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医療と法律問題65 ~肺血栓塞栓症~

医療と法律問題65 ~肺血栓塞栓症~

九州合同法律事務所  弁護士 小林  洋二

 前回に引き続き、術後の経過観察が問題になった事案。

 B病院で脊椎側弯症の手術を受けたAさん(40代女性)が、呼吸苦を訴えるようになったのは、退院も間近に迫った術後14日目の朝でした。

 午前9時ごろ、「今日はきつくて酸素が足りない感じがします」、午後1時ごろには、「きつくて歩けそうにありません」との訴えがカルテに記載されています。また、顔色不良、両手指蒼白、手先冷感といった症状もありました。経皮的動脈血酸素飽和度は90%台前半を推移し、1分間120~130という頻脈もみられました。

 翌日は、やや持ち直しますが、息が荒いことが看護師によって観察されており、1分間120~130の頻脈もありました。

 翌々日、Aさんは、ナースコールで看護師を呼び、「30分くらい前から息が苦しくて」と訴えました。顔色、口唇色不良で、酸素飽和度は87%、脈拍数は116でした。酸素投与により、酸素飽和度95~96%程度で経過中の午後7時ごろ、排便後に呼吸状態が増悪、酸素を増量しても酸素飽和度が保てない状態となり、午後7時30分心停止、午後9時30分ごろに死亡が確認されました。

 B病院の死亡診断書には、直接死因は呼吸不全、その原因は気管支喘息であると記載されています。しかし、Aさんには気管支喘息の既往はありませんでしたし、最後の日には、メプチンの内服やアイミロールの吸入が行われたにもかかわらず、それが奏功せずに呼吸状態が悪化したのです。

 裁判での主張のやりとりのなかで、死亡原因は気管支喘息ではなく、肺血栓塞栓症である可能性が大きいということを、B病院は認めました。

 わたしが弁護士になった30年前には、この肺動脈血栓症という病気は非常に珍しい病気だとされていたように思います。欧米人にはよくあるが、日本人には少ないという話も聞いたことがあります。

 しかし、20年ほど前に、「エコノミークラス症候群」として広く知られるようになり、診断例も激増しました。増加の原因として、食生活の欧米化や、社会の高齢化といった要因が挙げられることもありますが、それまで的確に診断されていなかっただけではないかとも思われます。

 本件でも、解剖がなされていないため、肺動脈血栓症であったのかどうか、確定的にはわかりません。病院側の対応に疑問を抱いた両親が、医療事故調査を依頼しなければ、気管支喘息による死亡で終わっていたものと思われます。

 詳細に説明するには紙幅が足りませんが、Aさんは腰椎手術後というだけではなく、肥満等、肺血栓塞栓症のリスクをいくつも抱えていました。そういったAさんに、突然、何の誘因もなく呼吸困難が起こっているのですから、担当医としては、肺動脈血栓症の可能性を考えて、動脈血ガス分析やDダイマー検査などを行うべきだったのではないでしょうか。

 2017年8月に医療事故調査・支援センターが発表した「急性肺血栓塞栓症に係る死亡事例の分析」は、入院患者の急性肺血栓塞栓症の発症リスクを把握し、急性肺血栓塞栓症は「急激に発症し、生命を左右する疾患で、特異的な早期症状に乏しく、早期診断が難しい疾患」であることを常に意識するよう提言しています。

■ 九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1―10―2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
☎092・641・2007

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