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子ども、そして親の代弁者となる小児科医へ

子ども、そして親の代弁者となる小児科医へ

慶應義塾大学医学部小児科  教授(たかはし・たかお)
1982年慶應義塾大学医学部卒業。
同小児科学助手、米ハーバード大学、マサチューセッツ総合病院留学、
慶應義塾大学医学部小児科学助教授などを経て、2002年から現職。

 「子どもは本来寡黙であり、思ったことを言わないものであり、だからこそ小児科医が子ども、さらには親の代弁者となるべきだ」と言う高橋孝雄教授。著書『小児科医のぼくが伝えたい最高の子育て』などを通して、悩める親へのメッセージも積極的に発信している。小児科医のあるべき姿について伺った。

―小児科医の役割とは。

 小児科医の役割は、「代弁者」という言葉に尽きます。もの言わぬ子どもの代弁者、子育てに悩む親の代弁者なのです。一般に、代弁者とは本人に代わって第三者が影響力をもって発信することを言いますが、小児科診療における代弁者の役割は少し異なります。

 自分の症状をはっきりと言える子どもはほとんどいません。その子どもの立場になって、どこがつらいのかを聞き出し、「こういうことなんだね?」と、本人に返してあげる。子どもの言葉から思いをくみ取り寄り添うことが、小児科医が代弁者として果たすべき役割なのです。特に、虐待を受けている子どもは、決して言葉で表しません。心の中では、親に大切にされていないことをすべて自分のせいだと思っているのです。そうした子どもの思いをくみ取って両親に告げるのも小児科医の仕事です。

 親もまた、子育てなどさまざまな不安を抱えています。それを小児科医が「不安な理由は、こういったことですか?」と寄り添うことで、親を救うことができ、一方で子どもも親の思いを知ることができます。これこそ真の代弁者と言えるでしょう。代弁者であることは小児科医のアイデンティティーであり、小児科医はここからスタートすれば、どんな医療を提供すべきか間違うことはない。そう確信しています。

―医学生に伝えたいことは。

 私も若いころは病気しか診ていなかった時期があります。「子どもの様子がおかしい」という訴えに対して、診察や検査値だけに注目して診療してしまった経験があります。そうした苦い経験があったからこそ、親の話を信頼すること、子どもの立場になって一緒に感じることの大切さを、若い小児科医に伝えなければならないと思っています。

 医学生には、特に次の二つを話しています。一つは、30年、40年と長く熱意を持ち続けられる診療科を選ぶこと。熱意がない医師の話は説得力がなく、安心してもらえる医療を提供できないと考えています。

 もう一つは、経験こそが説得力のある医師をつくるということ。これは、臨床経験がない学生には伝わりづらいかもしれませんが、難しい診断や手術がうまくいったといった成功体験の数よりも、失敗したときに「お母さんに申し訳ない」と謝ることや子どもに「ごめんね」と言える経験を重ねる方が、深みのある医師につながることを知っておいてほしいのです。

―日本小児科学会の会長として、今後の展望は。

 現在、日本小児科学会の会員は約2万3000人。毎年500~600人の小児科医が登録しています。小児科医のなり手が少ないと言われていますが、毎年これほどの熱意のある小児科医が誕生しているわけですから、小児科医も捨てたものではありません。

 この熱意ある小児科医に応えるべく、学会としては、若い小児科医を育て、生涯ずっと教育を受けられるシステムを構築していきたいと考えています。

 学会は小児科医の代弁者でもあるわけです。小児科医の声に耳を傾け、声を発していく必要があります。そして、小児科医が子どもを育て、親の心を救う心優しい代弁者であることを、広く知っていただくための活動にも力を入れていきたいと思っています。

慶應義塾大学医学部小児科
東京都新宿区信濃町35
☎03─3353─1211(代表)
http://pedia.med.keio.ac.jp/

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