2016年を境にテレビCМから姿を消したものがある。アルコール飲料の「ゴクゴク」という効果音や喉元のアップだ。2014年施行の「アルコール健康障害対策基本法」に基づく各メーカーの対応である。
お酒、ギャンブル、薬物、近年ではインターネット依存の深刻化も指摘されている。ニュースなどで見聞きする機会は増えているが、なかなかリアルな問題としては捉えづらい。自分の理性のブレーキは正しく作動しており、今後も壊れないと信じているからだ。
「依存症からの脱出」を読み終え、少し、自分自身の見方が変わった。同書でも改めて言及されているが、依存症は「意志が弱い」「だらしない」から陥るのではない。再発と寛解をくり返す「慢性疾患」である。
「なりやすい」人の傾向として他人に相談することが苦手で、自分の心の傷や疲れに鈍感であるタイプが多いという。もやもやの蓄積に気づかず、珍しいものを試したいという好奇心も強い。そこに「たまたま」アルコールやギャンブルがあり、快楽の記憶から逃れられなくなる。
仕事帰りの1杯。休日のパチンコ。誰もがさまざまな依存対象と接しながら、ある人は適度な距離で付き合い、ある人はのめり込んで社会生活に支障をきたす。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所の松本俊彦部長は「本質は快楽ではなく苦痛の緩和だろう」と言う。「これさえあれば苦境を乗り越えられる」と。
強く感じたのは、理由なき依存症はないということだ。背景にはきっかけがあり、孤独を訴える人間らしい心がある。依存症について学ぶことは、自分自身と向きあうことに似ている。(瀬川)
依存症からの脱出 つながりを取り戻す 信濃毎日新聞取材班 海鳴社 274頁 1800円+税