九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

新型コロナの経験を県民の安心につなげる

奈良県立医科大学附属病院吉川 公彦 病院長(よしかわ・きみひこ)1980年奈良県立医科大学医学部卒業。米オレゴン健康科学大学、奈良県立医科大学放射線科助(准)教授などを経て、2020年から現職。同大学放射線・核医学科教授、IVRセンター長兼任。  開設75周年を迎え、大学移転プロジェクトに引き続き、病院の改修計画も立ち上がりつつある中、猛威を振るう新型コロナウイルス感染症(COVID―19)。吉川公彦病院長は4月の就任直後から、前代未聞の緊急事態に臨むこととなった。この経験は、どのように生かされるのか。 新型コロナ対策で議論 交流が活性化  「就任直後からずっと新型コロナウイルス感染症対策に追われてきたというのが実感です」と吉川病院長。もともと感染症病棟は9床のみだったが、県から重点医療機関として新型コロナ対応病床を150床確保するよう要請が入った。何とか三つの一般病棟を転換しつつ、人員配置や訓練などに当たる日々が続いた。診療制限は、外来3割減、病棟5割減、手術枠も5割減にまで及んだ。 増床に当たっては、立ち上げた多職種のメンバーによる13のワーキンググループで検討を重ねた。「ここまで時間を集中して議論したことは、ある意味、非常に価値がありました」 職員一丸となって対策に当たった結果、認識がしっかりと共有でき、グループウエアを利用したWEB会議などが浸透。「会議の時間短縮、フランクに話し合える関係性が生まれ、業務の効率化につながりました」 経験を生かし働き方改革を促進  この変化を、働き方改革にも生かすことができないかと模索している。2020年度中に達成したい項目のうち、医師の労働時間短縮に対する緊急的対策は二つ。出退勤管理システムを改修し、より正確に勤務実態を把握することと、タスクシフティングの推進だ。 業務移管の具体策として、病棟クラークの業務範囲を見直し、医師事務作業補助者の配置充実により、25対1体制を目指す、麻酔補助として臨床工学技士を採用・育成するなどを挙げている。 看護職員の負担軽減としては、医事部門や患者相談部門の統合も視野に入れた組織再編。入院に関する情報収集や説明事務などの一元化を図る予定だ。 「働き方改革は、部署ごとに事情が異なるため、それらを考慮した上での工夫が必要です。新型コロナ対策でコミュニケーションが積極的、効率的になったことは、その推進力になり得る。現場からの自発的なアイデアを分析して改善に努めたいと思います」 最新の医療に取り組む  病院運営の目標の一つに掲げるのは、がん医療の推進。がん診療連携拠点病院として、ゲノム医療にも積極的に取り組みたい考えだ。まずは腫瘍内科の設立と、がん薬物療法専門医の育成に着手。医療の質をさらに高め、がんゲノム医療拠点病院を目指すという。 放射線科医としてこれまで取り組んできたIVR(画像下治療)の応用など、最新の医療を開拓、発信するのも責務だと語る。 「例えば、抗がん剤を直接血管内に入れることで、より高い効果、そして少ない副作用で、患者さんにやさしい治療が実現します。また、切らずに治療するIVRの利点を発展させ、治療器具の開発や、IVRが困難な病気にも適用を広げられる、技術の確立を目指したいと思います」 各診療科においては、得意分野でのトランスレーショナルリサーチを積極的に推奨。臨床研究センターを主導とする臨床研究中核病院認定に向けた体制づくりにも取り組んでいく。 「組織が躍進するためには各チームがうまくまとまり、パワーが結集しなければなりません。お互いの意見を集約し、調整していく役を、これからも担っていきます」 生まれも育ちも奈良県。母校と奈良を愛する気持ちは誰にも負けない。「健康を守る最終ディフェンスラインとして、県民に安心してもらえるよう、精いっぱい尽くします」 奈良県立医科大学附属病院奈良県橿原市四条町840 ☎️0744-22-3051(代表)http://www.naramed-u.ac.jp/hospital/

