独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター 久保 俊英 院長(くぼ・としひで)
1984年岡山大学医学部卒業。岡山大学医学部附属病院(現:岡山大学病院)小児科、
岡山市立市民病院小児科部長、岡山医療センター特命副院長などを経て、
2019年4月から現職。
2003年に小児科医長として着任した久保俊英医師が、今年4月に院長に就任した。長年、特に成長障害を専門に取り組んできた久保院長に、これまでの事例を踏まえ、小児医療との向き合い方や今回の就任に当たっての抱負を伺った。
―成長障害がご専門ですね。
小中学校では、学校教育法に基づいて身長と体重の計測を毎年行っていますが、標準の成長曲線の一番端の枠外に出てしまう子や、枠内であっても通常の成長パターンと異なる動きを見せる子がまれにいます。
こうした場合、一般的には成長ホルモンの分泌に問題があったり、脳腫瘍や心臓の病気が隠れているケース、染色体の異常、ストレスなどが原因として考えられます。ところがその中に、実は家庭環境の変化や虐待といったケースが隠れていることがあるのです。
成長曲線を見ることで、病気だけでなく、さまざまな問題を発見する糸口にもなります。そのために、まずは学校側の養護教諭を窓口として、その有用性を広く理解してもらえるよう努めていきたいと思っています。
また小児肥満の分野にも携わっています。小児肥満はご家族を含めて適切な栄養管理が必要であり、生活指導が主となる分野と言えます。私が岡山唯一の小児肥満を専門とする医師ということもありますが、一般の病院では採算的に難しい領域です。公立病院だからこそ取り組むべきだと捉えています。
―子どもの虐待対策にも携わっていらっしゃいます。
以前、当院に骨折で入院してきた子どもの虐待が発覚し、保護につながったケースがありました。
この事例がきっかけとなり、病院において、どのように子どもの虐待を発見し、適切な対応につなげていくべきか。それらをまとめた岡山県で初めての「虐待対策マニュアル」の作成につながったのです。
その後、岡山県児童虐待対策協議会を立ち上げました。岡山大学病院や基幹病院の小児科部長をはじめ、行政とも一緒になって事例検討会や特別講演会を開いています。資金が少ないながらも、県医師会をはじめ、ご理解いただいた製薬会社にも協力をいただきながら、活動を広げています。
―医療者に必要なことは?
疑問を持つ姿勢だと思います。学んだことを鵜呑みにするのではなく、常に「なぜ?」と考えることではないでしょうか。先ほどの虐待の例で言えば、風邪で来院した子どもの体にあざがあったり、服が妙に汚れていたりといったことも、「なぜ?」という視点があれば、サインを見逃さずに済みます。
また専門性や資格だけを追求するのではなく、柔軟性を持って、さまざまな引き出しを増やしておくことも大切だと思います。
―院長として今後の抱負を。
職員満足度100%の病院を目指しています。というのも、患者さんに質の良い医療を提供するには職員に楽しく働いてもらう必要があるからです。昨年は、病院の雰囲気を明るくするため、小児系マスコットキャラクター「さにーちゃん」を誕生させました。
これは、「マスコットを用いることで、療養環境がどのように変わるか」という看護研究の一環として導入しました。大変な治療の中であっても、入院中の子どもはもちろん、外来の子どもたちも、さにーちゃんと会えるのを楽しみにしてくれているようです。また、手術の際には、一緒に手術室までさにーちゃんが付き添って励ましたりといった試みも行っています。
今後は地域の人々の高齢化など、ニーズの変化にも対応していきたい。教育面では引き続き地域の医療レベルを引き上げる役割を果たしつつ、職員が働きやすい病院づくりに努めて行きたいと考えています。

独立行政法人国立病院機構 岡山医療センター
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☎086―294―9911(代表)
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