九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

他科との連携を見据えて自立した医師を育てる

他科との連携を見据えて自立した医師を育てる

山口大学大学院医学系研究科  中川 伸 教授(なかがわ・しん)
1990年金沢大学医学部卒業、1998年北海道大学大学院修了。
米エール大学留学、北海道大学病院准教授などを経て、2017年から現職。

 超高齢社会を迎え、総合病院や身体科の病院でも精神科医療のニーズは高まっている。山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学講座ではどのように医師の育成や臨床、研究に取り組んでいるのか。

―次世代の人材育成、教育に力を入れていますね。

 教育の根幹、基本は大学にあると思っています。大学病院は患者数に対して医師が多いことが特徴の一つですので、教育を積極的に担っていかなくてはならないと考えています。

 まず、山口大学は学部3年に「自己開発コース」として半年間自由に研究を行うカリキュラムを設けて、大学全体で研究マインドを育てようとしています。それを利用すれば、学生のうちからマウスを使った基礎研究や人を対象にした臨床研究などに触れられます。

 ポリクリ(病院実習)、クリニカル・クラークシップ(クリクラ:臨床参加型実習)では、学生にも予診をしてもらいます。臨床では、カルテにどんな項目がどう並んでいるかが、実は重要です。予診・本診後に学生にカルテをまとめてもらい、それを添削した最終的なカルテを学生にフィードバックしています。

 また、精神科の患者さんと社会がどのようにつなが っていくかを知るため、作業所見学などの学外研修も行っています。

 基本的な精神科の臨床を盛り込んだポリクリ、クリクラの実習内容は、手引きとしてまとめており、学生の声を聞きながら常に改訂しています。

 他診療科を目指す短期研修医に対しても手引きを作成し、せん妄や不眠などリエゾン精神医学を中心に教えています。短期間ですべてを教えることはできませんが他科医師に精神科領域を少しでも理解してもらうことは重要です。

 また、研修を終えて専攻医として精神科医を目指す人に対しては、最初の1年間で精神保健福祉法、作業所のような社会のコミュニティーの知識などを学ぶクルズス(勉強会)を細かく実施する予定です。

 一方、ある程度経験を積んだ医局員には、保健学科の講義などで積極的に教育に関わってもらいます。

―臨床、研究面について。

 臨床面の試みとしては、最低ラインとして、「ガイドラインの活用」を促しています。例えば薬物療法であればガイドラインをふまえ、薬理学的な知識に基づいたうえで経験則を用いないと、経験則のみの我流になってしまう場合もあります。

 研究面では、健常者の日常活動が意思決定に与える影響の検討を行っているほか、補完療法として運動療法の研究をスタートする予定です。従来から続けてきた血液バイオマーカーの研究、精神疾患の脳の機能異常を可視化するための研究も継続しています。後者には、心理学の知見や学内外のAIによる解析も活用しています。

 医局には、育休取得や時短勤務をした女性の医師もいます。精神科には女性の医師が多いので、特別扱いではなく、いかに効率的に働けるかを重視し、それぞれのポテンシャルを引き出す方法を個々に認めていきたいと考えています。

―今後の課題は。 

 山口県は交通や高齢化の問題があり、遠方まで通院できない人が多いのが実情です。精神科と総合病院、身体科の病院が地域ごとに完結した形で、救急やリエゾンなどで包括的なケアを行うのが望ましいと思います。現在は大学からマンパワーを提供することは難しいので、大学としては得られる知識を、地域の医療者に正しく伝えていくことが大切だと考えています。

 さらに大学が研究機関である以上、臨床だけでなく、新しい知識を社会に還元していかなくてはなりません。現在はその土台を作る時期。自ら情報を取捨選択し、学び続けられる自立した医師を育てることからスタートできればと考えています。


山口大学大学院医学系研究科  高次脳機能病態学講座
山口県宇部市南小串1─1─1
☎0836─22─2111(代表)
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~mental/

この記事を読んだ方は他にこんな記事も読んでいます

最新の記事情報が取得できます

Twitter

「いいね!」ボタンを押すと、最新情報がすぐに確認できるようになります。

Instagram

フォローする」ボタンを押すと、最新情報がすぐにツイート上で確認できるようになります。

コメントはこちらから

メニューを閉じる