

 しかし、今、「LACC study」が国内の子宮頸がん低侵襲手術の進歩に、ネガティブな影響を及ぼしていると感じる。本来は、鏡視下における高い手術技術を追究し、より進行した症例への日本独自の根治性の高い手術方法を開発する方向に進むべきだが、今、そのスピードは鈍化している。

 先人は約100年前に3B期に対応できるほどの技術革新を進めた。しかし現在、私たちは後戻りしようとしているのかもしれない。海外からも遅れをとるだろう。

 そうならないためにも、先人が到達した開腹手術の技術を検証する必要がある。低侵襲に移行する価値があるものを選び、修正すべきところは修正しながら、低侵襲手術での実施が可能なものに関しては、低侵襲で実施していく必要があるのではないだろうか。

 近い将来、外科手術は急速に進歩し、低侵襲手術が基本となる時代が来るだろう。本学会でも、他診療科で進む低侵襲手術を紹介したり、ITの進歩によって新たな技術が手術学に加わったりしていることを紹介してきた。産婦人科の患者さんだけがこのような技術発展の恩恵を受けられないということがあってはならないと思う。同時に、がん治療の選択肢が多様になっている今だからこそ、手術をするメリットがあるとすれば、それを明確にし、患者さんに示したい。

 当教室8代目教授である藤井信吾先生の口癖は、「言い訳をするな」だった。自分が手術をした患者さんの治療がうまくいかなかった時、言い訳をしたくなる。浸潤があった、出血が多かった、炎症がきつかった―。たとえ、それがその通りであっても、手術をしたのであれば、「自分自身の技術が未熟だった」と外科医は思い、次につなげなければならない。それを矜持としながら手術に携わっていきたい。



●教育講演
AI技術の導入による内視鏡手術の変革

 産婦人科以外の分野の5人が、内視鏡手術を取り巻く最新の動きについて講演した。(一部抜粋)


AIがもたらす近未来の手術 AIナビゲーション手術の臨床応用
氏(大分大学医学部消化器・小児外科学講座教授)

 内視鏡手術の症例数は右肩上がり。ただ、高難度の新規医療技術を導入する際の安全性の向上が課題となっている。

 腹腔鏡下胆嚢摘出手術が国内で初めて実施されたのは1990年。現在90%の普及率となっている。日本内視鏡外科学会の報告によると術中の胆道損傷(BDI)が0・6%程度起こっている。

 私たちの教室は国内外の協力を得てBDIを研究。胆のう管や総胆管などのランドマークに対する術者の認識に違いがあり、その精度の差が要因であると突き止めた。さらに、熟練外科医の「暗黙知」に注目。彼らの症例動画をもとにAIを活用するための「教師データ」を作成し、手術の際、意思決定を補助するシステムの構築を目指している。


脳神経外科におけるスマート治療室※(SCOT)の運用
岡本 淳 氏(東京女子医科大学先端生命医科学研究所特任准教授)

 機械工学出身のエンジニアとしてSCOTプロジェクトに参画。その際、当院の手術室にあるコンピューター搭載の医療機器を数えてみると296種あった。SCOTのミドルウェアはこれらのデータの約20種を一括管理し、時間同期をして記録できる仕組みになっている。

 情報が集約されるのは約70㌅の4Kディスプレイ。ここにデバイスの情報、ステータス、画像などを表示。巻き戻し再生が可能で、術中にも情報を再確認できる。2019年の秋にHyperSCOTでの手術を開始。今後は他診療科での展開や教育コンテンツ開発も視野にある。


Augmented Intelligenceと呼吸器外科+α
氏(聖路加国際病院呼吸器外科/ロボット手術センター医長)

 検診や診断法の進歩によって、末梢肺に発生する小型肺がんの発見が増加。術中、より高い精度で腫瘍の位置を特定することが求められている。・福岡大学を中心に行われている「RFIDマイクロチップを用いた肺癌手術」の研究に関わっている。プリペイドカードなどで用いられる超小型のRFIDマイクロチップを術前に病変近くに留置。術中、チップの位置を検知し、病変の正確な位置を特定、安全な手術の実施を目指している。

 その他、院内では検査に関する説明業務にロボット「ペッパー」を活用。説明を聞く患者さんの様子を動画撮影し、その様子を分析することで、説明の理解度を検討する研究も始まっている。


VR/AR/MR/AIによる
空間的画像診断・XR手術支援・オンラインXRカンファレンス
氏(帝京大学冲永総合研究所特任教授)

 仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)を合わせたXR技術を、画像診断や手術支援などに活用するシステム「HoloeyesXRサービス」を開発した。

 検査画像は2次元(2D)だが、錯視が発生する欠点があり、術中の事故につながる可能性もある。画像を3次元(3D)に置き換えることで、手術の質を上げ、教育にも貢献したい。

 3Dにするためには、患者のCT・MRIデータをポリゴンデータ化(多角形の数値化)し、造形を構造化。これをVR空間や現実空間上に映し出す。術者の動作解析やオンラインでのVRカンファレンスも実施でき、2018年4月の発売以降国内約70の医療施設等が活用した。


内視鏡外科手術における
暗黙知のデータベース構築とAI自動認識システムの開発
伊藤 雅昭 氏(国立研究開発法人国立がん研究センター
東病院大腸外科科長)

 日本内視鏡外科学会と日本コンピュータ外科学会の協力を得て、「腹腔鏡下S状結腸手術」の動画を中心にデータを収集、管理。約1000例に及ぶ、手術のデータベースを2年ほどかけて構築してきた。

 質の良いデータをつくるため、アノテーション作業(タグ付け)を、数十万の静止画に対して行い、AIの学習には医療用画像処理の手法「セマンティックセグメンテーション」を採用。AIが90%の精度で手術工程を自動認識できるシステムができた。さらに応用を重ね、内視鏡手術の技術評価システムのプロトタイプも構築した。

※編集部注:スマート治療室=さまざまな医療機器を連携・接続し、情報を統合してモニターに表示。手術の進行や患者の状況を総合的に把握することにより、手術の精度と安全性、効率性の向上が期待される。

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