東京大学医学部眼科学教室 相原 一 教授(あいはら・まこと)
1989年東京大学医学部卒業。米カリフォルニア大学サンディエゴ校
緑内障センター留学、東京大学医学部眼科学教室准教授、
四谷しらと眼科副院長などを経て、2015年から現職。
現在、日本で失明原因の第1位となる緑内障。緑内障治療の鍵となる眼圧のメカニズムがいまだ解明されない中、研究を続ける眼科界のトップランナー、相原一教授に話を聞いた。
―東京大学医学部眼科学教室の特徴や取り組みは。
当教室は、昔から眼科をリードしてきましたが、特に、多分野にわたってバランスよく患者さんを診ることができるところが特徴です。
眼科はサブスペシャルティの学会が幅広く存在し、一つの大学ですべてを網羅することは難しいのですが、当院は、特に重篤な疾患に関して、各専門外来が充実している。多くの専門外来を持っている大学の一つだと思います。
取り組みとしては、私の代になってから診療体制を大幅に変えました。病診連携を充実させ、特に重篤な疾患を中心に診ることを目標としました。以前は担当医制でしたが、専門外来制にし、グループ診療にすることで診療効率を高めました。また、患者動線を見直し、待ち時間を半分に減らしました。
病棟に関しては、入院期間を短くしてベッド数を減らし、病棟の回転率を上げました。さらに週に2回だった手術日を毎日に変更。その方が臨時手術の対応もしやすく、入院患者数も分散されるので看護師の負担も減りました。
このような取り組みを3年ほどかけて行いました。診療効率を良くしたことで時間に余裕が生まれ、以前は時間外に実施していたカンファレンスや会合、研究の時間を就業時間内にも取れるようになりました。
また、学生教育にかける人員も確保できました。人が足りない今、若手医師にいかに大学に残ってもらうか。それにはやはり働きやすい環境を整えることが重要なのです。
―大学病院としての役割や後進育成の教育方針を。
大学病院としての役割は高度医療の提供と、診療・教育・研究を行うことです。当院には、他分野と連携しやすい環境が整っており、優秀な先生も多数在籍。共同研究に適した環境だと思っています。
昨年、名古屋大学と当大学の研究グループとの共同研究により、科学技術振興機構(JST)のImPACTプログラムの研究成果として、緑内障手術用眼球モデル「バイオニックアイ」を開発しました。従来、目の手術教育は非常に難しいものでしたが、これによってよりリアルな手術のシミュレーション教育が可能になりました。
教育方針としては、自分で何がやりたいかを見つけ出してもらうこと。後進には、好奇心や探究心などを持って日々診療することが大事だと伝えています。研修医の教育においてはマニュアルの充実を図ること。そして、学会に行くチャンスを広げること。就業2年目に、国際学会に連れていくことにしています。世界の眼科医がどのようにしているかを知ってもらい、視野を広げるためです。
―専門分野の緑内障については。
緑内障の治療法は、長年「眼圧を下げて進行を抑制する」というコンセプトのままです。ただ、手術に関しては、技術の進歩により低侵襲でできるものが増えました。
当院はMIGS(低侵襲緑内障手術)に関連した治療を積極的に行っています。点眼薬に頼りきりにならず、手術を早く受けた方が結果的にコストも低い場合も、多くあるのです。
私が特に力を入れている研究は「眼圧を制御しているものは何か」を解明するもの。生理活性脂質の中のリゾリン脂質に注目していて、それが、おそらく眼圧を上げる方向に関わっているのではないかと思っています。今、興味深いことがわかってきていて、新しい目薬の開発を進めています。
眼圧は、まだ謎が多い。なおかつ、生きているモデルでないと実験もできません。とても研究しにくいだけに、チャレンジングでおもしろいですね。

東京大学医学部眼科学教室
東京都文京区本郷7―3―1
☎03―3815―5411(代表)
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