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地域医療の充実に「患者第一」で臨む

独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院栗栖  薫 院長(くりす・かおる)1981年広島大学医学部卒業。国立呉病院(現:国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター)、広島大学大学院医系科学研究科脳神経外科学教授などを経て、2020年から現職。  広島県内で3番目の人口約22万人を擁する工業都市・呉。勤労者医療を中心に発展してきた中国労災病院に2020年4月、新院長が誕生した。 地域を見て役割を考える  広島大学脳神経外科学講座の教授職を2020年3月に退き、同年4月、中国労災病院院長に就任した。 「ここ呉医療圏は、隣接する広島中央医療圏との車の往来が多く、広島中央医療圏から流入する患者さんが増加しています。当院にも、広島中央医療圏にある東広島市から、多くの患者さんがお見えになります。当面この傾向は続くでしょう」と地域の現状を見る。 中国労災病院は労働者健康安全機構が運営する労災病院32施設の中の一つ。地域の救急・急性期医療、勤労者医療を支え、付随するリハビリテーション医療でも力を発揮。地域周産期母子医療センター、県がん診療連携拠点病院、県災害拠点病院などの指定も受ける中核病院だ。 「今後、この地域の医療のさらなる充実を図っていくためには、今よりも少し広域の視点を持ち、2次医療圏にとらわれない地域の環境や人の動きを考慮に入れた対応が必要になるのではないか」。その中で、自院が果たすべき役割は小さくないと考えている。 脳卒中対策を地域に広げたい  脳神経外科医として長年、臨床・教育・研究に関わってきた。自家頭蓋骨由来間葉系幹細胞を用いた脳梗塞に対する再生医療研究、広島大学病院へのスマート手術室「SCOT」導入など、華やかな実績も多い。同時に、地域連携という地道にも見える活動にも力を注ぐ。 常に考えていたのは「どうしたら、脳卒中患者の後遺症を軽減できるのか」ということ。発症早期の治療開始が欠かせないことから、自治体、医師会などとの連携に積極的に取り組み、早期治療実現のため多方面からアプローチしてきた。 広島市や市医師会、病院などが参加した「脳血管内治療における救急医療体制(病院前救護)検討部会」では、部会議長として、兵庫医科大学脳神経外科の吉村紳一教授ら開発の「病院前脳卒中病型判別システム (JUST Score)」を活用した救急搬送体制構築に尽力。 システムは、救急隊員が現場で血圧の値、まひや頭痛の有無などを入力すると、可能性が高い病型を画面に提示。病型に即した受け入れ病院を、搬送+治療開始までの時間順にリストで表示する。 「運用から8カ月間の中間データの解析では、重症脳卒中患者について救急隊員の医療機関への交渉回数が有意に減少しています」。中国労災病院赴任後は、呉市役所・消防署でも、このシステムについて説明するなど、連携と脳卒中対策の拡大に向けて動き始めている。 患者第一 その前提に職員  中国労災病院の理念は「患者中心の良質な医療と地域医療への貢献」。「言い換えるなら、『ペイシェント・ファースト(患者第一)』。それをいかに具体的に実践していくのか、考えるのが私の役目です」 着任直後からCOVID―19の対応に追われる中でも、第一に考えるのは患者・地域のこと。ただ、その実現の前提に必要なのは、病院職員全員の健康・安全だと考える。 「COVID―19によって、病院は、感染拡大を防ぎながら通常の医療提供体制を維持する必要が出ている。職員も、患者さんを守るための感染対策などの負担が増えています」 だからこそ、高い意識で業務に従事する職員を目にするたびに、決意を新たにする。「職員を守ることが病院、そして私の責任。安心して仕事ができる環境をつくっていきたい」 独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院広島県呉市広多賀谷1-5-1 ☎️0823-72-7171(代表)https://www.chugokuh.johas.go.jp/

