高知大学医学部泌尿器科学講座 井上 啓史 教授(いのうえ・けいじ)
1989年高知医科大学(現:高知大学医学部)卒業、1994年同大学院卒業(医学博士)。
米テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターリサーチフェロー、
高知大学医学部附属病院骨盤機能センター部長などを経て、2016年から現職。
排せつ障害の診療を専門とする「骨盤機能センター」は、超高齢社会を見すえて国立大学病院をリードするかたちで生まれた。また2017年開設の「光線医療センター」は「光線医療の核を担うハブ施設」を目指し、存在感を高めている。高知大学が展開する意欲的な取り組みに携わる泌尿器科学講座・井上啓史教授に、最前線を聞く。
―「骨盤機能センター」の役割を教えてください。
当センターは、2008年に尿失禁、便失禁といった排せつ障害を専門的に診療する部門として開設されました。
便や尿が漏れてしまったり、また女性に特有の子宮脱が起こったり。これらは骨盤の中にある臓器の機能に関連していることから、名称は「骨盤機能センター」としました。開設した当初は骨盤のゆがみの矯正など、整形外科領域の部門だというイメージを持つ方もいらっしゃったようです。
そこで当センターの存在の周知も含めた啓発活動の一環として、年に一回、市民向けの公開講座を開催しています。今年も6月に「女性に特化した泌尿器疾患」というテーマで予定。亀田総合病院(千葉県鴨川市)から骨盤臓器脱や尿失禁の専門の先生が参加します。
この取り組みをスタートさせてから当センターへの理解も少しずつ深まり、手術の件数も増加しました。背景には、尿失禁などに対する受診や手術への抵抗感が弱まってきたことが挙げられると思います。
ただ、まだ「恥ずかしくて行きづらい」と感じている方が多いのも事実だと思います。少しでもそのハードルや不安を和らげ、より良い治療の選択肢を提示できるよう努めていきたいと考えています。
―この4月に「光線医療センター」が開設2周年を迎えました。
新聞などの各メディアに取り上げていただく機会もありましたので、5─アミノレブリン酸(5─ALA)を用いた光線力学診断(PDD)は、高知県内ではすでにかなり認知されていると感じています。
全国的にもPDDを活用している施設は、保険適用の前が20カ所ほどだったのに対して、適用されて1年余りで300施設にまで増加しました。もはや、スタンダードな医療として広がりつつあるのではないでしょうか。
5─アミノレブリン酸を服用し、青色可視光(375 ─445nm)を当ててがん細胞を赤く光らせるというのが光線力学診断です。同じ原理で、赤色可視光(600─740nm)や緑色可視光(480─580nm)を当てることで、がん細胞を消失させる光線力学治療(PDT)の研究も進めています。
レーザーで焼く治療とは異なり、熱を発するものではありません。また、放射線治療のように回数の制限もありません。婦人科の分野では、すでに子宮頸がんで治験が進んでいます。6割近くの患者のがん細胞に効果があったと報告されています。
―泌尿器科領域ではいかがでしょうか。
腎盂尿管腫瘍に対する応用への準備を進めているところです。この治療法を確立できれば、患者さんにとって負担の少ない、優しい治療の選択肢の一つになると期待しています。
5─アミノレブリン酸は診断、治療に加えて、がんスクリーニングにおける腫瘍マーカーとしても注目されています。5─アミノレブリン酸を服用した際に、健康な人は胆汁によって便として排泄されます。
がんがある人の場合は、尿中から腫瘍の存在を示す代謝物が検出されることが分かりました。この手法を健康診断などに取り入れることができれば、尿検査だけでがんの有無を調べることが可能になります。身体的な負担が軽減されますし、医療費の抑制にもつながるのではないかと考えています。

高知大学医学部泌尿器科学講座
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