大分大学医学部 医療安全管理医学講座
平松 和史 教授(ひらまつ・かずふみ)
1987年大分医科大学医学部(現:大分大学医学部)卒業。米国立衛生研究所、
大分大学医学部附属病院医療安全管理部・感染制御部診療教授などを経て、2017年から現職。
同大学医学部附属病院医療安全管理部長、同感染制御部長、同副病院長兼任。
高度化、複雑化する医療現場で起こりがちなエラーをどのように防ぐか。大分大学医学部附属病院の感染制御部と医療安全管理部の二つの組織を統括し、医療安全管理学講座では学生に医療安全を教える平松和史教授に「医療の安全」の取り組みについて聞いた。
―病院における医療安全管理部の役割について。
医療安全管理部と感染制御部は、どちらも「安全で安心な医療」の根幹に関わる領域です。医療安全管理は国内の医療機関で大きな医療事故が起きていること、感染制御は新型コロナウイルス感染症の流行に伴って役割の重要度が増しています。
医療安全管理部は、医師と薬剤師各1人、看護師と事務職各2人が専従しています。患者さんに影響が起こるような事象が発生するとインシデントが報告されます。原因の分析、対策の作成(P)と実施(D)、うまくいっているのかの評価(C)、その仕組みをつくっても実行されない場合の次の対策の立案(A)というPDCAサイクルという手法で実践しています。
エラーやミスの発生直後は誰もが注意しますが、人も入れ替わりますし、時がたてば忘れるものです。電子カルテ上で注意喚起する、注意点を示すポップアップ画面を表示するなど、精神論ではなく「忘れない仕組み」の構築を心掛けています。
―感染制御部について。
これまでは、行政やほかの医療機関と協働してAMR(薬剤耐性)対策のアクションプランの立案と実施、院内感染対策が主な仕事でした。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染対策が一段と忙しくなっています。
2009年に新型インフルエンザが流行した時は、2〜3カ月するとそれまでの日本のインフルエンザ診療の有用性が明らかとなり、それほど構える必要はありませんでした。MERS(中東呼吸器症候群)やSARS(重症急性呼吸器症候群)は、日本に影響がないまま落ち着きました。
これらと比較すると、今回の新型コロナウイルス感染症は非常に特殊で、経験したことがない状況となっています。ただ、これもスタンダード・プレコーション(標準予防策)がきちんと機能すれば、医療機関でのアウトブレイクは少ないはずです。クラスター発生状況をみると、基本的なことが不十分だったと思われます。標準予防策の徹底の重要性を実感しています。
―医療安全のきっかけは。
もともと呼吸器科が専門だったのですが、感染症に興味を感じ、大学院の微生物講座でウイルスを研究しました。アメリカに留学したのもウイルス学の勉強のためです。
大学に戻ると院内感染対策が重要課題となっていたこともあり、大学病院に設置された感染制御部を担当しました。前後して医療安全管理部が発足した時に、「両方やってほしい」との当時所属していた第二内科教授のひと声で掛け持ちすることになりました。医療安全管理は専門ではありませんでしたが、感染制御と似ている部分はあると思い、引き受けました。
―講座について。
現在は、3年次と4年次で教えていますが、2021年度からは4年次に絞って1週間の集中講義にし、時間も増やすようカリキュラムを変更する方針です。
最も伝えたいことは、「インシデント報告をネガティブに捉えるべきではない」ということです。一般社会でミスやエラーは誰でも起こしますが、医療現場では、それが患者さんの命に関わる場合があります。「インシデント報告を恥ずべきではない。報告しないことが医師として恥ずかしいことだ」と強調しています。
医学生の教育と大学病院職員の研修を重ねて来たことで、医療安全と感染制御の意識は大きく変わってきたと感じています。

大分大学医学部 医療安全管理医学講座
大分県由布市挾間町医大ケ丘1―1
☎097―549―4411(代表)
http://www.med.oita-u.ac.jp/safety/