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良き教育者であるために

京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学 整形外科高橋 謙治 教授(たかはし・けんじ)1990年京都府立医科大学医学部卒業。米カリフォルニア大学サンディエゴ校、日本医科大学整形外科・リウマチ外科臨床准教授、国際医療福祉大学医学部整形外科教授などを経て、2020年から現職。  新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた2月に教授就任。診療や手術が思うようにならない中で、臨床に優れた医師を育てることを信念に取り組む。10年ぶりに戻ってきた母校で今後、実現したいこととは。 「白夜」に導かれ整形外科の道へ  工学部を目指し高校生活を送っていたある日、偶然手にしたのは、渡辺淳一の自伝的小説「白夜」だった。研修医がへき地で苦労しながら一人前に育つ姿に感銘を受けた。「そのとき、整形外科医になろうと決めました」と振り返る。 数年後、若狭湾沿いにあるへき地の病院に赴任する機会に巡り合った。雪深い道での交通事故や林業事故、スキーや海水浴でのアクシデント…。まだ若く、自信はない。しかし、目の前の患者を救うのは自分しかいない状況が続く。必死に手を動かし、勉強し、技術を磨いた。「とにかく真摯(しんし)に向き合うしか、方法がなかった。おかげで、臨床の自信がつきました」と懐かしむ。 大学に戻ってからは股関節外科を担い、2010年にはリウマチの最先端を学ぼうと日本医科大学へ。次に教授として赴任した国際医療福祉大学では、人工関節を探求。そして2020年、再び母校へ戻った。 広い守備範囲で高みを  1949年設立の歴史ある教室。関連病院は50以上、医局員は200人超、同門会も600人を超える大所帯を束ねる。「11の専門グループがあり、幅広い臨床に対応できることが特長です。さらに全国でアイデンティティーを示せるよう、一つひとつのレベルを上げていくのが私の役目です」 その先鋒(せんぽう)にしたいのが、自らの専門である関節外科。「中でも罹患(りかん)人口2000万人以上とされる変形性膝関節症ですね。手術だけでなく薬物療法、リハビリ、人工関節や骨切り術など最適な方法で対処します」 研究は、変形性膝関節症のMRI解析。レントゲンでは把握しきれない症状や、その後の経過を知り得る検査方法の開発に挑んでいる。成果の一つとして、半月板が内側にずれている患者は、軟骨が傷みやすくなることを突き止めた。 ずれた半月板を元に戻す縫合術はリスクもある。注目しているのはリハビリテーションだ。「有効なリハビリを開発した結果、症状も、関節軟骨が傷むのも抑えられることが分かりました。関節内注射、再生医療などと組み合わせる研究も計画中です」 実は、自身がこの変形性膝関節症を患う。5年ほど前、自転車レースのためのトレーニング中に発症。使い過ぎによるものだという。半月板が痛み、歩くのもおっくうになった。共同開発した温熱療法なども活用しながら治療中だという。 「まさか自分が開発した機器を、自分で使うとは思いもしませんでした。膝グループの先生からは手術した方がいいと勧められていますが(笑)。患者さんの気持ちは痛いほどよく分かります」 良き教育者になる  2月の就任時から、新型コロナウイルス感染症の対応に追われる日々。まず手術ができなくなり、医局員の半分が在宅勤務になった。院内感染が起きないよう最大限の取り組みを行いながらも、医師の育成については、しっかりとしたビジョンを示す。 「大学の教授はスーパードクターでも、有能な研究者でなくてもいい。ただ、良い教育者であることです」と高橋教授。今回起用されたのも、その熱意ゆえと考えている。 若手に伝えたいことは二つ。「まずは臨床の基本を身に付けること。患者さんの顔をしっかりと見て、触れて、診る。病棟を回って1日1回は必ず声を掛ける。電子カルテだと、患者さんの顔を見ないことも多い。患者さんの気持ちをすくい取らずして、相手の立場で考えることはできない」と話す。これは、患者だけにとどまらない。メディカルスタッフ、検査技師、理学療法士など、共に働くスタッフの気持ちも想像し、行動することを大切にしてほしいと、入局者に対してのあいさつで伝えたという。 さらに、自分のキャリアにおいて、何が大切かを考えることも忘れてはならない。「他者に貢献すること、責任の中で成長することを人生の目的にしてほしい。切に願います」 まずは良き医師として育てること。その中からスーパードクターと呼ばれるほど臨床で活躍する医師をはじめ、行政で活躍する、あるいは教育者として活躍するといった医師が出てくることが夢だと語る。 そんな、将来活躍できる医師を育てたいとの思いで家族を残し、単身赴任した。子どもたちには常に自己研さんする背中を見せたいと語る。 「息抜きは、家族との時間です。テレビ電話を前に一緒に食事したり、子どもの勉強を見たり。オンラインの恩恵を享受しています(笑)」 京都府立医科大学大学院医学研究科 運動器機能再生外科学 整形外科京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465 ☎️075-251-5111(代表)http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/orthoped/

