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「どうありたいのか」に耳を傾けてサポートする

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東京女子医科大学 脳神経外科学講座 川俣 貴一 教授・講座主任(かわまた・たかかず)
1986年東京医科大学医学部卒業。スウェーデンカロリンスカ大学、
米ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院神経内科・脳神経外科、
東京女子医科大学附属八千代医療センター脳神経外科教授などを経て、2015年から現職。

 東京女子医科大学脳神経外科学講座は今年開設50周年を迎えた。7専門分野、総勢約30人を束ねる川俣貴一教授・講座主任は、脳腫瘍、脳血管障害の外科的治療において国内トップランナーの一人。講座の特徴と高いレベルの医療を支える「人材育成」について聞いた。

―東京女子医科大学脳神経外科学講座の特徴を。

 脳腫瘍、脳血管障害、脳血管内治療、機能神経外科、小児脳神経外科、ガンマナイフ治療、脊髄脊椎外科の七つの専門分野があります。脳神経外科分野のすべてのサブスペシャルティをグループとして有し、脳に関する分野を網羅していることが特徴です。

 手術に関しても、どの分野も、ある一定の高いレベルでの手術が可能です。昨年の手術数は約1100件。ガンマナイフ治療も含めると、年間の実績はおよそ1300件に上ります。

 2015年に着任以降、患者数は増加傾向です。その要因の一つが、救急の受け入れ体制を変えたことです。脳神経内科の先生方の協力を得て、脳卒中の方を24時間365日受け入れられる体制を整えました。

 1993年に開始したガンマナイフ治療のほか、神経内視鏡、術中のモニタリングなど、新たな治療法も早い時期から取り入れています。これも、患者数増の背景にあると思います。

―高い技術を持つ脳神経外科医を育てるためには。

 時代の流れの中で、脳血管障害の治療に占める血管内治療の割合が高まっています。若手の経験数としても、必然的に、血管内治療が増えています。

 しかし、血管内治療だけですべての脳血管障害に対処できるわけではありません。いざ、必要な時に手術ができるよう、両方ができる医師を育成することが大切です。これは、他の疾患でも同様で、下垂体疾患などの脳腫瘍では内視鏡治療も開頭手術もできる医師をしっかりと育てていくことが、大学としての大きな役割。「技術の伝承」を大事にしています。

 今は、われわれが育ってきた時代とは違います。脳神経外科医1人が経験できる症例数が少ない。しかし、数がすべてではありません。一例一例を大事にすることで、しっかりと自分の知識と経験にしていくことが可能です。

 指導する側は、個人個人の性格を見極めた上で、適切なアドバイスを心がけています。同時に、上の者が下の者に「技術を見せる」ことも重要で、それができることが高い技術を持つ脳神経外科医を育てるには欠かせないと思います。

 毎朝カンファレンスも実施しています。手術前、当日、翌日。この積み重ねとコミュニケーションが年間1300件を超す治療を可能にしています。

―そのほか優れた脳神経外科医に必要だと思われることは。

 技術はもちろん大切ですが、単に手術だけできればいいのではありません。患者さんに寄り添い、痛みの分かる人であることが、最も大事なのではないでしょうか。

 臨床医は、人と接することが基本になります。コンピューターが発達して、AIが進歩しても、患者さんの本当のニーズを聞くことができるのは人間だと私は思います。

 患者さんと向き合い、何がつらいのか、何が望みなのかを聞き、患者さんにとって最善な治療を考える。先輩がどんな治療をすると患者さんの状態がどう変わり、入院中の状況が外来に移って、どのように変化するのかといった様子を少しでも多く見て、肌で感じていく経験が、良い医師を育む土壌になるのだと思っています。

 若い先生方には、自分の専門を決める際、一つに限る必要はない、ということも常々伝えています。

 私自身も、脳血管障害と脳腫瘍を専門分野としてきました。脳神経外科の7専門分野すべてに精通するのは難しいですが、いくつかの専門分野を持つことで知識の幅が広がり、応用力も上がる。同じ疾患に対しても複数の治療を念頭に置いて考え、最終的にベストの治療法を選択できるようになるのです。

―臨床だけでなく、研究にも力を注がれています。

 基礎も含めた研究は、臨床医の育成にとっても欠かせない。研究は、考え方を養うことにつながります。私はアメリカに3年間留学し、その間、朝から晩まで実験をしていました。一生でなくて構いません。何年かでいいので、研究に触れておくことが柔軟な思考力を育みます。

 昨年、当講座から英語の論文を50本近く発表しました。週に1本のペースで書き上げていることになります。強制しているわけではありません。周囲が英語の論文を書いている姿を見ていると、それに引っ張られるように、書くようになる。お互いがブラッシュアップするような存在になっていく。そのような環境づくりにも腐心しています。

―今後の展望について。

 自分自身の技術の追求と人材育成は、二大テーマです。自分で手術をするということを続けていかなければならないと思っていますし、技術を究めたいと思っています。

 人材育成に関しては、同じ分野であっても、複数の術者を育てることを心がけてきましたし、今後も継続していきたいと思っています。

 また「脳神経外科医としてのQOL向上」も大事だと考えています。脳外科医である自分自身の人生をどう描くのか。専門医の資格を取得したら地域の病院の第一線で臨床をやりたいのか、大学に残って教育や研究も続けたいのか、基礎研究の道に進みたいのか―。

 組織は、いろいろな人がいるからおもしろく、いろいろな人がいることが強みになる。一人一人の思いをよく聞いて、その人の脳外科医としての人生をしっかりと応援したいと思っています。

東京女子医科大学 脳神経外科学講座
東京都新宿区河田町8―1
☎03―3353―8111(代表)
http://www.twmu.ac.jp/NIJ/

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