九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

優しく、厳しく、協力すること

富山大学医学部整形外科川口 善治 教授(かわぐち・よしはる)1988年富山医科薬科大学医学部(現:富山大学医学部)卒業。スウェーデン・イエテボリ大学研究留学、富山大学附属病院整形外科診療教授などを経て、2019年から現職。  富山市西部に位置する呉羽丘陵。この緑豊かなエリアに医学部、薬学部、附属病院の建物が並ぶ富山大学杉谷キャンパスがある。2019年9月に就任した川口善治教授は、整形外科初の同大学出身だ。どのような教室運営を行うのか、注目が集まっている。 どんな山でもいい頂上を目指せ  他大学出身教授が続いた富山大学整形外科。3代目で初めて富山市生まれ、富山市育ち、富山大学出身の川口氏が教授に就任した。 「教育、研究、診療の三つをリードする役割が教授にはあります。就任の意味を深く受け止め、私は教育に力を注ぎたいと考えています。これまで以上に学生を大切にし、どこへ出しても恥ずかしくない立派な教育者、研究者、臨床医に育て上げます」と、川口教授は力を込める。 研究や診療についても〝川口色〟を前面に出す。「医者は、目の前の患者さんから常に新しい情報を得られる立場にあります。だからこそ、その中から今まで知られていなかった新しい事実を見いだし、論文にまとめて、世に問う医者であってほしい。学生には、立山でも富士山でもエベレストでも、どんな山でもいいから頂上を目指して研究に励み、頂点を目指せと伝えています」 一方、診療は地域の信頼があってこそ成り立つものだと言う。「信頼に足る診療の実践、信頼に足る人材の育成に突き進んでほしいと思います」 局所所見を目の当たり外科手術に魅せられて  川口教授は小売り酒屋を経営する両親の間に生まれた。小さい頃から配達など手伝いをよく行い、人と接することが苦にならない性格の少年に育った。「子どもの頃から算数や理科の勉強が好き、人と接することが好きな自分の性格を生かせる医者に憧れ、医学を目指すようになりました」 整形外科を選択した理由は二つの発見があったからという。「患者さんの悩みに真摯(しんし)に耳を傾け、治療の道筋をつけて共に努力する。そして、悩みを解決できた時に見せる患者さんの笑顔の中に、医者としての喜びと充実感を発見したからです」 もう一つは手術の魅力だ。MRIやCTなどの検査で術前診断を行うが、それは影にすぎない。手術に臨み、局所所見を目の当たりにし、治療の手応えをじかに感じることができる。そこに外科医としてのやりがいを発見したという。 危険な落とし穴もある。「自分が治したという思い上がりです。医者として貢献はしたが、回復はあくまで患者さん自身の力。このことは学生にも口を酸っぱくして言い聞かせています」 整形外科教室の合言葉は〝YKK〟  川口教授は、後縦靱帯骨化症(OPLL)を研究テーマにしている。背骨にある後縦靱帯が骨化して脊髄を通る神経を圧迫する難病で、さまざまな運動障害や感覚障害を引き起こす。 「日本人に多発する理由は、疾患感受性遺伝子と呼ばれる発症に関わる原因遺伝子を持つ人が多いからと言われています。ただし、持っていても必ず発病するとは限らず、食べ物など後天的要素が関係しています。骨化した靱帯を消失させる薬の開発など、低リスクな治療法の確立を目指していますが、いつ実現できるか分かりません。私の後輩を含め次世代の研究者に託すことを想定し、研究と並行して資料のとりまとめなども行っています」 医師として今後も大切にしたいことは〝YKK〟だと言う。「Yは患者さんに『優しく』、Kは自分自身と学問に『厳しく』、もう一つのKはみんなが一丸となって『協力』すること。この〝YKK〟は当教室の合言葉にもなっています」と、笑顔で語った。 富山大学医学部整形外科富山市杉谷2630 ☎️076-434-2281(代表)http://www.med.u-toyama.ac.jp/ortho/ortho/