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ALS患者に常に寄り添う

徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野和泉 唯信 教授(いずみ・ゆいしん)1995年徳島大学医学部卒業、広島大学第三内科(現:脳神経内科)入局。住友病院、医療法人微風会理事長、徳島大学病院神経内科(現:脳神経内科)特任講師などを経て、2020年から現職。  ALS(筋萎縮性側索硬化症)の研究や臨床に携わり約20年。これまで診たALS患者数は700人近くに上る。病院内にとどまらず、患者宅の往診も続ける。研究成果が実を結びつつある今、新教授として思うこととは。 ALSの解明に挑む  徳島大学医学部を卒業後、故郷の広島大学第三内科に入局。同大学原爆放射線医科学研究所教授の川上秀史氏の下、神経変性疾患の遺伝子研究に取り組んだ。 「ALS研究を手伝ってほしい」と2001年に、徳島大学に開設された高次脳神経診療部(現:臨床神経科学分野)の初代教授・梶龍兒氏に声を掛けられ、母校に戻り、ALSとの長い付き合いが始まる。 10万人当たり3〜5人の割合で発症するALS。指定難病の一つで、高齢化と共に罹患(りかん)する人が増えている。中枢神経の特定の運動ニューロンが少しずつ死滅することで進行。手足、のど、舌の筋肉が衰え呼吸が難しくなり、やがて、人工呼吸器が必要になる。徳島大学がALSの臨床に本格的に取り組んだことで、多くの患者が全国各地から訪れるようになった。 その頃、川上氏、埼玉医科大学教授だった萩原弘一氏(現:自治医科大学教授)との共同研究もスタート。2010年、ALSの原因遺伝子OPTN(Optineurin)を同定、英学術雑誌「Nature」に成果を掲載した。 大阪の住友病院で指導医だった井上治久氏(現:京都大学iPS研究所教授)との研究も、2010年に始まった。「iPS細胞を分化させて作った運動ニューロンを使って、細胞死を抑制する化合物を見つけ出そうと、100人ほどの患者さんに協力をお願いしました」 約1400種類の化合物をALS患者のiPS細胞から分化させた運動ニューロンに投与。ボスチニブの有効性を突き止め、2017年、米学術雑誌「Science Translational Medicine」に論文を発表した。 患者を診る大切さを学ぶ  広島県三次市で戦国時代から続く寺に生まれる。高校卒業後に進学した北海道大学理学部では、柔道にのめり込んだ。柔道部での熱血ぶりから後輩が書いた小説のモデルにもなっている。 住職だった父親が亡くなる前、地域のためにと開設した福祉施設と病院で働こうと、医師になることを決意。24歳で徳島大学医学部に入学した。 研修医時代、大阪の住友病院で指導を受けた当時の院長故・亀山正邦氏には最も影響を受けた。教授就任に当たって教室の基本方針「erstens bett!(まずは患者さんのベッドサイドから始めよ!)」は、亀山氏の行動の指針でもある。 「一緒に回診する時、カルテに記載された検査データについて報告しようとすると、それを制されました。予断せず、患者さんを診ることが重要であること。今もその教えを大切にしています」 通院困難な患者のもとへ  2006年、多忙な生活を送る中、脳卒中を発症した。幸い後遺症はなかったが大きな転機となった。抱えすぎていた仕事の中から「ALSを専門にする」と決めたのも、その時だ。病院では患者の来院を待つことが当たり前だったが、往診をしようと発想を変えた。 「ご自宅まで移動してみると、とにかく遠い。不自由な体で、患者さんがどのような思いで通院していたのか初めて分かった気がしました」 患者の協力を得て進めていたメチルコバラミンの臨床試験が、2020年3月に終了した。「その有効性を間もなく発表できると思います」と力を込めた。治療法がないと言われてきたALSに、ようやく一筋の光が差し始めている。 徳島大学大学院医歯薬学研究部 臨床神経科学分野徳島市蔵本町3-18-15 ☎️088-631-3111(代表)https://neuro-tokushima.com/

