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健康長寿の社会づくり 脳アミロイド血管症を研究

健康長寿の社会づくり 脳アミロイド血管症を研究

熊本大学大学院 生命科学研究部脳神経内科学講座
井上 泰輝 特任助教(いのうえ・やすてる)

2004年熊本大学医学部卒業。
済生会熊本病院脳卒中センター、国立循環器病研究センターなどを経て、
2017年から現職。

 ニュースなどで取り上げられるアルツハイマー病の発症要因となるタンパク質「アミロイドベータ」は、脳出血などを起こす脳アミロイド血管症という病気の発症要因でもある。その脳アミロイド血管症の研究で、2019年度日本医師会医学研究奨励賞など、数々の賞を受賞している井上泰輝特任助教に、病気の概要と現在の研究について話を聞いた。

―脳アミロイド血管症とは。

 タンパク質の一種であるアミロイドの中にはいくつか種類があり、その中のアミロイドベータは、最初は単量体ですが、次第に凝集し、線維のナイロンのようなものになります。「アミロイド線維」とも呼ばれ、難溶性で、全身のさまざまな臓器に沈着し、機能障害を引き起こします。

 アミロイドが原因となる疾患を「アミロイドーシス」と言います。脳内で起こるアミロイドーシスの一つ脳アミロイド血管症は、脳の血管にアミロイドがたまり脳出血などを引き起こします。同じ脳のアミロイドーシスであるアルツハイマー病の実に90%が、脳アミロイド血管症を発症しています。

 アミロイドベータは脳内で産生され、血管を通して脳の外へ排出されます。しかし、加齢によって排出されにくくなり、やがて脳の血管に沈着し、脳アミロイド血管症を引き起こします。脳血管にアミロイドが沈着するのが、脳アミロイド血管症、脳の神経細胞に沈着するのがアルツハイマー病です。

―治療法は。

 アルツハイマー病は病気の全容が解明されていませんが、脳アミロイド血管症も同様に研究段階で、予防や治療法は未確立です。私は脳アミロイド血管症に関心を抱き、10年近く診療と研究に携わっています。研究では、健常者と脳アミロイド血管症の患者さんの脳血管組織から網羅的にタンパク質のデータを取り、コツコツ一つずつタンパク質の違いを調べました。

 その中で解糖系酵素が患者さんの脳血管に多く共存していることが次第に分かってきました。アミロイドは単量体で分泌されるのですが、次第に凝集し、溶けにくいアミロイド線維になっていきます。この過程で解糖系酵素を添加すると、アミロイド線維ができにくくなることを見つけました。解糖系酵素がアミロイド線維そのものを「分解」しているのか、線維になることを「阻害」しているのかについては、まだ分かっておらず、現在も研究を進めています。

 もう一つ驚いたことに、脳アミロイド血管症に罹患(りかん)したマウスの脳に、解糖系酵素を7日間ゆっくり連続投与したところ、脳そのものにダメージを与えることなく、認知機能が改善しました。研究段階ですが、これには大きな可能性を感じました。

―今後の目標は。

 私は、医師である以上、病態の解明はもちろんですが、患者さんにとって有効な治療法を早く確立させたいと思っています。ただ、新薬の開発は治験などに膨大な時間がかかります。

 そこで、既存薬または治験は終わっていても世に出ていない薬などから、脳アミロイド血管症に有効な薬を見つけ出していくドラッグ・スクリーニングと呼ばれる方法も取り入れていきたいと考えています。何千、何万もの種類の薬から、有効なものを探し出すことは非常に大変な作業ですが、実現したいと思います。

 アルツハイマー病と脳アミロイド血管症は、表裏一体の病気です。逆に言えば、脳アミロイド血管症の研究がアルツハイマー病の解明につながるかもしれません。

 脳神経の病気は患者さんご本人だけでなく、ご家族や介護者の精神的な負担になり、ひいては社会的な損失にもつながります。高齢化社会において健康長寿を目指した社会づくりの一翼を担うことは、研究の大きな目標の一つです。

熊本大学大学院 生命科学研究部脳神経内科学講座
熊本市中央区本庄1―1―1
☎096―344―2111(代表)
http://kumadai-neurology.com/

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