九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

必ず風向きは変わる 今は踏ん張るとき

必ず風向きは変わる 今は踏ん張るとき

済生会福島総合病院 井上 仁 院長(いのうえ・ひとし)
1973年福島県立医科大学医学部卒業。同第一外科(現:肝胆膵・移植外科)助教授、
公立岩瀬病院副院長などを経て、2006年から現職。

 「これから、きっと若い医師たちが支えてくれる時代に向かう。それまでは踏ん張り続けなければ」。いまだ消えない東日本大震災の影響。井上仁院長の言葉から「今」をお伝えする。

―現状を。

 東日本大震災、そして福島第一原発の事故の発生によって県外への転出が増加し、福島県の人口は大きく減少しました。震災前がおよそ202万4000人で、現在は185万人。

 若い方々の流出が目立ち、高齢化を加速させる大きな要因となっています。当院を受診する患者さんたちの傾向を見ても、高齢者の割合が高まり、疾患の構成も急性期から慢性期へとシフトしつつあります。当院としてもこの変化に対応していくために、9月に地域包括ケア病棟の開設を予定しています。

 福島を離れた人の中には、当院を含めて市内の各医療機関に勤めていた医師や看護師も多く含まれています。ただ、ここ中通りのエリアでは、近年、少しずつではありますが、看護師たちが戻ってくるケースが増え始めています。

 医師の確保に関しては、いまだ厳しい状況が続いています。特に眼科や耳鼻咽喉科、産婦人科など常勤の医師が1人、あるいは少人数体制の診療科については福島県立医科大学のサポートを得て、なんとか維持している状況が続いています。

 悩みは尽きませんが、これから風向きが変わるのではないかと期待しています。福島県立医科大学の入学定員は2010年度の時点で105人。医療の復興に対する国の後押しもあって段階的に定員の増加が承認され、130人にまで拡大されました。

 卒業後に福島県に残りたいと希望する学生たちの声も多くなっていると聞いています。近い将来、若い医師たちが活躍してくれるでしょう。ですから今は、我慢の時期です。

―力を入れているのは。

 一つは、呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患、糖尿病・内分泌疾患と、内科系の診療科がカバーする領域が幅広いことが特徴だと思います。

 私の専門分野である外科には、6人の常勤医がいます。消化器の疾患が中心で大腸がんの症例を多く受け入れていることが特徴。皮膚・排泄ケア認定看護師がいますので、術後のストーマの管理なども十分な対応が可能です。また、小児外科出身の医師も在籍しており、多くはありませんが鼠径ヘルニアや虫垂炎の治療も行っています。

 また、福島県立医科大学まで距離にしておよそ6㌔㍍、車で十数分。連携を図りやすい立地にあることも強みだと思います。

―震災で得たことは。

 2016年、院内保育所「なでしこ保育園」を開設しました。震災後の混乱が続いていた中で「子どもを預けることができないため勤務できない」という看護師がいました。「連れてきてもいいからなんとか来てくれないか」と頼み、職員がみんなで子どもの面倒を見たこともありましたね。

 この経験から、やはり保育所が必要だと認識したのです。結果的に今、看護師の離職率の低減や、新たな人材の獲得にもつながっていると思います。

 井戸を掘ったことも震災の教訓がきっかけです。近隣の医療機関の設備がダメージを受けたため、多くの透析患者さんを当院が受け入れることになりました。しかし、断水は1週間続き、透析に必要な水が不足。自衛隊や企業の協力によって水をピストン輸送し、しのぐことができました。現在、井戸と水道水を活用する体制です。

 避難生活などの影響で福島県民の生活習慣病の割合が高まっているとされ、当院でも予防指導や教育入院を強化しているところです。丸8年が過ぎても震災の影響はボディーブローのように効いている。私たちにできる医療を、着実に続けていきたいと思います。

社会福祉法人 恩賜財団済生会支部福島県済生会 済生会福島総合病院
福島市大森下原田25
☎024─544─5171(代表)
http://www.saisei.ecnet.jp/

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