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リハ科専門医を1人でも多く

三重大学大学院医学系研究科 リハビリテーション医学分野百崎 良 教授(ももさき・りょう)2004年東京慈恵会医科大学医学部卒業。同大学附属第三病院、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了、帝京大学医学部リハビリテーション科准教授などを経て、2020年から現職。  2020年3月に新設されたリハビリテーション科の初代教授に就任した、若きホープ。三重県には縁もゆかりもなかったが、「リハビリテーション科専門医を自らの手で育てたい」という一心で東京を離れ、赴任した。今、新境地でスタートラインに立つ。 生活に分け入る面白さに目覚めて  生まれ育ったのは熊本県水俣市近郊。「前は海で後ろは山。その山を三つ越えて、ようやくコンビニです」と懐かしむ。父親は、町の開業医。1日も休むことのなかった父は「医者になれ」とは一切言わなかったが、結局、きょうだい6人のうち5人が医師に。「人の役に立つことを生きがいにしていた。それを見て、やっぱりいいなと」 その後、東京へ進学。患者のトータルマネジメントに関われないかと考えていた時、リハビリテーション科の実習で退院前訪問指導に加わったことが、人生を決定づけた。「患者さん宅で家族や家屋改修業者の方やケアマネジャーが、一緒に膝を突き合わせて話し合うのを見て、これは面白そうだと思いました」 公衆衛生学修士を取得した東京大学大学院ではビッグデータを用いたリサーチに没頭。ここでの手応えが後の原動力にもなった。「この領域はまだエビデンスが不十分。早期介入することの有効性を示せれば、よりリハビリを広められると活動してきました」 早く実感するには、診療報酬を変えること。関わった論文が基となり、加算が決まったときはうれしかったと話す。エビデンスを活用し、政策立案やガイドライン作成にも関わってきた。「十分なリハビリを受けられていない患者さんは全国にいます。手を差し伸べられる方法を模索し、実現していきたい」 効率的なリハビリに導く  摂食嚥下(えんげ)障害に対するリハビリでは、嚥下内視鏡検査で病態観察のみならず、どのようなリハビリや食形態が最適か、踏み込んで検討する。また、脳卒中患者への下肢装具療法や、手足の筋緊張に対するボツリヌス療法では、「訓練効率を高めるにはどんな装具がふさわしいか、手足のどこを柔らかくすればいいのか、リハビリのためにできることを考え尽くします」。医師として何ができるか、アプローチの手法を数多く持っていることが重要と語る。 急性期の場合、全身状態が悪い患者が多く、セラピストが迷う場面は多い。その際に、背中を押す役割も引き受ける。「リハ科専門医が入って線引きすることで、攻め込んだリハビリが可能になるのです」 多職種のスタッフと役割分担をしていくことも、役目の一つだ。「人が好きでないと務まらない。そう思います」 認知度を高めニーズを掘り起こす  三重県のリハビリテーション科専門医は現在19人。「とにかく数を増やすこと。今、専門医養成のプログラムを作成中です。1人でも2人でも来てほしい」。周囲の病院に就任のあいさつと同時に、協力を申し入れている最中だ。リハビリテーション部の動画配信もスタートさせた。「まずは認知度アップが課題です。リハ科専門医が地域にどう貢献できるのかを広めて、全体のニーズを掘り起こしていきたい」 がん患者のための術前リハビリ外来や週末リハビリなど、マンパワーの許す限り強化したい案はいくつもある。やるべき価値があると立証するためのエビデンスも集約中で、今後解析を進めていくと言う。 生活や福祉の視点に立ち、患者に寄り添い医療につなげていくリハ科専門医の役割はますます高まる。「専門医が1人いると、地域の医療の質は確実に向上する。そう確信しています」 三重大学大学院医学系研究科 リハビリテーション医学分野津市江戸橋2ー174 ☎️059ー232ー1111(代表)https://www.hosp.mie-u.ac.jp/section/rehabilitation/

