新年あけましておめでとうございます。昨年は医学部入試における地域枠での定員割れが大きな話題となりました。地域における医師不足解消を目指して導入された地域枠入試ですが、その実効性が危ぶまれています。この問題が2004年に施行された二つの制度改革(新臨床研修制度と国立大学法人化)に起因していることから、改めて国立大学における制度改革のあり方を再考してみました。
2004年以前の大学病院は、臨床研修病院として卒後の初期・後期研修を主体的に担ってきました。その研修課程において、診療科長は研修医の適性を判断して地域に派遣することにより地域医療を支えてきました。しかし、新臨床研修制度ではプライマリ・ケアを重視して初期臨床研修病院を大幅に増加させたことにより、研修医が大都市へ集中して地域の大学病院ではその人数を大きく減らしました。
さらに国立大学法人化により、自立的な運営に向けた経営改革を加速させる観点から運営費交付金が毎年削減され続けました。この急速な削減を職員の新規採用制限で対処せざるを得なかったことから、国立大学の教育研究機能は著しく脆弱化してしまいました。大学病院においても例外ではなく、収益が最優先されて魅力的な研修プログラムを作成する時間的ゆとりも少なくなっており、後期研修医も増えていません。その結果、大学病院が担ってきた地域への医師派遣が困難となり、地域枠入試の導入となりました。
21世紀に入り、世界では新興国の台頭によりあらゆる分野で国際競争が激化しています。また、日本では少子高齢化の進展や経済・財政状況の悪化などで、従来のような発展が望めなくなっています。このような時代だからこそ、大学が知識基盤社会を支える有為の人材を育成しつつ、イノベーション創出につながる研究活動を展開させていくことが重要であると思います。そのため国立大学の学長として主導する制度改革は、地域枠入試のような拙速な改革ではなく、学生たちが夢を育むことができるような長期的ビジョンに沿った改革でなくてはならないと改めて心に誓っています。