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コロナ下で精神疾患が悪化 在宅勤務で新たな課題も

コロナ下で精神疾患が悪化 在宅勤務で新たな課題も

大阪市立大学大学院 医学研究科 神経精神医学
教授(いのうえ・こうき)

1987年大阪市立大学医学部卒業。
米スクリプス研究所客員准教授、大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学准教授などを経て、
2012年から現職。

 新型コロナウイルス感染症の拡大はメンタルヘルスにどのような影響をもたらしたのか。院内での対応、そして生活の変化によるメンタルヘルスの問題について、労働者の精神医療に取り組む井上幸紀教授に聞いた。

─コロナ下の精神科医療の現場は。

 新型コロナウイルス感染症が突然猛威を振るったことは想定外の出来事です。クラスター化する懸念もあり、医療スタッフは常に緊張を強いられ、対応人員の不足、個人用防護具の不足などの危惧もありました。

 病院の医療スタッフも、当初は責任感や緊張感から普通に勤務できているように見えていても、対応期間が長引くに従い、さまざまな心身の疲弊症状が出現します。特に大学病院は最重症患者の対応病院となっていたため、精神科医局では患者さんのみならず、病院全体の医療スタッフに対する心のケアが求められました。

 精神科一般外来では、対面での会話時間も長いため、マスクの着用、換気の確保、医師患者間の物理的距離を確保しつつ、心理的距離は近づけるよう配慮して診療するようになりました。

─メンタルヘルス対策は。

 長く家にいる患者さんが増え、アルコール関連障害、ネット依存など精神疾患の悪化が生じています。受診行動そのものは抑制され、診察の機会が減少し、悪化時の対応が遅れます。

 リワーク(復職)施設、デイケア、自助グループなど症状安定に必要な組織も閉鎖されると、症状悪化の発見と対応も遅れます。その結果、家庭内不和、時には家庭内暴力などに結び付く可能性もあります。

 新型コロナで生じるメンタル不調は、不安や抑うつなど軽度のものから、不適応行動、うつ病レベル、さらには重篤なものまで生じ得ます。社会の変化と関係していることを念頭に1次予防、2次予防、3次予防まで含めた対策を行う必要があります。

─在宅勤務による影響は。

 各企業では、在宅勤務、テレワークなどの導入が進められています。これらは感染の危険が減る、通勤時間が不要、などの利点がある一方、残業時間管理が困難、仕事とプライベートの区別がつきにくい、仕事で周囲に頼れない、など多くの問題を生み出しています。

 また、在宅勤務で使用する椅子や机、パソコンは本来業務用ではありませんし、手元に資料がない、印刷できない資料も多いなど、作業管理、作業環境管理にも問題があります。

 社会的活動が制限され、またその制限がいつまで継続するのか分からないなどの不安に加えて、目の疲れ、肩こり、筋肉の痛みなどの身体化症状、抑うつなどのメンタルヘルスの不調が生じやすくなっています。

─対応は。

 在宅勤務・テレワークを行う労働者、特に単身者の場合、人との付き合いが減り、生活リズムも崩れやすくなります。自分の感情に気づきにくくなり、その結果、孤独感、不安感、劣等感も生じやすくなります。親しい人とSNSや電話でコミュニケーションをとる、単身者の場合は上司や産業保健スタッフと定期的にコミュニケーションをとることが大切です。

 また、社会が悪い方に急激に変化し、失業や解雇になる労働者が多く生じ、労働者の精神状態に影響を及ぼし始めています。その最悪な結果が自殺です。雇用を守ることが命を守ることにつながることの啓発、失業者対策、経済的支援の拡充、社会的制限解除や緩和の見通しの明示、それらの十分な広報、その不安に対するメンタルヘルス対策を早期に行い、長期的に継続することが求められます。

 自殺対策などメンタルヘルス対策については、国の社会経済的対策と職域のメンタルヘルス対策を両輪として、強力に推し進めることが求められます。今後どのような精神的病態が出てくるのか注意が必要です。

大阪市立大学大学院 医学研究科 神経精神医学
大阪市阿倍野区旭町1―4―3
☎06─6645─2121(代表)
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/neuropsy/

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