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不幸の連鎖にピリオドを断酒会で、生き直す

不幸の連鎖にピリオドを断酒会で、生き直す

   市川  正浩 常務理事・院長(いちかわ・まさひろ)
1969年関西医科大学医学部卒業。七山病院などを経て、1971年三光病院入職、1983年から現職。

 アルコール依存症と格闘し続けて半世紀。全日本断酒連盟の顧問も務める名物院長は、歯に衣着せぬ対話で患者の気持ちをつかむ達人でもある。病院は昨年、香川県で初めて依存症専門医療機関・依存症治療拠点機関に認定された。

―アルコール依存症の傾向と本質について。

 患者は高齢化し、幅広い年代で女性も増えています。アルコールは合法麻薬なのに、日本人はお酒に非常に甘い。そこが問題です。

 アルコール依存症は脳の病気。体を治しても飲酒を繰り返すだけで、根本的な治療にはならない。別名「たまねぎ症候群」。皮を一枚ずつはぐように、多くを失うのです。クビになる、免許を失う、友達をなくす、家族を失う、親も先にいなくなる。残るのは自分の命だけ。命を標的にする「ターゲットシンドローム」とも呼ばれます。

 家族も不幸。でも、酔ってガラスを割った時、酒代がほしくて借金をした時、家族が後始末しては、だめなんです。共依存にならないためには、とにかく放っておく。そして家族は保健所へ行って相談して、専門病院とつながることです。

 本人が病院に来るように仕向け、治療を続けさせるテクニックはいろいろあります。脅す、やさしくする、受け流す。反応を見て、気持ちに入り込むアプローチが肝心です。

―治療の方法は。

 命に関わる状況以外は任意入院。まずは解毒して、肝炎や肝硬変などの内科疾患と神経障害などの合併症を治療する。入院は3~4週間ですが、1週間や3日で帰す人も、逆に3カ月以上の人もいます。

 内科治療はほんの入り口で実践の中心は、断酒会です。しかも家族が体験発表する断酒会。本人だと、武勇伝や「家族のためにやめている」という、〝うぬぼれ断酒〟になりがち。それより家族が酔ってこんなことをされた、こんな気持ちになった、子どもはこうなった…と話すほうがよっぽどこたえる。どん底の話ばかりですから、聞くほうもスイッチが入る。当院も週2回の院内例会のうち木曜は家族会です。

 仲間ができると決意も固まります。さらに、なるべく別の断酒学校や一泊研修会にも参加してもらう。一緒に車で移動し、風呂も入る。とことん付き合います。各地の断酒会を統括する全日本断酒連盟は公益法人ですし、われわれもボランティア。過酷ですよ。国はもっと考慮すべきです。

 退院後は、月に1度は主治医に顔を見せ、がん検診を受けることも課しています。断酒しても影響は残る。そもそも日本人は解毒酵素が少なく、すぐ顔が赤くなる「オリエンタルフラッシャー」が多い。〝酒は毒〟を自覚すべきです。

―解決策はありますか。

 一つの策は、アルコール科をつくること。精神科は敷居が高いから、研修を受けた医師が内科で標榜できるようにする。患者は増えるし、医師会も納得しやすいでしょう。そこから専門病院に送ればいい。

 さらに全国から酒の自動販売機をなくすこと。コンビニで酒を売っている限り、依存症は減りません。新幹線の車内で売るのもおかしい。世界保健機関(WHO)の一機関「国際がん研究機関(IARC)」は、発がん性分類でアルコールを「ヒトに対する発がん性がある」としています。WHOも、アルコールが原因の死者が年間300万人に上るとして、各国に対策を求めています。

 スマホやネット依存に対応するため、こども外来(思春期外来)も開設しましたが、アルコールとも密接に関係している。学校の先生、家族…酒を飲んで虐待しているケースも多い。そこを分かっていないと治療は難しいでしょう。

 多い日は100人の外来があり、早朝から待つ方もいるので午前8時前から診療します。私も75歳、3月で院長は退きますが、診療は続けます。まだリタイヤできそうにないですね。


医療法人社団光風会  三光病院
高松市牟礼町原883─1
☎087─845─3301 (代表)
http://www.sanko-hp.com/

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