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出産に対する強い思いに「子宮温存」の術式で応える

出産に対する強い思いに「子宮温存」の術式で応える

札幌医科大学医学部産婦人科学講座  教授(さいとう・つよし)
1986年札幌医科大学医学部卒業。仏世界保健機関国際癌研究機構留学などを経て、
2006年から現職。

 「教室の伝統は患者さんに負担が少ない治療を提供すること」と語る齋藤豪教授。その低侵襲な手術は高い評価を受け、全国トップクラスの手術件数につながっている。妊孕(よう)性を重視し子宮温存する手術「腟式トラケレクトミー」にも注目が集まる。

―2020年、教室は70周年を迎えます。

 私が5代目教授で、伝統的に婦人科腫瘍に強い教室です。中でも悪性腫瘍の手術の症例数は全国トップクラス。札幌市外からお越しになる患者さんも少なくありません。代々の教授が推進してきた低侵襲手術は、私のモットーでもあります。がんの手術では、がんの克服と機能の温存の両立を常に考慮しています。

 「おなかに手術の傷跡を残したくない」と望む方は多いでしょう。術後の回復の度合いに関しても、開腹手術と比較して、鏡視下手術は格段に良好です。医師が低侵襲な手術を行う際に費やすエネルギーは相当なものです。術中の集中力を維持するためにも日ごろのトレーニングを欠かすことはできません。

 本学では、カダバー(ご遺体)を使ったトレーニングが可能です。年に2回ほど、主に若手の教室員を対象として実施しています。鏡視下手術では高度な手技が求められます。貴重なカダバーでの経験は、手技の向上に貢献しています。

―高難度術式「腟式トラケレクトミー」に取り組んでおられます。

 子宮頸がんは、子宮の出口にできるがんです。ガイドラインではステージに応じた術式が推奨されており、ⅠA2期以上は子宮全摘出術が標準治療だとされています。近年、子宮頸がんの治療において、かつてとは異なる課題が生じています。その背景にあるのは、子宮頸がんの発症年齢がここ10年ほどで若年化の傾向にあること。そして、女性が出産する年齢が上昇していることです。

 「子どもを生みたいので子宮を摘出したくない」というⅠA2期以上のがん患者さんの強い願いに応えるために、当教室では2003年ごろから、ⅠB1期のがんまで子宮を温存できる「腟式トラケレクトミー」に取り組んでいます。

 腟式トラケレクトミーは子宮頸がんに対する外科的治療の一つです。病巣のある子宮頸部を周囲の組織も含めて切除します。腟式トラケレクトミーを実施するには、非常に高度な技術が必要です。当教室が長年にわたって積み重ねてきた「腟から病巣を見て手術をする経験」を発揮して、この術式に取り組んでいます。

 欧米では腟式が中心ですが、国内では腹式での手術が多いようです。腟式で行っているのは、限られた施設だけだと思います腹式が多く実施されるのは解剖学的に「日本人は腟式に向かない」という考え方が根強いからです。しかし、腟からがんを切除する方が、侵襲の面では圧倒的に負担が少ないのです。妊娠率についても当教室の実績では、希望する方の およそ6割が術後の妊娠に至っています。

―妊娠を希望する患者のニーズが高いのでは。

 遠方だと、関東方面などからお越しになる方もいます。子宮を温存したいと望んで、さまざまな医療機関を探した末に「ようやくたどり着きました」とおっしゃる方もいます。

 また、妊娠中に子宮頸がんが見つかる患者さんもいます。これまで、赤ちゃんが子宮にいる状態で腫瘍を切除したケースも5例ほどあります。「なんとか子どもを産みたい」という患者さんがほとんどです。

 がんの手術における「妊孕性の温存」という問題と向き合う中で、女性の出産に対する思いを強く感じています。これからも、患者さんの希望に応えていける教室づくりを目指したいと思っています。

 
札幌市中央区南1条西16─291
☎011─611─2111(代表)
http://web.sapmed.ac.jp/gyn/

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