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切除困難ながんを手術可能なところまで

切除困難ながんを手術可能なところまで

  肝胆膵外科学分野 田邉 稔 教授(たなべ・みのる)
1985年慶應義塾大学医学部卒業。米ピッツバーグ大学移植外科留学、
慶應義塾大学医学部外科学教室准教授、同大学病院一般・消化器外科副診療部長などを経て、
2013年から現職。

 高難度で大きな手術に挑戦しながら、より安心で安全な治療法を追求し続ける。肝胆膵外科の権威、田邉稔教授に話を聞いた。

―肝胆膵外科学教室の特徴や取り組みは。

 特徴の一つは低侵襲治療、腹腔鏡下手術です。当院は、腹腔鏡下手術においては国内のリーダー的存在。この5月にILLS2019(国際肝臓内視鏡外科学会)を私と上尾中央総合病院の若林剛先生とで主催し、世界中のオーソリティーの先生たちが東京に集まります。これは、当院が腹腔鏡下の肝胆膵手術において先進的なことをやっているという一つの証と言えます。

 二つ目は膵臓に関して。消化器外科の中で高難度手術の一つとされている膵頭十二指腸切除を腹腔鏡下手術で行うことができる、数少ない認定施設です。

 今、「コンバージョンサージャリー」という一つの潮流があります。これは、手術不能と思われた局所進行がんを、集学的治療により縮小させ、手術可能なところまでもっていくというものです。

 世界各地で試みがなされているこの治療法に、現在われわれも取り組んでいます。当院では切除不能局所進行膵がん25例に放射線化学療法を行った結果、10例が手術可能となり、そのうち8例が生存しています。

 現時点では、まだ数年の観察期間ですが、少なくとも数カ月の命とされた切除不能膵がん患者にこれだけの成績を提示できるようになったのは、大きな進歩といえます。

 三つ目の特徴として、神経内分泌腫瘍(NET)外来があること。2011年、日本初の専門外来としての開設以降、全国から多くの患者さんが集まり、2019年3月現在では累積525例と日本一の診療数となっています。

―今の田邉教授を形作ったものとは。

 外科医として中心になる仕事は、やはり「病気を切除して治す」こと。医療技術は日々進歩しているので、次にこういう技術が発達しそうだという兆しがあれば、世界各地に学びに行きました。

 私がピッツバーグ大学に留学した当時、世界初の肝移植を行ったトーマス・スターツル教授のチームが年間630例という史上最多の肝移植を行っていました。まさに肝移植の創生期であり、世界中から多くの外科医が学びに来ていました。

 私は移植免疫の基礎研究に勤しむ一方で、病棟や手術室に通い、移植患者の経過を自分の手帳に書き留めながら、手術や周術期の管理方法を学びました。その後も世界中の病院を機会があるごとに訪問し、腹腔鏡下手術や凍結手術など、多くの新しい治療を学びました。このような経験と知識の積み重ねが現在の私をつくっています。

―人材育成で最重要視していること、外科医としての理想像は。

 人材育成で一番重要なことは、チャンスを与えるということ。やる気があって能力がある人間には、できるだけ数多くの手術を実践で学べるチャンスを提供したい。それが私の役割だと思っています。

 理想的な外科医は「人を見て、病気を診る」こと。患者さんを人としてちゃんと見て、手術はチームでやっているという全体像が見えること。そして、育つべき自分の部下たちに目を向けられることです。

 一人の人間ができることは限られているので、いかに臨床医、研究者との人の輪を広げるかも重要です。

 私が講義でいつも言うのは「行動が次のチャンスをつくる」ということ。例えば学会に行くにしても自分の発表が終わったから終わりではつまらない。もう1日学会にとどまり、有名な先生をつかまえて鋭い質問をし、病院見学の約束を取り付けるくらいの積極性を持ってほしいと願っています。


東京医科歯科大学大学院  肝胆膵外科学分野
東京都文京区湯島1―5―45
☎03―3813―6111(代表)
http://www.tmd.ac.jp/grad/msrg/

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