熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学講座
大場 隆 准教授(おおば・たかし)
1985年熊本大学医学部卒業。米ペンシルバニア大学医学部産婦人科、
熊本大学大学院医学薬学研究部産科学分野助教授などを経て、2010年から現職。
がん治療や周産期医療、生殖医療など、産科婦人科医療の幅広い領域に取り組む熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学講座。講座の特徴や新型コロナウイルス感染症の対応について、大場隆准教授に聞いた。
―講座の特徴は。
熊本県内では唯一の医療系大学、大学病院です。周産期、生殖医療、婦人科腫瘍、更年期治療など、幅広い領域におけるハイリスクの患者さんへの対応が求められます。いずれも、高い専門性を持つスタッフがおり、中でも婦人科腫瘍は、片渕秀隆教授を中心にして基礎研究や臨床研究にも手厚く取り組んでいます。
産科婦人科学は、病気だけでなく、人の生き方全般や生活の質に深く関わってくる領域です。例えば、生殖機能の面から見た妊娠適齢期、ホルモンバランスからの生理不順や更年期障害、骨粗しょう症の問題など、科学的な正しい知識を地域の皆さんに知ってもらうことも大切です。
そのためには、医療者が大学の中だけにいてはいけません。教授をはじめ、講座スタッフが高校での出前講座や市民公開講座に出向き、分かりやすく情報発信をするよう努めています。
地元行政と連携した研究も大切です。近年では、県の協力を得て、妊婦の生活習慣と低体重出生に関する疫学研究を実施。妊婦の歯科検診の公費負担や生活指導など、県の早産予防事業の展開に結びつきました。
―新型コロナへの対応は。
県内の関係医療機関全体で向き合う課題です。私は、産婦人科医や小児科医などでつくる熊本県周産期医療協議会の会長を務めており、コロナ禍での妊婦診療の方針づくりに関わりました。
問題の一つは、妊婦が妊娠に関わること以外の症状で受診した場合の対応です。平常時ですら、妊婦が風邪で内科などを受診した際に「妊婦の診療はよく分からない」と断られるケースがあります。そのため今回、2次医療圏の感染症指定医療機関に「肺炎などの症状がある妊婦の受診は、断らないで診てください」とあらためてお願いしました。
もう一つの問題は、お産です。PCR検査陽性や抗体陽性だけで無症状の妊婦など、低リスクのケースは、「各2次医療圏の産科がある感染症指定医療機関でできる限りお産を完結させてください」とお願いしました。熊本市内では新型コロナ陽性の妊婦は、熊本市民病院が中心となって受け入れることになっていますが、県内から一極集中で集まってくると対応できなくなるためです。
高リスク妊婦で市民病院での受け入れが難しい場合は、熊本赤十字病院、そして熊本大学病院が対応します。シミュレーションはしていますが、幸いなことにこれまでのところ、差し迫った状況にはなっていません。
ただ、県内で新生児集中治療室(NICU)があるのは、市民病院と大学病院だけ。実際、5、6月にかけては、市民病院をサポートするため、大学病院が妊婦の救急搬送を重点的に受け入れました。
コロナ禍の妊婦診療の方針は6月に公表しましたが、県内の医療現場での混乱もなく、仕組みはうまく回っていると思います。
―講座が地域で果たすべき役割とは。
県内の各医療機関に産婦人科医を送り出している立場です。ただ、産婦人科医は全国的にも漸減しており、高齢化も進んでいます。今は産婦人科のある2次医療圏の医療機関には原則、複数の常勤医師を配置できていますが、医療体制のさらなる充実、そして医療者の労働環境改善のためには、一人でも多く、良い人材を育てなければなりません。
まずは学生の関心が高まるよう、幅広い領域から専門を選べる楽しさや、他の診療科にはない出産や不妊治療といった「新たな命の誕生」に携わる魅力が伝わる機会を増やしていきたいと思っています。

熊本大学大学院生命科学研究部 産科婦人科学講座
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☎096─344─2111(代表)
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