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医療と法律問題68 ~腸閉塞見逃し~

医療と法律問題68 ~腸閉塞見逃し~

九州合同法律事務所  弁護士 小林  洋二

 前回に続いて、緊急に受診したのに何もしてもらえず、帰宅後に亡くなったというケース。今回は、腰背部痛です。

 その日、Aさん(69歳男性)午前7時ごろに起床しました。朝食後、いつもの薬(抗血小板薬等)を服用した頃から、突然、腰背部痛が発生しました。とりあえず湿布を貼ったものの、その痛みは和らぎませんでした。

 奥さんは、そのようなAさんの様子を気に掛けながらも、歯科医院の予約を取っていたことから、いったんは外出しました。しかし、その歯科医院に、「病院に行きたいので帰ってきてほしい」とのAさんからの電話が入り、予約をキャンセルして、急ぎ自宅に戻りました。

 病院に向かうタクシーの中で、Aさんは二度ほど胃液様の物を嘔吐しました。

 Aさんは救急外来の受診を希望しましたが、その日はたまたま交通事故の急患が複数あり、Aさんは、神経内科に回されました。もともとAさんは脳梗塞の既往があり、この病院の神経内科を受診していたのです。

 しかし、Aさんの診療に当たったB医師は、神経学的所見によって脳梗塞の再発を否定し、腹部の触診及び聴診によって消化器疾患を除外しただけで、「ロキソニンと湿布で様子を見て下さい」と指示してAさんを帰宅させました。CTか、MRIかできちんと調べる必要はないでしょうかというAさんの訴えは無視されました。

 Aさんは、帰宅後も何度か嘔吐を繰り返し、最終的にはこの日の午後11時頃、嘔吐した後、意識を失いました。救急車が自宅に到着した時には、Aさんは既に心肺停止状態であり、搬送された病院で死亡が確認されました。死亡後に撮影されたCTで、約5・5㌢大の腹部大動脈瘤(りゅう)と後腹膜血腫が認められ、死因が大動脈瘤破裂であることが分かりました。

 奥さんや看護師の証言からすると、Aさんの腰背部痛は運動痛ではなく、安静時痛であったものと思われます。突然発症の腰背部痛、かつ安静時痛であれば、大動脈解離、大動脈瘤破裂又は切迫破裂といった大血管の疾患を除外することは必須です。しかも、救急外来の問診票には、「血圧70〜80台」という問診結果が記載されていました。病院で測った血圧は115/69でしたから、これは自宅の血圧計で測ったものと思われます。この一時的な血圧低下は、自宅で既に腹部大動脈瘤が破裂していたことを示唆するものです。B医師が診察した時点のAさんの状態は、破裂による出血が後腹膜腔にとどまって一時的に止まった状態(クローズド・ラプチャー)であったものと考えられます。

 この事件は訴訟になり、一審では遺族側が敗訴しましたが、控訴審では、B医師は腹部大動脈瘤破裂を疑って、腰背部痛の発症様式、性状を問診し、腹部CTを撮影すべきであったとして遺族側の逆転勝訴となりました。

 大動脈解離、大動脈瘤破裂または切迫破裂は、見逃しがそのまま死亡につながる疾病であり、この連載では第40回と第41回で解離の症例を報告しました。

 主張や証言の内容からすると、B医師は、腹部大動脈破裂の患者はたちまち出血性ショックに陥るものであり、循環動態や意識が保たれた状態で病院に来るという状況を頭から想定していなかったようです。この事件を教訓にして、二度と同じような失敗を繰りかえさないことを願いたいと思います。

■ 九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1―10―2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
☎092─641─2007

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