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高齢化により患者が増加 皮膚科医の育成が急務

秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学・形成外科学講座河野 通浩 教授(こうの・みちひろ)1994年秋田大学医学部卒業。米マサチューセッツ総合病院、米ハーバード大学医学部、名古屋大学大学院医学系研究科皮膚病態学准教授などを経て、2019年から現職。  1974年に開講した秋田大学皮膚科学・形成外科学講座は、地域医療を守りながら、最先端の医学研究を進めてきた。2019年9月、20年ぶりに母校へ戻り、教授に就任した河野通浩氏は、診療・教育・研究それぞれに注力し、地域医療の課題解決も視野に入れている。 ―医局の特徴や人材育成について教えてください。  当院は秋田県の特定機能病院であり、県内における、いわば「最後の砦(とりで)」です。皮膚科、形成外科も県内から多くの患者さんを受け入れ、皮膚がん、重症薬疹、全身の水疱(すいほう)症、重症熱傷などに対して、高度医療を提供しています。 また、湿疹、白癬(はくせん)、帯状疱疹(ほうしん)などの一般的な皮膚疾患も数多く診療しており、アトピー性皮膚炎や乾癬(かんせん)などの専門外来も設置。まさにオールラウンドに対応しています。 研究に関しては、色素異常症やアトピー性皮膚炎などに遺伝子からアプローチし、病態の解明や最適な治療法の開発に取り組んでいます。今後はさらに対象を広げ、じんましんや真菌症に対しても遺伝子の研究を進めたいと考えています。これらはまだチャレンジの段階ですが、いずれは新たな治療法を確立し、患者さんに還元できればと思っています。 秋田県は皮膚科の医師が不足しており、まずは幅広い疾患に対応できるオールラウンダーな医師を育てる必要があります。しかし同時に、自分の専門領域をしっかり持ち、その領域の国際学会でも認められる優れた人材の育成も進めたいと思っています。 ―地域の医療機関との連携について。  医局のスタッフや県内の皮膚科医が一斉に集まる談話会を、月に1回程度開催しています。 それぞれ別の医療機関で働いている医師たちが、定期的に顔を合わせる機会を設けることで、患者さんの相談、紹介などもスムーズです。秋田県では談話会の存在により、大学病院と地域の先生とのコミュニケーションが、かなり良好であると感じています。 ただし、地域全体としての課題はまだあります。秋田県は高齢化がかなり進んでおり、それに伴い皮膚がんなど、重症の患者さんが増えてきています。しかし、皮膚科医が少ないことから、地域によっては内科や外科の先生が皮膚疾患の初期対応をしてくださっているケースが少なくありません。 患者さんのためには、早い時期に専門の医師が対応することが理想です。県内の皮膚科医の育成を含め、皮膚科診療体制をできるだけ充実させたいと思っています。 ―今後の目標は。  まずは学生たちに皮膚科の魅力を伝え、多くの人に入局してもらうことです。 皮膚科は、他科に比べてワーク・ライフ・バランスが比較的取りやすいと言えるでしょう。女性医師の結婚や出産にも対応し、復帰後もしっかりと仕事に取り組める環境を整えています。研究に打ち込むこともでき、これらのメリットを伝えたいと思っています。 これにより医局の人数が増え、結果的に秋田県内で働く皮膚科医が増えれば、地域医療の課題を改善できます。加えて、人員の増加で余裕も生まれ、それぞれ専門領域の研究も加速するでしょう。このような良い循環をつくることが、大きな目標です。 個人の目標としては、研究をじっくりと進めたいと思っています。これまで、私は色素異常症に関する二つの遺伝子を発見しました。一つは大学院生の時に始めた研究で、指導教授などの力を借りながら、約10年かけて発見。二つ目は私が中心となり、一つ目の発見の10年後に発見しました。 いずれも長い時間が必要でしたが、成果は出ています。次の10年間で、また新しい何かを見つけたいと考えています。 秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学・形成外科学講座秋田市本道1―1―1☎018ー834ー1111(代表)http://www.med.akita-u.ac.jp/~hihuka/

