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「人を育てる」ことが 人生の恩返し

「人を育てる」ことが 人生の恩返し


教授(わにぶち・まさひこ)

1991年札幌医科大学卒業。
米デューク大学脳神経外科留学、帯広厚生病院脳神経外科、
札幌医科大学脳神経外科学講座などを経て、2019年から現職。

 ホームグラウンドの北海道から大阪へ移って5カ月。新しい教室の雰囲気はと問うと、「私のことはいいので、今度は若い先生方を紹介してもらえませんか。雰囲気がとても良いんですよ」と柔和な笑顔を見せる鰐渕昌彦教授。これまでの脳神経外科医としての歩み、そして新天地である大阪医科大学 脳神経外科学教室での今後について、思いを聞いた。

〝命の根源〟である脳の神秘に引かれて

 生まれも育ちも北海道という鰐渕教授。「社会に貢献できる仕事がしたい」と、地元の札幌医科大学へと進学した。そこで「脳」の美しさに魅了されたという。

 「脳というのは、非常にきれいだったんです。その神秘性にも引かれました。ここで人はものを考えるのか。会話をする、あるいは手足を動かす命令を下すのは、今見ているここなのかと」

 人の命に関わる医師になりたかった。脳という、その人をその人たらしめる、まさに〝命の根源〟を自らの手で治療する―。脳外科医としての人生はここから始まったという。

 「手術では誰も負けない、うまい術者になりたい」と研さんを積む中、大きな転機となったのは米国留学だった。

 〝神の手〟と称される福島孝徳医師(米カロライナ頭蓋底手術センター所長およびデューク大学脳神経外科教授)に2年半師事し、勉強漬けの日々を送る。

 「頭蓋底手術や微小解剖の訓練だけでなく、多くの症例を論文や本にまとめるアカデミックワークについてもじっくりと学ぶことができ、非常に糧になりました。中でも一番教えられたのは、『患者さんをよく見て、患者さんを第一に考えて手術しなさい』ということです」

 当たり前だが忘れてはならないこの教訓は、自身の信条にもなった。術中、難関に差し掛かったときは手を止めて患者さんの笑顔を思い出す。そんなこともあるという。

 会話の節々に出てくるのは、周囲への感謝を表す言葉だ。

 「札幌医科大学では3代にわたって教授のもとで働きました。手術のすばらしさを教えてくださった端和夫先生(札幌医科大学名誉教授)、留学の機会を与えてくださった寶金清博先生(北海道大学名誉教授)、教室運営のイロハを教示してくださった三國信啓先生(札幌医科大学脳神経外科教授)。この3人の先生方は、誰が欠けても私の今の立場はなかったと思います」

良医を一人でも多く育てるために

 受けた恩を、後世へ継いでいく―。それは「人を育てる」ことに他ならない。今回、慣れ親しんだ北海道から、新天地である大阪医科大学へ移ったのも、その理由からだ。

 「人生の円熟期を迎えた今、自分の経験をより多くの若い人に伝えていくことができたらと思いました。歴史がある大学であり、ハイボリューム施設であるこちらへ赴任できたのは、まさに僥倖でした」

 和気あいあいとした教室のムードに、当初の緊張はすぐほぐれたという。

 「メンバーの団結力、人間力、そして医師としての力もすばらしいと思います。みんな優秀で、助けられています」

 詰め所や術場の雰囲気も良く、初回からホームのように安心して手術できたと語る。

 自分を温かく迎え入れてくれた同門会にも深謝しつつ、人材育成に注力することを宣言。臨床的・学術的にサポートしてもらえるよう協力を仰いだ。

 「実力のある先生を一人でも多く育てたい。まだ教室に来て5カ月ですが、その思いは共有できているのではないかと思います」

 大事にしたいのは、一人ひとりの性格をよく見極め、特性に応じて教育することだと語る。患者をよく観察し、努力を怠らない人には、術者として手を動かすチャンスをどんどん与えるつもりだ。

 「少しずつできる範囲を広げることができれば、自ずと一人前の術者になれます。万全の体制でサポートし、しっかりと育てていきたいですね」

トップダウンよりもみんなで一緒に

 臨床・研究をさらに発展させることも課せられた任務だ。教室の得意分野である悪性腫瘍に対するホウ素中性子捕捉療法(BNCT)や脳血管内治療、放射線診断のほか、自身の研究テーマも継続していきたいと話す。


 「臨床に関しては、頭蓋底の微小解剖研究を継続していくつもりです。基礎研究では、脳腫瘍の遊走能研究に取り組んでいます。神経再生医療学についても、やってみたい先生がいれば、ぜひにと思っています」

 これまでの教室のムードは何も変えずに、むしろ自分がその中に溶け込んでいけたらと話す。

 「トップダウン形式もいいですが、多分、私には向いていないでしょう(笑)。若い人たちのパワーをもらいながら、合議制というか、みんなでディスカッションしながら進む方向を調整できればいい。水が流れるように、川の流れのように、ですね」

大阪医科大学脳神経外科学教室のイベントの様子

 若い世代とは考え方も、ライフスタイルも異なる。しかし、いろいろな考え方の人が集まり、一緒に働いてこそ、組織としての発展もあるという。

 「医師ができることは1%ほど。多くの医療スタッフに支えられているから仕事ができる。できることは限られるかもしれませんが、患者さんと家族を一番に思って、できることに集中していくだけです」

大阪医科大学 脳神経外科学教室
大阪府高槻市大学町2―7 ☎072―683―1221(代表) 
https://www.osaka-med.ac.jp/deps/neu/

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