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ALS患者に常に寄り添う

徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野和泉 唯信 教授(いずみ・ゆいしん)1995年徳島大学医学部卒業、広島大学第三内科(現:脳神経内科)入局。住友病院、医療法人微風会理事長、徳島大学病院神経内科(現:脳神経内科)特任講師などを経て、2020年から現職。  ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究や臨床に携わり約20年。これまで診たALS患者数は700人近くに上る。病院内にとどまらず、患者宅の往診も続ける。研究成果が実を結びつつある今、新教授として思うこととは。 ALSの解明に挑む  徳島大学医学部を卒業後、故郷の広島大学第三内科に入局。同大学原爆放射線医科学研究所教授の川上秀史氏の下、神経変性疾患の遺伝子研究に取り組んだ。 「ALS研究を手伝ってほしい」と2001年に、徳島大学に開設された高次脳神経診療部(現:臨床神経科学分野)の初代教授・梶龍兒氏に声を掛けられ、母校に戻り、ALSとの長い付き合いが始まる。 10万人当たり3〜5人の割合で発症するALS。指定難病の一つで、高齢化と共に罹患(りかん)する人が増えている。中枢神経の特定の運動ニューロンが少しずつ死滅することで進行。手足、のど、舌の筋肉が衰え呼吸が難しくなり、やがて、人工呼吸器が必要になる。徳島大学がALSの臨床に本格的に取り組んだことで、多くの患者が全国各地から訪れるようになった。 その頃、川上氏、埼玉医科大学教授だった萩原弘一氏(現:自治医科大学教授)との共同研究もスタート。2010年、ALSの原因遺伝子OPTN(Optineurin)を同定、英学術雑誌「Nature」に成果を掲載した。 大阪の住友病院で指導医だった井上治久氏(現:京都大学iPS研究所教授)との研究も、2010年に始まった。「iPS細胞を分化させて作った運動ニューロンを使って、細胞死を抑制する化合物を見つけ出そうと、100人ほどの患者さんに協力をお願いしました」 約1400種類の化合物をALS患者のiPS細胞から分化させた運動ニューロンに投与。ボスチニブの有効性を突き止め、2017年、米学術雑誌「Science Translational Medicine」に論文を発表した。 患者を診る大切さを学ぶ  広島県三次市で戦国時代から続く寺に生まれる。高校卒業後に進学した北海道大学理学部では、柔道にのめり込んだ。柔道部での熱血ぶりから後輩が書いた小説のモデルにもなっている。 住職だった父親が亡くなる前、地域のためにと開設した福祉施設と病院で働こうと、医師になることを決意。24歳で徳島大学医学部に入学した。 研修医時代、大阪の住友病院で指導を受けた当時の院長故・亀山正邦氏には最も影響を受けた。教授就任に当たって教室の基本方針「erstens bett!(まずは患者さんのベッドサイドから始めよ!)」は、亀山氏の行動の指針でもある。 「一緒に回診する時、カルテに記載された検査データについて報告しようとすると、それを制されました。予断せず、患者さんを診ることが重要であること。今もその教えを大切にしています」 通院困難な患者のもとへ  2006年、多忙な生活を送る中、脳卒中を発症した。幸い後遺症はなかったが大きな転機となった。抱えすぎていた仕事の中から「ALSを専門にする」と決めたのも、その時だ。病院では患者の来院を待つことが当たり前だったが、往診をしようと発想を変えた。 「ご自宅まで移動してみると、とにかく遠い。不自由な体で、患者さんがどのような思いで通院していたのか初めて分かった気がしました」 患者の協力を得て進めていたメチルコバラミンの臨床試験が、2020年3月に終了した。「その有効性を間もなく発表できると思います」と力を込めた。治療法がないと言われてきたALSに、ようやく一筋の光が差し始めている。 徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野徳島市蔵本町3-18-15 ☎️088-631-3111(代表)https://neuro-tokushima.com/

