札幌医科大学医学部 消化器内科学講座
仲瀬 裕志 教授(なかせ・ひろし)
1990年神戸大学医学部卒業。
日本学術振興会特別研究員、米ノースカロライナ大学消化器病センター、
京都大学医学部附属病院内視鏡部などを経て、2016年から現職。
札幌医科大学附属病院消化器病センター長兼任。
全国的な内科系講座の臓器別再編の流れに伴い、札幌医科大学の現在の消化器科内科学講座も、2016年に、これまで内科を総合的に担ってきた第一内科学講座から消化器に特化した名称となった。仲瀬裕志教授に、再編された教室の現状と、炎症性腸疾患の研究について聞いた。
─再編効果は。
私が医者になったばかりの頃と比べ、現在の内科診療は膨大な知識量を必要としており、また行政の方針もあって、専門性の高いドクターの育成を目指す流れが加速しています。
しかし、完璧なシステムは存在せず、必ずメリットとデメリットが併存します。重要なことはデメリットをどのようにカバーするかです。患者さんが複数の病気を抱えていることは珍しくなく、臓器別再編成によって縦割り的な診療が強まるとしたら、治療はうまくいかないでしょう。
当教室は現在、消化管と肝胆膵の2領域に分かれ、診療を行っています。専門性を十二分に発揮した治療は、これまでと同様に多くの信頼をいただいていますが、二つの領域にまたがる、あるいは他の病気を併発している患者さんなどへの対応は、改善の余地が残されていると感じています。近い将来、壁を取り払い、広い領域を総合的に診ることができる体制の再構築を考えています。
これに伴い指導システムも、指導医のもとで先輩研修医が後輩研修医に教える、いわゆる屋根瓦方式による教育をスタートさせます。この体制は、複数の医師が患者さんをチェックできるメリットがあり、診療の信頼度を、さらに高めるものと確信しています。
現在、教室スタッフは20人。若手は「果たして自分にできるのか」と多少の不安を抱いているようですが、私自身が内科医として総合的な経験を積み、その上で専門性を築いてきました。「僕ができて、君たちにできないことはないだろう」と励ましています。
─炎症性腸疾患について。
消化管領域の中では、炎症性腸疾患の研究に力を入れています。下痢や下血、腹痛、発熱を伴う難病の炎症性腸疾患は、潰瘍性大腸炎とクローン病の二つに大別でき、前者は主に大腸の粘膜に、後者はさまざまな消化管の粘膜の下の部分に、最初に炎症が発生するという違いがあります。病気になりやすい遺伝子は発見されていますが、必ず発症するわけではない。原因は、環境因子の関わりにあることが分かってきました。
消化管は口から肛門まで続く、外界と接した連続する管で、そこを食物が通り抜けます。食物は人体にとって異物なので、消化管は必ず炎症を起こしますが、免疫により守られているので、私たちは正常に暮らせています。この免疫が環境によって正しく機能しなくなることがあるのです。
例えば、子どもの頃から整い過ぎた衛生環境で暮らしていると免疫機能が正しく誘導されず、少しの刺激でも過剰な反応を起こし、消化管を傷つけることがあります。これはアトピーと共通する要因でもあります。
─治療の見通しを。
クローン病に対しては非常に有効な薬が開発され、早期に発見してサイトカインを抑えることができれば、普通に暮らせる段階に来ています。潰瘍性大腸炎は同じ症状のように見えても、炎症を起こす原因が患者さんごとに異なることが分かってきました。
患者さん一人ひとりに対応する薬ができれば、長い期間をかけず、病状を改善することが可能になります。当教室では、若い医師を含め熱心にこの研究に取り組んでおり、あと数年で朗報と言える報告ができると考えています。
個人の研究では、私が以前、京都大学在籍時に発見した別の腸疾患の診断法の確立にも取り組んでいます。こちらの方が早く成果を報告できるかもしれません。

札幌医科大学医学部 消化器内科学講座
札幌市中央区南1条西16
☎011―611―2111(代表)
http://www.sapporo-med-gastroenterology.jp/