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連載:検証コロナ「あの時」《第1回》 日本医師会前会長 横倉義武氏

連載:検証コロナ「あの時」《第1回》 日本医師会前会長  横倉義武氏

 国内初の新型コロナウイルス感染症患者が確認されたのは、今年1月。その後、誰も経験したことのない難題が次々と医療現場を襲った。全国的な感染拡大、手探りでの治療、いわれのない誹謗(ひぼう)中傷、悪化する病院経営―。渦中にいた医療者たちはその時何を考え、どう対処したか。当時を振り返り、今後への提案を聞く。

政府に先んじて決断 現場の悲鳴が背中を押した

 3月27日、横倉義武・日本医師会前会長は、厚生労働省で加藤勝信・厚労大臣と向き合っていた。加藤大臣を訪ねるのは、3月だけでもう何度目だろうか。

 この日、大臣に手渡したのは、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発への支援を求める要望書。一通りのやりとりを終えた後、横倉前会長はおもむろに切り出した。「政府として早く、国民に強い警告を出すべきではないでしょうか」

 「警告」とは、特別措置法に基づく緊急事態宣言のこと。当時、国内の新規感染者数は急速に拡大し、3月26日正午時点で陽性者1292人、死者は45人に上っていた。

 当然、医療現場の状況は厳しさを増した。防護服が足りない。疲れと緊張でスタッフは限界。院内感染が起き、一般診療もできない―。窮状を訴える声が日々、全国の都道府県医師会を通じて耳に届いた。

 当時はまだ、新型コロナについて分からないことだらけ。「早く手を打たなければ、感染爆発、医療崩壊が起きる」。横倉前会長の危機感が募った。

 だが、加藤大臣を訪ねた翌日の夜、安倍晋三首相は記者会見で「まさにギリギリ持ちこたえている」と声を張っていた。

 「やはり、こちらが決断しないといけないか…」。政府に先んじて日医が独自の「宣言」をするという、日医内部で協議していた選択肢が、横倉前会長の頭の中で現実味を帯びた。ノーベル生理学・医学賞受賞者の本庶佑・京都大学特別教授から、3月25日に届いた助言のメールも、宣言発令の後押しとなった。

 3月31日、日医の新型コロナウイルス感染症対策本部の会議を開いた。「医療現場は危機に陥っていると宣言したい」。本部長として出席者に伝えた。反対する声はなかった。


 翌4月1日、横倉前会長は記者会見に臨んだ。「感染爆発が起きてからでは遅く、今のうちに対策を講じなくてはなりません」。厳しい表情で宣言文を読み上げた。

 もっとも、日医が独自の宣言を出すことは事前に政府に伝えていた。「表現を少し和らげてほしい」という厚労省の意向をくみ、宣言の名称は当初予定した「医療危機宣言」から、「医療危機的状況宣言」に変えた。

 「国難と言える緊急事態のまっただ中で大切なのは、批判や対立ではない。政府、医療者、そして国民みんながより強く危機感を共有し、コロナに立ち向かうための宣言だから、名称は大きな問題ではありませんでした」

 4月7日、政府はついに「緊急事態宣言」を発令した。対象は、東京都や大阪府など7都府県。同16日には全都道府県に広がった。一連の動きは国民の行動変容を加速させ、感染状況の改善につながったとされる。

 日医の動きが、政府の緊急事態宣言発令を早めた―。そんな見方もある。「そうであれば、意義がありました。ただ、できれば政府にはあと1週間早く出してほしかった」

 その上で自戒を込めて、こうも振り返る。「感染者が少なかった6月から7月上旬で、コロナを完全に封じ込めなければいけなかった。数字が改善したため、安心しすぎた感は否めません」


 8月下旬現在、国内は感染拡大の「第2波」のただ中にある。「対応を間違えると、再び『医療崩壊』の危機に瀕(ひん)する恐れは十分あります」

 政府が再び緊急事態宣言を出す可能性については、「ウイルスの性質が見え、効果的な感染予防策が分かってきた今、社会・経済活動を大きく制限する宣言を出すことには、慎重になって当然でしょう」とみる。

 その上で、医療崩壊を防ぐための対策を、日医としてどう強化していくべきか。

 まず、第1波の折に文字通り「危機的状況」だった医療用物資について、「医療現場のニーズ、生産体制、流通。それらを迅速かつ、きめ細かく把握してつなぐ体制が必要だと強く感じました」。そのため会長当時の5月、産業界と連携した物資調達のスキームを築いた。「今後、日医や地方医師会が経済産業省や厚労省、地方の出先機関と共に、シンプルで安定した供給の流れを確立させていかないと」

 次に、国民への情報発信の重要性を挙げる。「ウイルスについて分かってきた最新かつ的確な情報を、分かりやすく発信することで、感染拡大につなげられます」。その先導役を担うのは日医や政府だという。

 さらに、患者の状態や医療体制に応じた医療機関の役割分担の明確化。人員削減や管轄の違いによる課題が浮き彫りになった保健所の見直し。「それらも国や自治体、医療機関が議論を深め、早く形にしなければ」

 4期8年にわたった会長職の最終盤で遭遇したコロナ禍。「何より、大変な思いをしながら踏ん張り続ける医療者に敬意を表します」と横倉前会長。自身も引き続き、一医療者として力を尽くす覚悟だ。未曾有(みぞう)の国難で日医のかじ取りを担った者の使命だと思うから。

[用語メモ]〈医療危機的状況宣言〉
 日本医師会が2020年4月1日に公表した。宣言では、国内医療について、新型コロナウイルス感染症対策に多大な資源を投じながら一般診療も続けるという「危機的な状況に陥りつつある」と強調。「感染爆発が起こってからでは遅く、今のうちに対策を講じなくてはならない」と訴え、国民に対して自身の健康管理や感染対策、適切な受診行動を求めた。感染拡大が一時落ち着いたのを踏まえ、5月26日に宣言を解除した。

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