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人と情報がつながる「世界に開かれた大学」へ

関西医科大学友田 幸一 学長(ともだ・こういち)1977年関西医科大学医学部卒業。金沢医科大学大学院医学研究科感覚機能病態学教授、関西医科大学医学部耳鼻咽喉科学(現:耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)講座教授などを経て、2015年から現職。  大阪と京都の中間、京阪電鉄「枚方市」駅前にキャンパスを構え、2018年には看護学部、大学院を新設。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」による2020年世界大学ランキングでは、国内の私立大学で4位、関西の私立大学では1位と、存在感に注目が集まっている。 ―2028年の創立100周年に向けて。  まずは、2021年4月にリハビリテーション学部の開設を目指しています。本学は先端医療だけでなく、四つあるすべての病院で介護福祉も手掛けています。「出生から介護まで」を実践する医療系複合大学として、リハビリの現場を支える高度な知識と専門的技術を持つ人材を育成します。 国際交流事業も、より活性化します。その拠点になるよう国際交流施設や留学生の居室、患者さんご家族のための宿泊設備などを備えたタワー棟を、2021年に竣工予定です。本学のシンボルとなるでしょう。 同時に、主に発展途上国からの留学生を受け入れる「国際大学院」を開校予定です。4年間の授業料は免除、生活費も支援します。学んだ知識を母国で生かすとともに、われわれも交流を続けながら社会発展に寄与できればと思います。 仮称ですが、「最先端医学研究所」の設立計画も進んでいます。本学の特色を生かした研究テーマを掲げ、ナンバーワンではなくオンリーワンを目指す。まだ準備段階ですが、2~3年で具体化したいですね。 大学の機能拡張に伴い、内部体制の改革も必要でしょう。各部署で立案管理していた企画業務についてはデータを集約し、IRやURA(研究活動の企画・マネジメント)などを強化しつつ部門を整備します。 ―「THE世界大学ランキング」での評価は。  ランキングに入ることが目的ではなく、客観的指標で浮き彫りになる大学の良い点、弱点をしっかり分析することが重要です。調査はそのためのツールと捉えています。 今回、教育面の充実や論文の被引用率などを評価いただきましたが、いかに維持継続するかが肝心。高評価が刺激になって、全体のレベルアップにつながることを期待しています。 医科大学としての専門性を生かし、今後も研究力、教育力の充実に力を注いでいくつもりです。 ―今後は。  本学は女性の医学校として開学した歴史があります。伝統的に女性医師が多く、彼女たちが長く活躍できるよう支援することは、われわれの責務です。 その一環として、2020年4月に「オール女性医師キャリアセンター」を開設しました。女性医師の働きやすい環境づくり、リカレント教育の充実など、今のライフスタイルに合った対応策を、このセンターを拠点に取り組んでいきたいと思います。 関西医科大学グループとしての大規模な構想も考えています。各地の医師会には、本学を卒業した開業医が多く所属しており、世界を舞台に活躍している方も少なくありません。この人脈を生かし、連携を深めることはできないか。そこで実現したいのが「グローバル・コア・センター構想」です。インターネットで国や地域を結び、情報を集約するシステムを構築したいと考えています。 現在進行中の人的交流、経済社会活動、医工連携や海外との研究開発などのデータもすべて集めます。「このような情報・人を探している」「こんなプロジェクトを立ち上げたい」といったニーズに、スピーディーに応えるシステムです。 時間はかかっても、私が担うべき案件として少しずつ充実させていくつもりです。グローバルリーダーになれる医療人を育てるため、今後も名実ともに「世界に開かれた大学」を目指していきます。 関西医科大学大阪府枚方市新町2―5―1☎072―804―0101(代表)http://www.kmu.ac.jp/

