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当事者の声と共にゲノム医療を構築

当事者の声と共にゲノム医療を構築

岡山大学病院 臨床遺伝子診療科 平沢 晃 診療科長(ひらさわ・あきら)
1995年慶應義塾大学医学部卒業。
東京医科歯科大学難治疾患研究所遺伝疾患研究部門(分子細胞遺伝)、
フィンランドアカデミー上級研究員、慶應義塾大学医学部婦人科専任講師などを経て、
2018年から現職。

 ゲノム医療分野において岡山大学病院では、2018年9月に「がんゲノム医療外来」と「遺伝カウンセリング外来」から成る「臨床遺伝子診療科」をスタートさせた。遺伝子に着目した最先端の知見を、今後臨床の場でどう生かすのか。同科をけん引する平沢晃診療科長にお話を伺った。

―臨床遺伝子診療科の役割とは。

 当院は中四国地域でがんゲノム医療の中核を担う「がんゲノム医療中核拠点病院」。当科には、治療を目的とした「がんゲノム医療外来」と、がん予防を目的とした「遺伝カウンセリング外来」の二つの外来があります。

 「がんゲノム医療外来」は、主にがんの標準治療を終えた患者さんを対象に、遺伝子変異情報を調べて、個々のゲノム情報に基づく薬物治療を行います。

 「遺伝カウンセリング外来」は、主にがん家系の方を対象に、遺伝と遺伝性の病気に対する疑問や悩みに寄り添いながら、正確な情報を提供。当事者が、それに基づいた対処法や治療法を自己決定することをサポートします。がんの5~10%が遺伝性のがんであり、治療と予防には密接な関係があるため、双方から患者さんを診る当院の体制は意味があると思っています。

―日本初のリスク低減乳房切除術を経験されています。

 海外の有名な女優さんが2013年にリスク低減乳房切除術(RRM)、その後、リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)を施行して有名になりました。われわれは2008年に、日本で最初のRRSOを行いました。

 乳がんや卵巣がんの発症と関連性があるのがBRCA1/2という遺伝子で、手術を行ったのはこのBRCA1遺伝子の病的バリアント(変異)を有する方でした。お姉さんが腹膜がんで入院しており、また血縁者には乳がんや卵巣がんの患者さんもいました。遺伝カウンセリングの後、遺伝学的検査を実施した結果、BRCA1の病的バリアントが見つかりました。そこで「海外ではリスク低減手術を行うことがある」とお伝えしたところ、ご本人が強く希望されたのです。

 今でこそRRSOは多くの婦人科施設で行われていますが、当時の日本では、がんのない体にメスを入れる手術は、手術的にも倫理的観点からも未踏の領域でした。そこで病院の倫理委員会にこの件をはかり、約半年間で3度の再審査を経て、手術が実現したという経緯があります。

 手術をするかどうか決めるには、正確な情報提供が必要です。たとえば、最近のデータではBRCA1病的バリアントを保持した女性の約72%、BRCA2の約69%が80歳までに乳がんを発症すると推定され、BRCA1病的バリアントを保持した女性の約44%、BRCA2の約17%が80歳までに卵巣がんを発症するとされています。

 こうした方々の術後のQOLをさらに向上できるよう努めていきたいと考えています。遺伝情報による治療・予防分野はデリケートな問題を抱えるため、遺伝カウンセリングが重要な意味を持ちます。そこで、今年4月に遺伝カウンセラーを4人増員。

 岡山大学病院では、定期的に遺伝性乳がん卵巣がん当事者会「クラヴィスアルクス中央西日本支部」を実施しています。またPPI(患者・市民参画)活動として、当事者から診療や研究で使用する説明同意文書についての意見をもらっています。

 BRCA1/2の病的バリアント保持者は、一般集団の200~500人に1人の割合と言われており、岡山県だと約3800~9500人と推定できます。

 遺伝子診療による予防介入により、がん死軽減効果は大いに期待できます。市民への啓発活動や当事者との連携が欠かせません。遺伝情報は本人や家系の問題であるだけでなく、地域や医療圏、さらには世界の医療の発展にも直結します。そのためにも、今後もゲノム医療の発展に貢献していきます。

岡山大学病院 臨床遺伝子診療科
岡山市北区鹿田町2―5―1
☎086―223―7151(代表)
http://cgm-okayama-u.jp/

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