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次世代重粒子線がん治療 真の健康長寿社会へ

次世代重粒子線がん治療 真の健康長寿社会へ

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
平野 俊夫 理事長(ひらの・としお)

1972年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部教授、
同大学院医学系研究科長・医学部長、
第17代同大学総長などを経て、2016年4月から現職。

 第五福竜丸事故を機に設立された放射線医学総合研究所と、原子力の総合的な研究開発をする日本原子力研究開発機構の量子ビーム部門と核融合部門を統合し、量子科学技術研究開発機構(QST)は発足した。3年の活動を経て今年4月には新領域を設置。改革を加速させている。

―QSTの特色は。

 がんや認知症に関する量子医学・医療部門、レーザー科学研究開発などを進める量子ビーム科学部門、未来エネルギーである核融合エネルギー部門から成ります。出口はそれぞれ異なりますが、研究すべてが量子科学技術に基づいています。

 理念は「量子科学技術による調和ある多様性の創造」です。多様性はイノベーションに欠かせませんが、時に壁になります。量子科学という人類共通言語を介し、われわれの使命である量子科学技術の発展と同時に、世界の人々と共同研究をして文化の壁を乗り越え、平和で心豊かな人類社会を育むことを目指しています。

―新体制の研究の目玉は。

 「量子生命科学領域」を新設しました。分子生物学が発展し、さまざまな成果が出ているものの、いまだに生命体と非生命体の違いは分かっていません。量子レベルでの理解が根元的な疑問を解決してくれるでしょうし、得られた新たな知見で放射線生物学や生命科学を見ると、光合成や突然変異などの探究ができると期待しています。オールジャパン体制で推進するとともに、「一般社団法人量子生命科学会」を設立し、若手の参加も促しています。

 もう一つ、推進中の重粒子線がん治療装置の研究開発を加速していきます。エックス線治療では線量が一番高いのは体の表面で、がん細胞に届く線量は少ないのに比べ、重粒子線は、加速した粒子が止まるところで最大のエネルギーが放出され、線量のがんへの集中性に優れます。さらに、エックス線の3倍の生物学的効果があります。この研究は「がん死ゼロ健康長寿社会」の実現につながるものです。

―「がん死ゼロ健康長寿社会」とは。

 「原発腫瘍塊制御」「転移巣制御」「免疫機能温存」「免疫機能活性」によって〝がん死ゼロ〟を、「QOL維持」「経済性」によって〝健康長寿〟を実現する社会です。

 私は12年前に第1期の肺がんを経験しました。今、重粒子線なら1日で治療できるので入院は必要ありません。しかし当時、左肺の60%を切除する手術をし、3カ月大変な思いをしました。これまでの医療は5年生存率が高ければ良い治療とされてきましたが、QOLの維持もできて初めて、良い治療と言えると実感しました。

 重粒子線治療はこれらの点で優れていますが、転移には対処できません。われわれが開発した標的アイソトープ治療のほか、分子標的薬、必要に応じて免疫治療も組み合わせることで、〝がん死ゼロ〟に近付くのではないかと考えます。さらに、QOLの維持に加え、誰もが恩恵を受けられるような経済性を担保して初めて「社会」が成り立ちます。

 重粒子線がん治療装置1号機となるHIMACは、非常に大きいのがネックです。最新の装置でも小さくなったとはいえ、テニスコート大。導入には建物から建てなければならず、150億円近く必要です。

 現在、国内6カ所で稼働していますが、がん患者の0・2%しか治療できていないのが実情です。

 また、肺がん1期なら1回で治療を終えることができますが、すべてのがんがそうではありません。より高い性能も必要です。

 そこでわれわれは、これらの問題をクリアにするため、次世代重粒子線がん治療装置「量子メス」の開発にも取り組んでいます。世界を「がん死ゼロ健康長寿社会」に。そのために、これからも歩んでいくつもりです。

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
千葉市稲毛区穴川4−9-1
☎043-382-8001(本部代表)
https://www.qst.go.jp/

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