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1年間、耕してきた畑に新しい種をまいていきたい

熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座宮本 健史 教授(みやもと・たけし)1994年熊本大学医学部卒業。同附属病院整形外科、慶應義塾大学医学部整形外科特任准教授、東京大学医学部整形外科客員研究員などを経て、2019年から現職。慶應義塾大学医学部整形外科学先進運動器疾患治療学Ⅱ特任教授兼任。  熊本大学大学院生命科学研究部整形外科学講座に着任し、2020年4月でちょうど1年を迎える宮本健史教授。東京から17年ぶりに戻ってきたこの1年を振り返るとともに、新たな取り組みについて話を聞いた。 ―教授としての1年間は。  出身は熊本大学なのですが、2002年から東京で活動していました。2019年に戻ってきて、教授として大学の医局はもちろん県内の関連病院、開業医のもとへあいさつに回りました。初めてお目にかかる方も多くいたのですが、地域が抱えている問題や、現在、お考えになっていることなど、さまざまな意見、要望を聞くことができました。 熊本県内では、多くの熊本大学整形外科の同門の先生方が活躍されています。同門の医師が熊本大学の教授に就いたということを、とても喜んでくださっていると、実感しました。 地域の関連病院の人事担当の方にお聞きすると、医師本人のことよりも、お子さんの教育環境や親ごさんの介護といったご家族の都合で、「この地を離れたい」、あるいは「ここに定着したい」というご希望が意外に多く、驚いています。 医師の人事というものはとても難しく、要望を伝えられずに、黙々と頑張っていらっしゃる先生にも目を向けていかなければなりません。医師の公平で適正な配置については、地域の皆さんと一緒に考えるべき問題だと思います。私はその調整役としての責務を果たしていきたいと思います。 ―医局の運営について。  17年間といっても、たかが17年。人もそうですが、整形外科という医療領域の中では、そう大きく変わるものではありません。さらに、医療レベルも、地域格差はないと感じています。 ただし、医療技術は、日々進化しています。例えば手術ナビゲーションシステムの採用といったことも、今後の整形外科では考えなければならないでしょう。ただし、ミーハー的に新しい技術に飛びつくわけではありません。その技術が既存のものと比べ、本当に良いものかどうかを検証していく必要があります。その上で、患者さんをご紹介いただく地域の関連病院や開業医の先生方にフィードバックし、理解していただく必要があると感じています。 一方、大学病院には果たすべき使命があります。合併症の患者さんや骨軟部腫瘍といったほかの施設では扱うことができない悪性腫瘍など、重篤な患者さんを受け入れていかなければなりません。その使命を果たすためには、高い医療技術を持った、ほかの診療科とのネットワークが必要になります。ほかの診療科と連携して、難しい症例の手術に対応できる体制を整えることも、私が果たすべき役割の一つだと感じています。 ―就任前の1年間、教授が不在でした。  実は、前任の教授の退官や教授不在などがあり、しばらく当講座では大学院生を受け入れていませんでした。これからは、大学院生を積極的に受け入れ、研究などに取り組み、中心的な役割を担ってもらいたいと考えています。 本人たちの勉強になるのはもちろん、医局スタッフも指導をする役割が与えられることで、医局全体のレベルアップにつながります。数年後には学会や論文発表など、熊本大学から外部へ、発信力を高めていきたいと思います。 ―新しい取り組みも始められています。  2019年に取り組み始めたことがあります。現在の専門研修プログラムでは、医師は大学内だけでなく、地域の関連施設でも指導を受けるようになっています。 そこで、次年度から専攻医として、熊本県内の関連施設に加えて、関東など県外の医療機関と連携し、研修を受けることができるプログラムをつくりました。すでに希望者も募り、4月から関東の施設に行くことも決定しています。 東京の大学病院にいたころ、地方にいる優秀な人材を、なぜもっと活用しないのだろうかと感じたことがありました。 外の景色を見ているからこそ、見えてきたものがあります。どちらかが良いということではなく、熊本の良さとほかの地域の良さを融合させるようなことができないか。どちらも経験している私のような人間が、もっと自ら発信していかなければならないと、この1年、実感してきました。そこで、考えたのがこのプログラムです。 もっと熊本ができることを伝えたい思いもあります。関東の医療機関と熊本の人材との連携づくりに、ぜひ一役買っていきたいと思っています。 ―1年たって、いよいよ本格的に始動ですね。  就任からの1年間、しっかり時間をかけて畑を耕してきました。次年度からは、少しずつ種をまいていく時期だと思います。 地域の中での連携、関東との連携、大学としての研究の拡充、医局員や大学院生の育成など、種をどのようにまいていくか。熊本市内、天草、水俣、人吉、さらには福岡県の大牟田市まで回って、期待の大きさを感じています。また、多くの病院から、「麻酔科医が不足して手術ができない」といった現状も聞くことができました。17年というブランクを埋めつつ、そのみなさんの期待を裏切らないよう気を引き締めて、取り組んでいきたいと思います。 熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座熊本市中央区本荘1―1―1☎096―344―2111(代表)http://kumadai-seikei.com/

