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医学の概念に疑問を持つ 常に患者のための研究を

医学の概念に疑問を持つ 常に患者のための研究を

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 神経病学講座 脳神経内科・老年病学
教授(たかしま・ひろし)

1990年鹿児島大学医学部卒業。
米ベイラー医科大学分子人類遺伝学教室留学、
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経病学講座神経内科(現:脳神経内科)・
老年病学助教などを経て、2010年から現職。
同大学病院脳・神経センター脳神経内科・診療科長兼任。

 2019年11月、国内初の感染確認が報告された「サル由来Bウイルス」の遺伝子解析検査を行った鹿児島大学大学院医歯学総合研究科神経病学講座脳神経内科・老年病学チーム。これまでも、注目を集める研究発表を続けてきた。その講座を率いる髙嶋博教授は、2020年1月で教授就任10周年を迎えた。

─教授就任10周年です。

 教授となった頃、新臨床研修制度がすでに始まっており、医局員の確保が大変だったことを覚えています。できることは医学生に、脳神経内科に興味を持ち、好きになってもらうこと。結果的に、この10年で合計50人ほどが入局しました。

 就任直後に、従来のDNA型配列解析装置に比べて低コストで、迅速なゲノム解析が可能となる次世代シークエンサーを導入できたことも大きかった。それまでも独自にコンピューター解析に取り組んでいましたが、解析装置の進歩は、遺伝子検査に大きな変化をもたらしました。2018年に発表した新しい症例概念である「軸索型ニューロパチーを伴う脊髄小脳変性症」、長年取り組んできた遺伝性末梢神経障害の一つ「シャルコー・マリー・トゥース病」の原因の究明など、数々の発見に結びついています。

 ブレイクスルーとなったのが、2015年に世界で初めてとなる「古細菌感染による脳脊髄炎」の発見です。それまでは古細菌が疾患の原因であるとの認識どころか、存在すらも認識されていませんでした。認知症のような症状がある患者さんの病態を掘り下げ、原因をつきとめた結果で、治療にも成功しています。

 2019年11月28日に正式発表された「サル由来Bウイルス病」の遺伝子検査も鹿児島大学で行っています。海外でも50例ほどしかなく、日本では初の報告例となりました。

 知られていない病原体が原因不明の病気を起こしているのです。これまでの常識ではかれない病気があることを、改めて実感しました。

─HPVワクチン接種後の多様な症状に悩む患者の治療にも注力。

 原因不明の病気があった場合に、ストレスなどの「心因性」と判断することが少なくありません。実はその中に、脳の免疫性が原因の病気が混在していることが分かってきています。

 子宮頸がんを予防するHPVワクチン接種後に起こる不随意運動、記憶障害といった症状も、心因性と言われ続けてきました。しかし、私は「自己免疫性の脳炎である」と診断。今でも重い症状を抱えた患者さんが、東北や関東から来られます。さまざまな免疫抑制治療の結果、薬の必要もなく生活できる患者さんも、たくさんいらっしゃいます。

 足が上がらないのに歩けることがあり、その矛盾から心の問題と思われるのかもしれません。しかし、足を上げる動作と歩く動作、この二つの動作の脳のプログラムが異なっているだけではないのか。

 パーキンソン病では、歩行がすくみ足になっていても、通路に補助線を引くと歩けることがあります。パーキンソン病なら認められているのに、若い女性患者の場合は思春期の問題で済ませてしまうのは、どうなのかと疑問に感じます。

 交通事故の後遺症でも同じことが起こっています。事故直後は症状がなかったのに、1カ月後になって不調が出てくる。これも検査によっては明らかに異常が見つかるのですが、これまでは心因性疾患として判断されています。

 長い間、信じられてきた医療の概念を変えていくのは至難なことです。しかし、考えを変えなければ、患者さんを不幸にしてしまいます。今後は、心因性疾患の中に潜んでいる自己免疫性脳炎のメカニズムを証明することを、ライフワークにできればと思っています。

─医局について。

 医局としての信念は、患者由来の研究(Patient-oriented Research)です。つまり、患者さんから発生したことを診療して、研究することにあります。地域の、目の前にいる患者さんを病気から救うための研究が、私たちのやるべきことだと思っています。

 「これまでの概念に、疑問を持つこと」。医局のスタッフには、この私の信念をしっかりと伝え、理解してもらっています。医学は時代によって変化しています。歴史や教科書が正しいことばかりでないことを、認識していかなければ、医学の発展はないと思っています。

 2020年、鹿児島で日本神経感染学会総会を開催します。ポスターに使った桜島の写真は私が撮影しました。2021年には、医局が50周年を迎えます。これを機に、他大学に赴任され活躍されている当大学出身の教授陣に、ぜひ母校に戻って話をしていただければと思っています。また、地域連携でつながりのある病院の先生方にも、鹿児島の医療の将来に向けての話をしていただければと構想を練っているところです。

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 神経病学講座 脳神経内科・老年病学
鹿児島市桜ケ丘8―35―1
☎099―275―5111(代表)
https://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~intmed3/

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