埼玉医科大学国際医療センター
佐伯 俊昭 病院長(さえき・としあき)
1982年広島大学医学部卒業。
国立病院機構四国がんセンター、米国立がん研究所、
埼玉医科大学国際医療センター副院長・包括的がんセンター長などを経て、
2019年から現職。
がん・心臓病の高度専門医療と、脳卒中を含む高度の救命救急医療の提供に特化する埼玉医科大学国際医療センター。佐伯俊昭病院長は就任にあたり、同センターが理念として掲げる「患者中心の医療」をいかに具現化するかと考えた。そのための取り組みを早くも始めている。
「患者中心の医療」は実現するのか
病院長に就任したのは今年4月。埼玉医科大学国際医療センターが掲げる、「患者中心の医療の提供」という基本理念と向かい合い、ふと違和感を抱いた。「病院が患者さんのためにあるのは当たり前。理念として強調しないといけないのか」と。
研修医だった約40年前は、徒弟制度の下で学ぶ時代だった。「患者さんはおろか、医師看護師間のコミュニケーションもなかった」
時代は変わり、多くの医療機関が患者中心を理念に掲げ始めるが、医療界全体を含めて、それが実現できているのだろうか。「当たり前を強調しないとならないのが医療界全体の現実だ」と、もどかしさを感じずにいられなかった。
同センターはスローガンに「Your Happiness is our Happiness」を掲げている。その具現化の一つとして、2015年には国際的な医療機能評価のJCI認証を取得。佐伯病院長は当時副院長であったが、医療の安全と質に対してグローバルスタンダードに十分に達していることが証明され、診療への自信にもつながったと言う。
「アメリカから来院された評価委員長の方から、審査の最後に『ここは、私の家族にも安心して治療を受けさせられる病院だ』と言っていただけました。これはすごく重みのある言葉です。この病院であれば、患者中心の医療が実現できると確信できました」
終末期患者の希望をかなえる地域連携を
ただ「患者中心の医療に完成形はない」と真剣な表情を見せる。特に、包括的がんセンター長を務めていた経験から、終末期と患者中心の医療をどうつなぐかが喫緊(きっきん)の課題と捉える。
「今はさまざまな治療があるので、人生の最期を在宅であったり、地域の医療機関であったり、ある程度患者さんの希望に応えることが可能になってきています。しかし、患者さんのニーズに寄り添える、真の地域連携が実現しなければ、良い医療を提供することはできません」
現実では、1対1の連携はあるが、地域全体でのコーディネートはできていない。「こういう患者さんがいます」と発信すると、地域の医療機関から手が挙がるようなネットワークやコーディネーターの存在が必要と訴える。「行政機関との協力も必要ですが、頼るばかりではなく、私たち自身で、取り組まなければならないと思っています」
医療は人と人とのつながりの中にある
病院長になった今、「若手の育成」も誓う。包括的がんセンター長時代に感じたのは、がんのプロフェッショナルは育てたいが、がんしか知らない医師は育てたくないということ。
特に伝えていきたいのは、医療は人と人とのつながりの中で提供するものであり、患者さん一人ひとりが、医師が育つための教科書であるということ。
「治療にはガイドラインがありますが、そこですべての答えが分かるわけではありません。まずは、患者さんそれぞれの問題や希望に耳を傾けること。慣れないうちは時間も労力も使いますが、若い医師には非常に勉強になると思います」
患者中心の医療を実現するには、きちんと患者に向き合える医師の育成も欠かせない。「完成形が何かと問われると難しいですが、Your Happiness is our Happinessのために進み続けていきます」
埼玉医科大学国際医療センター
埼玉県日高市山根1397—1 ☎042ー984ー4111(代表)
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