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第32回日本整形外科超音波学会 風景常新 ―まだ観ぬ世界へ―

 画質の精度向上とともに、急速に普及が進みつつある運動器エコー。そのトップランナーたちが集う「第32回日本整形外科超音波学会」が6月6日(土)・7日(日)、奈良市で開催される。現場の盛り上がりを体感できる2日間となりそうだ。 ブーム到来、運動器エコー 会長 田中 康仁 氏 (奈良県立医科大学整形外科教授)  内臓を診るものだった超音波が運動器に使われ始めて三十数年。機器の発展とともに、運動器エコーは整形外科領域の診断・治療に欠かせないモダリティーになりつつあります。 エコーは非侵襲で扱いやすく、かつ必要な場に持ち込んで手軽に使えるのが特長です。該当部位を動かしながら、一瞬で出血や肉離れなどの状態を確認できるので、治療の判断がすぐできる。開業医や理学療法士などに重宝されており、現場ではかなり盛り上がっているなと感じますね。そういう意味では、整形外科超音波はボトムアップの世界。全国の大学に重要性が広まれば、リサーチも飛躍的に進むでしょう。日常の診療だけでなく、エコーを学問として体系化するための一里塚となる学会にしたいと考えています。 近年注目されている「ハイドロリリース」や「筋膜リリース」、あるいは「エコーガイド下インターベンション」。これらの言葉は、実はまだ定義があいまいな状態です。今後、解剖学的な裏付けをもってきちんと定義しなければなりません。その方向性を示すのも、今回の大きな目標です。開催テーマは「風景常新―まだ観(み)ぬ世界へ―」。「風景常新」は、川端康成が日本画家の東山魁夷に贈った言葉です。初心者からマニアックなヘビーユーザーまで、新しい発見のある学会を目指します。 エコーの名手 ライブで「魅せます」  特別企画の一つは、「言葉の定義 エコーガイド下インターベンションの手技」。超音波を用いた手技を、医学用語としてどう定義すべきか、ディスカッションしながら探ります。 必見は、ライブパフォーマンス。エコーの名手が、さまざまな体形の被験者の画像で「魅せます」。手元とエコー画面、二つのスクリーンを見比べながら、コツを発見してほしいですね。特別ゲストには、お笑い芸人でボディービルダーのなかやまきんに君が登場。どんな筋肉なのか、丸見えになりますよ(笑)。 教育研修講演にも力を入れています。小林只医師(弘前大学医学部附属病院総合診療部)と宮武和馬医師(横浜市立大学附属病院整形外科)の登壇は楽しみですね。肉離れも面白いテーマ。韓国とアメリカからの最新情報や、理学療法士による筋肉描出やテーピングの話題もあります。 今年はちょうど五輪・パラ開催年。スポーツへの関心が高まる中、シンポジウムでは「超音波を用いたアスリートサポート」を目玉として取り上げます。メディカルチェック、チームドクターやアスレチックトレーナーによる活用法、診断・治療への応用などのセッションを予定しています。 伝統的なテーマとしては、小児診療とリウマチ診療の分野をピックアップし、現状を紹介します。今回講演をお願いした多くは、卒後10年以内の若手たち。担い手である新世代がどんどん活躍することで、議論がより活発になればと願っています。 奈良は全国的にも、エコーが広く普及している県です。一流雑誌に英語論文を掲載して学位を取るなど、優秀な開業医の先生も多く、日頃から「奈良=エコー先進県」を自負しています。この地から新しい風を起こせたらと思っています。 今回、会場規模もスケールアップしました。開業医の先生が参加しやすい週末開催です。一人でも多くの参加を、お待ちしています。 学会の主なプログラム(予定)6月6日(土)●「超音波を用いたアスリートサポート」●「ライブパフォーマンス エコーできれいな絵が出せないあなたに手とり足とり教えます」6月7日(日)●「言葉の定義 超音波ガイド下インターベンションの手技」 会期:6月6日(土)・7日(日) 会場:なら100年会館 運営事務局:コンベンションリンケージ jasou2020@c-linkage.co.jp学会HP:https://www.c-linkage.co.jp/jasou2020/

