富山大学医学部整形外科
川口 善治 教授(かわぐち・よしはる)
1988年富山医科薬科大学医学部(現:富山大学医学部)卒業。
スウェーデン・イエテボリ大学研究留学、
富山大学附属病院整形外科診療教授などを経て、2019年から現職。
富山市西部に位置する呉羽丘陵。この緑豊かなエリアに医学部、薬学部、附属病院の建物が並ぶ富山大学杉谷キャンパスがある。2019年9月に就任した川口善治教授は、整形外科初の同大学出身だ。どのような教室運営を行うのか、注目が集まっている。
どんな山でもいい頂上を目指せ
他大学出身教授が続いた富山大学整形外科。3代目で初めて富山市生まれ、富山市育ち、富山大学出身の川口氏が教授に就任した。
「教育、研究、診療の三つをリードする役割が教授にはあります。就任の意味を深く受け止め、私は教育に力を注ぎたいと考えています。これまで以上に学生を大切にし、どこへ出しても恥ずかしくない立派な教育者、研究者、臨床医に育て上げます」と、川口教授は力を込める。
研究や診療についても〝川口色〟を前面に出す。「医者は、目の前の患者さんから常に新しい情報を得られる立場にあります。だからこそ、その中から今まで知られていなかった新しい事実を見いだし、論文にまとめて、世に問う医者であってほしい。学生には、立山でも富士山でもエベレストでも、どんな山でもいいから頂上を目指して研究に励み、頂点を目指せと伝えています」
一方、診療は地域の信頼があってこそ成り立つものだと言う。「信頼に足る診療の実践、信頼に足る人材の育成に突き進んでほしいと思います」
局所所見を目の当たり外科手術に魅せられて
川口教授は小売り酒屋を経営する両親の間に生まれた。小さい頃から配達など手伝いをよく行い、人と接することが苦にならない性格の少年に育った。「子どもの頃から算数や理科の勉強が好き、人と接することが好きな自分の性格を生かせる医者に憧れ、医学を目指すようになりました」
整形外科を選択した理由は二つの発見があったからという。「患者さんの悩みに真摯(しんし)に耳を傾け、治療の道筋をつけて共に努力する。そして、悩みを解決できた時に見せる患者さんの笑顔の中に、医者としての喜びと充実感を発見したからです」
もう一つは手術の魅力だ。MRIやCTなどの検査で術前診断を行うが、それは影にすぎない。手術に臨み、局所所見を目の当たりにし、治療の手応えをじかに感じることができる。そこに外科医としてのやりがいを発見したという。
危険な落とし穴もある。「自分が治したという思い上がりです。医者として貢献はしたが、回復はあくまで患者さん自身の力。このことは学生にも口を酸っぱくして言い聞かせています」
整形外科教室の合言葉は〝YKK〟
川口教授は、後縦靱帯骨化症(OPLL)を研究テーマにしている。背骨にある後縦靱帯が骨化して脊髄を通る神経を圧迫する難病で、さまざまな運動障害や感覚障害を引き起こす。
「日本人に多発する理由は、疾患感受性遺伝子と呼ばれる発症に関わる原因遺伝子を持つ人が多いからと言われています。ただし、持っていても必ず発病するとは限らず、食べ物など後天的要素が関係しています。骨化した靱帯を消失させる薬の開発など、低リスクな治療法の確立を目指していますが、いつ実現できるか分かりません。私の後輩を含め次世代の研究者に託すことを想定し、研究と並行して資料のとりまとめなども行っています」
医師として今後も大切にしたいことは〝YKK〟だと言う。「Yは患者さんに『優しく』、Kは自分自身と学問に『厳しく』、もう一つのKはみんなが一丸となって『協力』すること。この〝YKK〟は当教室の合言葉にもなっています」と、笑顔で語った。
富山大学医学部整形外科
富山市杉谷2630 ☎️076-434-2281(代表)
http://www.med.u-toyama.ac.jp/ortho/ortho/