九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

「なぜ」を持ち続けることそれが新しい医療をつくる

「なぜ」を持ち続けることそれが新しい医療をつくる

東北大学大学院医学系研究科 外科病態学講座 整形外科学分野 井樋 栄二 教授(いとい・えいじ)
1980年東北大学医学部卒業。米メイヨークリニック・バイオメカニクス研究室、
秋田大学整形外科教授などを経て、2006年から現職。

 肩、腫瘍、脊椎、リウマチ・骨代謝、膝・スポーツ、小児・股関節の6グループが活動する東北大学整形外科学分野。「私たちに求められているのは独創性。それは常に疑問を持ち続けることで生まれる」と井樋栄二教授。「新しい発想」を生むために必要な視点に迫った。

―専門は肩関節外科。

 例えば肩関節の脱臼に対する保存療法として、従来、内旋位固定(腕を内側に曲げて腹部の前で固定する方法)が用いられてきました。ヒポクラテスの時代から続く固定法です。

 ところが、内旋位固定では再脱臼の割合がなかなか低減しない。肩関節を6週間と長期間固定しても、またギプスで厳重に固定しても、再脱臼率を下げることはできなかったとの研究結果があります。

 これらの事象はどう説明したらいいのでしょう。例えばアキレス腱断裂を治療するときには、腱の断裂端同士が接する正しい肢位で一定期間固定すれば治癒します。肩を厳重に長期間固定しても組織の修復が得られないということは、固定している肢位が正しくないとしか考えられません。

 すなわち、これまで行われてきた内旋位固定では脱臼で損傷した靭帯同士がうまく密着せず、そのためいくら固定しても治癒しないのではないかー。そう考えました。MRIで検査すると、内旋位固定では損傷部位が十分に整復されないことが確認できました。

 そこで提唱したのが「外旋位固定」(腕を外側に開いて固定する方法)。私たちが内旋位固定との比較を試みたところ、再脱臼率をおよそ40%下げることができました。2003年にASES(米国肩肘外科学会)で発表。ニアー賞(最優秀臨床研究)を受賞しました。

 外旋に「外転」(腕を上方に上げる)を加えることでさらに良い結果が得られると考えています。近く日本肩関節学会の主導で、全国の10カ所ほどの施設と連携して前向き無作為化比較試験を開始します。

―「世界に発信していく」ことが大きな強みですね。

 これまでに公表された国内外のさまざまな臨床試験のデータを収集して、メタ解析を実施。その結果からも「外旋位固定が優位である」と言える結果が導き出されました。

 また、肩脱臼において骨欠損が生じることがあります。肩関節の「ボール」に当たる上腕骨頭(じょうわんこっとう)と、その「受け皿」となる関節窩(かんせつか)の両方が欠損する双極性損傷では、欠けた部分が大きいと、靭帯が修復したにもかかわらず簡単にボールが滑り出てしまって脱臼しやすくなります。

 損傷の評価として、例えばかつてのガイドラインで示されていたのは「欠損が3分の1超なら骨移植が必要」。でも、目視で「3分の1」かどうかを決めることは不可能です。

 では、実際にどの程度骨が欠損したら関節の安定性を保てなくなり、脱臼に至るのか。私たちは段階的に欠損と安定性の関係を計測することで定量的に評価する方法を確立しました。この評価法の概念を「関節窩軌跡」といい、いまや世界的に使われています。

―若い世代にどんなメッセージを贈りますか。

 定年を迎えるまで1年半。これまでの仕事を総括し、次の世代に受け継ぐ準備を進めていく時期に入ったと感じています。

 私がずっと重視し、若い世代にもさまざまな機会に伝えているのは、「当たり前とされている知識をただ鵜呑みにしてはいけない。なぜ、どうしてという思いを持ち続けることで、新しい発想が生まれる」ということです。

 大学に求められる役割は、同じことの繰り返しではなく、独創性に富んだ概念を発信していくこと。そんな意識を大切にして、臨床や研究と向き合ってほしいと思っています。

東北大学大学院医学系研究科 外科病態学講座 整形外科学分野
仙台市青葉区星陵町1─1
☎022─717─7000(代表)
http://www.ortho.med.tohoku.ac.jp/

この記事を読んだ方は他にこんな記事も読んでいます

最新の記事情報が取得できます

Twitter

「いいね!」ボタンを押すと、最新情報がすぐに確認できるようになります。

Instagram

フォローする」ボタンを押すと、最新情報がすぐにツイート上で確認できるようになります。

コメントはこちらから

メニューを閉じる