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母子感染のリスク減らし幼子の後遺症を防ぎたい

神戸大学大学院 医学研究科外科系講座 産科婦人科学分野山田 秀人 教授(やまだ・ひでと)1984年北海道大学医学部卒業。同大学病院、米マサチューセッツ州ハーバード医学校、北海道大学大学院医学研究科産科生殖医学分野などを経て、2009年から現職。  母子感染する疾患「TОRCH(トーチ)症候群」。その多数を占める、サイトメガロウイルス感染の新生児尿検査とトキソプラズマ感染の抗原虫薬治療が、それぞれ保険適用となった。立役者の1人、山田秀人教授は教室を率いて11年。地域の周産期医療や、研究の進捗(しんちょく)についても聞いた。 ―TОRCH症候群について。  トキソプラズマ、その他(梅毒と、パルボウイルスB19など)、風疹、サイトメガロウイルス(CMV)、単純ヘルペスの頭文字から名付けられました。この患者さんの分娩管理や新生児治療を行っています。中でも多い二つの感染症に関して近年、大きな進展がありました。 一つは寄生虫の一種であるトキソプラズマ。治療薬が2018年10月に保険収載され、今年1月にマニュアルが改定されました。私が国内で初めてその土台となる妊婦抗体スクリーニングを開始して15年。妊婦が抗原虫薬を服用しやすくなったことで、さらに妊娠中に検査を受ける人が増えればいいですね。 ―もう一つがCMV。年間1000人に後遺症が発生するそうです。  CMVは、唾液や尿を通して多くが子どもの頃に感染するウイルス。妊娠中に感染すると胎児に影響が出る場合があります。出生後に見逃されて適切に対処できず、難聴や精神遅滞などを引き起こす例も多かったのです。実際、4歳児の難聴の原因の4分の1はCMVです。そこで新生児に特定の症状がある場合に行う尿検査が2018年、保険適用となりました。 私たちが目指すのは、その先の治療法の確立です。2009年から関連施設と共に抗ウイルス薬治療を行い、56人の感染児のうち症状のある23人中19人を治療したところ、正常発達が37%、軽度後遺症が21%、計58%に効果があった。これを受け、今年1月から六つの大学で医師主導治験を始めたところです。 当初は初感染の妊婦からより多くの重症感染児が生まれると思われていましたが、私たちの研究では、再活性化・再感染によって発生する方が多いことも分かっています。 妊婦が気付かないうちに感染する、あるいはウイルスの再活性化・再感染というのは、防ぎようがない。ですから、なるべく出生後すぐに検査し、生後1カ月以内の早期治療につなげることが肝心です。 今、全国的に推奨されているのは、妊娠中の感染兆候や胎児発育不全、超音波検査での異常所見や、新生児聴覚スクリーニングで要再検になった場合に保険適用で尿検査すること。ですが、要件に切迫流産と早産も加えた方が良いことを1月に論文にまとめ、提案しているところです。  現在、感染リスクのある新生児に尿検査を行う施設は7割程度。他の施設に広めるため、啓発にも力を入れていきます。さらに医師主導治験を成功させ、3年後をめどに抗ウイルス薬の保険適用を目指したいですね。  登山に例えれば今、ようやく6合目といったところ。ここまでいいデータが出ているのは、スタッフや小児科の先生方の力添えがあってこそ。今後も地道に続けていきます。 ―兵庫県における周産期医療の現状は。  大学医学部附属病院は兵庫県に6施設ある総合周産期母子医療センターの一つ。中でも、重症の母体合併症や胎児異常などの搬送を数多く受け入れています。不育症や母子感染なども多いですね。年間分娩数は約600件です。 当県では2006年から周産期医療情報システムの運用を開始。施設間で診療応需情報を共有しています。人口1000人に対する2018年の周産期死亡率は全国3・3に対し兵庫県は2・7、新生児死亡率は全国0・9に対し0・7と、いずれも低い率を維持。産婦人科と小児科がうまく連携できているといえるでしょう。 神戸大学大学院 医学研究科外科系講座 産科婦人科学分野神戸市中央区楠町7―5―1☎078―382―5111(大代表)http://www.med.kobe-u.ac.jp/obgyn/

