新型コロナウイルス感染症(COVID―19)拡大の影響で、オンライン診療が関心を集め、広がりを見せている。厚生労働省は4月、閣議決定の同感染症緊急経済対策を受けて、電話や情報通信機器を利用する「オンライン診療」を、初診も含めて可能とする時限的・特例的緩和策を打ち出した。一方、日本医師会は「今回は非常事態の下、感染防止、医療崩壊を避けるための特例で、収まり次第、対面診療に戻すべきだ」と主張している。
感染拡大に伴い希望機関・患者が増加
厚労省は同省サイトで、電話や情報通信機器による診療に対応する医療機関リストを公開。すでに1万5000以上の医療機関が掲載されている。

情報が得られ、医師にとってのメリットも大きいという
オンライン診療の医療機関向けアプリケーション事業を手掛ける企業の担当者は「4月、5月で1500件以上の申し込みがあった」。特に、東京、神奈川、大阪など都市部での引き合いが増加し、内科、小児科、精神科で取り組みが増えているとする。
京都市内で不妊専門クリニックを経営する田村 秀子 院長は、2015年からオンライン診療を実施。COVID―19の広がりと共に、オンライン診療を希望する患者が増加し、4月、5月は「通常の約10倍になった」という。
オンライン希望の背景に「対面」への不安
「今回の緩和は、COVID―19に対応する手段を講じたという意味で、患者さんにとって良いものだったと思います」と、黒木春郎・日本遠隔医療学会オンライン診療分科会会長は語る。
特例策では、電話や情報通信機器を通じた初診を含む診療と、服薬指導が可能になった。患者が「病院で感染するのでは」との不安を抱いて受診を避ける動きもあったが、対面でなく受診できれば、その必要もない。
オンライン診療が広がる背景には、患者、医療機関双方の不安がある。病院団体などによる複数のアンケート調査でも、感染拡大の影響による対面診療のリスクを恐れ、受診を控える患者の行動変容が顕著に現れた。また、医療機関側も院内感染のリスクから患者受け入れを断るケースが出ている。
急速で大幅な緩和に「利点損ねる」と危機感も
厚労省は2020年4月以降、オンライン診療を実施する医師に対し、定められた研修の受講を必須としているが、今回の特例に伴い、一時的にその制約を緩和している。「患者が減ったのでオンライン診療を始めようという医師もいる。患者側も、オンライン診療はどんな疾患、状況であろうと可能だと誤解しているのではないだろうか」と、黒木会長は急速な緩和による影響を危惧する。
日本プライマリ・ケア連合学会は5月20日、同学会サイトで「プライマリ・ケアにおけるオンライン診療ガイド」を発表した。「オンライン診療は、ビデオ通話機能のある情報通信機器を用いた診療で、電話診療とはまったく異なる」と明記。電話も含めて大幅に緩和された非対面の診療を「時限措置のオンライン診療」として用語を使い分けた。「大幅にオンライン診療が緩和されたという誤解を生じさせ、本来の利点を損ねてしまう恐れがある」とガイド公開の狙いを同学会は強く訴える。
外来に比べ低い診療報酬拡大の鍵は加算

2018年の診療報酬改定でオンライン診療料が初めて盛り込まれたが、外来診療よりも点数が低く抑えられ、収益面でのメリットはほとんどない。保険対象となる疾患も、生活習慣病などと制限がある。
今回の時限的措置では、現行にない初診料も認められた。今後の普及のためには「保険点数の増加と疾患の制限をなくすことが必要だ」と黒木会長はいう。田村院長は「緩和によってなし崩し的にオンライン診療が広がり、悪用されるようなことがあってはならない。慎重に進めてほしい」と訴える。