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人と情報がつながる「世界に開かれた大学」へ

関西医科大学友田 幸一 学長(ともだ・こういち)1977年関西医科大学医学部卒業。金沢医科大学大学院医学研究科感覚機能病態学教授、関西医科大学医学部耳鼻咽喉科学(現:耳鼻咽喉科・頭頸部外科学)講座教授などを経て、2015年から現職。  大阪と京都の中間、京阪電鉄「枚方市」駅前にキャンパスを構え、2018年には看護学部、大学院を新設。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイアー・エデュケーション(THE)」による2020年世界大学ランキングでは、国内の私立大学で4位、関西の私立大学では1位と、存在感に注目が集まっている。 ―2028年の創立100周年に向けて。  まずは、2021年4月にリハビリテーション学部の開設を目指しています。本学は先端医療だけでなく、四つあるすべての病院で介護福祉も手掛けています。「出生から介護まで」を実践する医療系複合大学として、リハビリの現場を支える高度な知識と専門的技術を持つ人材を育成します。 国際交流事業も、より活性化します。その拠点になるよう国際交流施設や留学生の居室、患者さんご家族のための宿泊設備などを備えたタワー棟を、2021年に竣工予定です。本学のシンボルとなるでしょう。 同時に、主に発展途上国からの留学生を受け入れる「国際大学院」を開校予定です。4年間の授業料は免除、生活費も支援します。学んだ知識を母国で生かすとともに、われわれも交流を続けながら社会発展に寄与できればと思います。 仮称ですが、「最先端医学研究所」の設立計画も進んでいます。本学の特色を生かした研究テーマを掲げ、ナンバーワンではなくオンリーワンを目指す。まだ準備段階ですが、2~3年で具体化したいですね。 大学の機能拡張に伴い、内部体制の改革も必要でしょう。各部署で立案管理していた企画業務についてはデータを集約し、IRやURA(研究活動の企画・マネジメント)などを強化しつつ部門を整備します。 ―「THE世界大学ランキング」での評価は。  ランキングに入ることが目的ではなく、客観的指標で浮き彫りになる大学の良い点、弱点をしっかり分析することが重要です。調査はそのためのツールと捉えています。 今回、教育面の充実や論文の被引用率などを評価いただきましたが、いかに維持継続するかが肝心。高評価が刺激になって、全体のレベルアップにつながることを期待しています。 医科大学としての専門性を生かし、今後も研究力、教育力の充実に力を注いでいくつもりです。 ―今後は。  本学は女性の医学校として開学した歴史があります。伝統的に女性医師が多く、彼女たちが長く活躍できるよう支援することは、われわれの責務です。 その一環として、2020年4月に「オール女性医師キャリアセンター」を開設しました。女性医師の働きやすい環境づくり、リカレント教育の充実など、今のライフスタイルに合った対応策を、このセンターを拠点に取り組んでいきたいと思います。 関西医科大学グループとしての大規模な構想も考えています。各地の医師会には、本学を卒業した開業医が多く所属しており、世界を舞台に活躍している方も少なくありません。この人脈を生かし、連携を深めることはできないか。そこで実現したいのが「グローバル・コア・センター構想」です。インターネットで国や地域を結び、情報を集約するシステムを構築したいと考えています。 現在進行中の人的交流、経済社会活動、医工連携や海外との研究開発などのデータもすべて集めます。「このような情報・人を探している」「こんなプロジェクトを立ち上げたい」といったニーズに、スピーディーに応えるシステムです。 時間はかかっても、私が担うべき案件として少しずつ充実させていくつもりです。グローバルリーダーになれる医療人を育てるため、今後も名実ともに「世界に開かれた大学」を目指していきます。 関西医科大学大阪府枚方市新町2―5―1☎072―804―0101(代表)http://www.kmu.ac.jp/