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中等度進行肝がんに対する新たな治療法を確立

近畿大学 医学部消化器内科学 工藤 正俊 主任教授(くどう・まさとし)1978年京都大学医学部卒業。同附属病院、神戸市立中央市民病院、米カリフォルニア大学留学などを経て、1999年から現職。近畿大学理事(医学部・病院担当)兼任。  工藤正俊主任教授らの研究グループは、中等度進行肝がんに対する新たな治療法を考案し、生存期間を2倍近く延長させる証明をした。工藤教授は、2019年「高被引用論文著者(Highly Cited Researcher)」の臨床医学部門で最も影響力のある医師として、日本から唯一選ばれている。 ―中等度進行肝がんに対する新治療法について。  肝細胞肝がんは早期がん、中等度進行肝がん、進行肝がん、末期がんの四つのステージに分かれています。今回発表したのは中等度進行肝がんでも進行期に近いがんに対する新しい治療法です。  中等度進行肝がんは患者の層が幅広く、肝がんの中でも最も多い集団です。中等度進行肝がんのサブ分類でB2に当たる患者さんに、これまでの標準治療である肝動脈化学塞栓法(TACE)を行うと、効果が低く肝機能が落ち、結果的に命が短くなってしまうことがありました。こうした問題点がありながら、これまで新しい治療法は誰も提唱していなかったのです。  肝臓の両葉に多発しているがんの場合は、抗がん剤と塞栓物質を混和して流すため、効果が弱くなり正常部分も傷めてしまいます。一方、がんが四つか五つ程度の場合は、腫瘍の近くで超選択的に塞栓物質を入れることができ、肝機能を落とすことなく治療効果を高めることができます。  そこで、これまでは進行肝がんにのみ使っていた抗悪性腫瘍薬「レンバチニブ」を、中等度の肝がんに対して先に投与したのです。腫瘍を小さくしたり、少なくしたりしてから残った腫瘍に塞栓療法を行うことで、二つの高い効果を得ることができました。  一つは塞栓療法を行う際に腫瘍血管を正常化することができ、薬の効果を保つことができる点。もう一つは血管新生因子を抑制し、がんの進行を抑える効果があるという点です。この新しい治療法によって、再発防止や生存期間が延長することがわかりました。  これまではTACEを繰り返して肝機能が悪化し、2年以内に亡くなることが多かった中等度進行肝がんの患者さんに対し、根治的な治療ができるようになっていくでしょう。 ―研究の今後の展望は。  近畿大学の消化器内科では肝疾患に限らず、最先端の医療を行うよう心掛けることは当然のこととして、取り組んでいます。  最先端医療を継続していなければ、まだ解決されていない問題点や限界が見えてきません。そこから限界を突破するにはどうすればいいのかを考え、新しい治療法になり得るかどうかを臨床試験で検証します。  より良い治療を確立するために臨床試験は不可欠であり、そこで証明しなければエビデンスレベルは低くなってしまいます。私たちは経験から治療するのではなく、臨床試験によって一つひとつ証明してきました。  また研究の成果を論文で発表することで、世界中に広がっていきます。目の前の患者さんはもちろん、世界中の患者さんの治療につながることは、医師にとって大きなやりがいにもなります。 ―医局について。  最終的には患者さんのためになる成果を出すこと、そして「和とフットワーク」を重視しています。救急患者さんやほかの診療科から相談を受ければ、すぐに対応します。それこそが〝患者ファースト〟にもつながるからです。  教室には学会や論文発表、臨床への意欲の高い人が集まってくれています。中堅以上の医師たちが熱意を持って取り組んでいるため、その下にいる若い医師たちも積極的で、英語の論文は年間100本程度発表しています。 今後も臨床や研究、論文発表に力を入れ、世界でもトップレベルの医療を誇る消化器内科を目指していきます。 近畿大学 医学部消化器内科学大阪府大阪狭山市大野東377―2☎072―366―0221(代表)https://www.med.kindai.ac.jp/shoukaki/

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