地方独立行政法人 奈良県立病院機構 奈良県西和医療センター
土肥 直文 院長(どい・なおふみ)
1987年奈良県立医科大学医学部卒業。
総合大雄会病院、奈良県立医科大学救急医学助手、同第1内科学助手、
奈良県西和医療センター副院長兼循環器内科部長などを経て、2020年4月から現職。
奈良県西和医療圏の中核病院として、圏域約34万人に対し、高度で特色ある診療を提供している奈良県西和医療センター。2020年4月、院長に就任した土肥直文氏に、病院運営について聞いた。
コロナと戦い続ける
2020年5月下旬から同センター駐車場に、新型コロナウイルスの感染に不安を持つ住民の診察を行う、発熱外来クリニックを開設している。診察室4室、救急処置室2室、レントゲンやCTなどの医療機器のほか、スタッフルーム、事務室、PPE着脱室なども備え、1日20人以上の診察が可能となった。
「西和医療圏は奈良県で最も西側に位置し、大阪の会社や学校へ通う住民が多く、感染拡大には大変敏感です。住民が求める早期診断・早期治療の橋渡しを行うほか、院内に最大47床まで拡大できる軽・中等症患者の病棟を確保し、県からの要請に応じて入院診療にも当たります」
重症患者は大学病院などに転送していたが、受け入れ先が逼迫(ひっぱく)したため、12月中旬から専用のICUを臨時に設置し、対応を開始している。
「当センターに設置する、ECMO(体外式膜型人工肺)を使用した重症患者の治療も視野に入れています。住民のためにやれることは、全てやる覚悟です」
カテーテルに魅せられて
岡山県津山市生まれ、大阪府門真市育ち。父親は消化器外科医だ。「下町の開業医でした。深夜、シャッターをたたく音がして、外から『先生、すぐ診てくれ』と叫ぶ声が聞こえると、父はかばんを抱えて飛び出して行きました」
大学進学を前に、建築家と医師のどちらの道を歩むか迷った。「父の姿が潜在意識にあったのか、結果的に医師を選びました。循環器内科を志した理由は、1980年代から90年代はじめにかけて脚光を浴び始めた、急性心筋梗塞のカテーテル治療に魅せられたからです」
当時、急性心筋梗塞で閉塞した冠動脈を再開通させる方法は血栓溶解薬だけだった。閉塞した冠動脈にワイヤーを通過させてバルーンで拡張すると見事に再開通し、患者の予後が劇的に改善することに興奮したという。「シミュレーターがない時代。先輩医師のテクニックを見て学ぶしか方法はなく、私を含めカテーテル治療を目指す若手医師は、あらゆる機会を捉えて手術に立ち会い、手技を目に焼き付けました。その後、数え切れないほどトレーニングを繰り返し、自分のものにしてきたのです」
同センターの前身、奈良県立三室病院に循環器内科部長として着任。カテーテル治療で業績を上げるとともに、不整脈治療分野の若手医師を育成した。この実績は、全身の循環器疾患を各診療科の枠を超えて治療・研究する「集学的循環器病治療センター」の開設につながった。2014年から稼働し、圏域を越えて信頼を集めている。
目指す三つの方向
今後の病院運営で重視するものは三つ。一つは医療安全。「カテーテル治療を含め、医療は必ずリスクを伴います。これを限りなくゼロに近づけること。普通に歩いて入院してきた人は、治療後に全員普通に歩いて退院できるようにする、これが最大の目標です」
二つ目は、役割を果たすこと。「救急や災害医療など各医療分野で、果たすべき私たちの役割というものがあります。発熱外来クリニック開設もその一つ。住民の期待がどこにあるのかしっかり把握し、ニーズに応えていきます」
そして人材育成。「優れた教育システムを持つ病院には優れた人材が集まります。人材不足の解消を目指して、ハイレベルな教育システム構築に取り組みます」
地方独立行政法人 奈良県立病院機構 奈良県西和医療センター
奈良県三郷町三室1ー14ー16 ☎0745ー32ー0505(代表)
http://seiwa-mc.jp/