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医療と法律問題66 ~胃瘻による胃壁穿孔~

医療と法律問題66 ~胃瘻による胃壁穿孔~

九州合同法律事務所  弁護士 小林  洋二

 何回かにわたって、手術に関連する医療過誤の報告を続けてきました。本件も、ややそれに近い事案です。

 Aさんは、当時44歳の男性です。19歳のころの交通事故で胸髄4~5以下の対麻痺となり、ほぼベッド上の生活を余儀なくされていました。また前年には視床出血を起こして左上肢麻痺の障害も加わりました。しかし、意識状態や知的能力にはなんの問題もありませんでした。

 そのAさんが、食欲不振を主訴としてB病院を受診(受診後の経過はいろいろあるのですが本稿のテーマには直接関連しないので省略します)、担当医はこれを視床出血の後遺症による嗅覚変化によるものと判断して、栄養補給の目的で胃瘻(ろう)を造設しました。

 胃瘻が造設されて10日目あたりから、Aさんは左肩の痛みを訴えるようになりました。

 胃瘻造設から約2カ月後、胃瘻チューブが逸脱し、再挿入が行われました。再挿入されたチューブから栄養剤が投与された後、Aさんはこれまでにないような左肩の激痛を訴えました。

 担当医は、左肩のレントゲン撮影を実施して異常がないことを確認、ボルタレン坐薬を挿入しました。しかし、Aさんの肩痛はやまず、この日の深夜から翌朝にかけて、Aさんは頻繁に看護師を呼んで肩痛を訴えています。

 翌朝10時30分には、Aさんは顔色不良、口唇チアノーゼ、倦怠感あり、末梢冷感あり、収縮期血圧60、脈拍数140という状態になっていました。血液検査ではCRP16という強い炎症反応がみられ、腹部CTではフリーエアがみられました。

 胃穿孔疑い、腹膜炎との診断で開腹手術が行われたのはこの日の午後4時ごろからです。胃後壁に直径約7㍉の穿孔が生じており、腹腔内には多量の混濁した腹水が貯留していました。この手術中、Aさんは心停止を来たし、蘇生措置により心拍は再開したものの、術後も意識は回復せず、植物状態となってしまいました。

 第7胸髄以上の脊髄損傷患者の場合、内臓病変からの刺激は腹部には投影されず、知覚麻痺のない部分に関連痛として出現することが知られています。特に、胃穿孔では、肩甲間部から肩峰部への激痛を生じるとされており、この部位の疼痛は上位脊髄損傷患者の急性腹症において大きな診断的価値があるとされています。

 Aさんの胃穿孔は、胃瘻カテーテル先端部による圧迫壊死によって起こったものです。最終的に穿孔を生じたのは、再挿入の際だと思われますが、左肩疼痛の経過からは、かなり以前から、カテーテル先端部による胃壁の圧迫が続いていたと思われます。

 胃瘻造設後まもなく発生した左肩の疼痛から、腹部の病変を疑って内視鏡検査をしていれば、胃壁圧迫による潰瘍を発見し、カテーテルを、胃壁を圧迫しないタイプに変更する、抗潰瘍剤を投与するといった対策が可能だったのではないかと思われます。

 さらに、再挿入後の左肩の激痛に対するB病院の対応は的外れとしかいいようがありません。Aさんが脊髄損傷患者であり、痛みの出方が健常人と異なることを、担当者はまったく分かっていなかったようです。

 本件では、もともとベッド上生活の脊損患者が植物状態になった場合の慰謝料算定のありかたが大きな争点となりましたが、最終的には訴訟上の和解で解決しています。

■ 九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1―10―2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
☎092・641・2007

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