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和歌山の小児医療を守り川崎病の新治療を開発

和歌山県立医科大学 小児科学教室鈴木 啓之 教授(すずき・ひろゆき)1981年和歌山県立医科大学医学部卒業。紀南綜合病院(現:紀南病院)、米テキサス大学ガルベストン校、和歌山県立医科大学小児科学教室准教授などを経て、2015年から現職。  小児の後天性心臓病の原因となる川崎病。その臨床・研究に長年携わってきた鈴木啓之教授と研究チームは、2019年に新治療法を発表。地域医療にも尽力する鈴木教授に聞いた。 ―川崎病の新治療法とは。  川崎病は、年間1万5000人以上が罹患(りかん)する原因不明の病気です。全身の血管に炎症が起き、重症化すると血管壁に瘤(こぶ)ができて冠動脈障害を合併する。川崎病患者の約2・6%に、後遺症として残ります。 この冠動脈病変リスクを低減しようと開発したのが、通常の免疫グロブリン大量療法をシクロスポリンで強化する新治療法です。シクロスポリンはネフローゼ症候群などに有効な免疫抑制剤で、これを5日間少量内服すれば、冠動脈病変リスクを0・46倍に抑制できます。 今の治療に追加して少量飲むだけなので、患者さんの負担が少なく、薬代が安いなどメリットも大きい。2月に保険収載となり、ファーストラインで使えるようになりました。 ―小児科では珍しい、医師主導治験を経たそうですね。  15年ほど前、強い関節症状のある川崎病の患者さんに、若年性特発性関節炎に有効と言われていたシクロスポリンを投与。効果があったことに着想を得たのが始まりです。後に千葉大学が発表したゲノム研究の結果と符合する点があったことで、共同研究が始まりました。川崎病の発症や重症化に遺伝的素因が関わっていることから、シクロスポリンがその発症メカニズムを抑えると考えたのです。 2008年に先行研究を開始。2014年から、北海道から沖縄まで、全国22カ所の施設と連携し、2年5カ月かけて臨床試験を実施しました。 この治療法は、結果的に非常に有効ですが、川崎病にはさまざまなタイプがあり、万能とは言えません。ステロイドやインフリキシマブなど評価されつつある他の製剤とどう組み合わせるか、冠動脈病変リスクゼロを目指して取り組んでいきます。 ―和歌山県の現状は。  和歌山県の人口の半分弱を抱える紀北地域に医療施設が集中しています。面積が一番広い紀南地域にある中核病院は田辺市、串本町、新宮市に計3カ所のみ。この南北格差が問題です。 少しでも解消しようと、三重県との県境に近い新宮市立医療センターの小児科医を2人から3人に増員。くしもと町立病院では、病院事業管理者になられた元・近畿大学小児科教授の竹村司先生と協力して日曜外来を実施。田辺市の紀南病院では紀南地域の中核病院として重症患者を引き受け、不可能な場合は大学へ搬送する体制を取っています。 大学では、循環器、腎臓、神経、小児がん・血液、未熟児・新生児の5グループで、県の小児科医療をカバーしています。血液悪性腫瘍では造血幹細胞移植に取り組み、腎臓分野ではネフローゼ症候群やIgA腎症治療を実施し、循環器グループは、心臓外科・麻酔科・ICUとチーム医療で取り組み、先天性心疾患の外科治療に成果を上げています。 和歌山県の総合周産期母子医療センターとして、24時間365日稼働。ドクターヘリは15分以内に出発する体制が整っています。 小児科医は、内科でいう総合診療科医。専門性が高いだけでなく、地域では広い分野を見られる医師が求められています。人材育成でも重要視している点です。 顕著な例が、発達障害。対象の多さを考えると、すべての小児科医が関わる必要があり、小児科専門医の資格を取得する過程で、必ず経験を積んで対応できるようになるべきと考えて若手医師を教育しています。不登校や摂食障害、虐待など社会科学的な疾患が増加している今、しっかりと家族の相談に対応できる医師を目指してほしい。そのためにも地域との連携を進めていきます。 和歌山県立医科大学 小児科学教室和歌山市紀三井寺811―1☎073―447―2300(代表)http://www.wakayama-med.ac.jp/med/shonika/

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救急時のチーム医療を確立 長崎の周産期医療を守る

独立行政法人国立病院機構 長崎医療センター安日 一郎 産婦人科部長(やすひ・いちろう)1981年鹿児島大学医学部卒業。米ブラウン大学産婦人科母体胎児部門、長崎大学周産期医療部助教授などを経て、2005年から現職。長崎医療センター総合周産期母子医療センター長兼任。  総合周産期母子医療センターを擁し、長崎県内の周産期医療の中心的な役割を担う長崎医療センター。離島やへき地の支援病院としての役割も大きい。指揮を執る安日一郎産婦人科部長に、周産期母子医療、離島医療の現状を聞いた。 ―多くの母体搬送を受け入れています。  2007年に県内初の総合周産期母子医療センターに認定され、県央地区(大村市、諫早市、島原半島)と離島の2次、3次救急、長崎県全体の3次救急を担当。母体搬送は年間約200例を受け入れ、約600例の分娩を扱っています。 (続きは紙面でお読みいただけます。ご入用の方は、info@k-ijishinpo.com へお問い合わせください)

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