一般社団法人日本遠隔医療学会オンライン診療分科会は6月7日、オンライン診療分科会第1回公開研究会(Web講演会)を開いた。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)拡大防止の観点からウェブ会議サービスを活用して開催。オンライン診療を継続的に実施する医師や患者側の報告など、計8人が講演した。
■事例紹介
診療所、大学病院などでオンライン診療に取り組む医師3人の講演から、一部を紹介する
画面を通して重症度を把握
山下 巌 氏(医療法人社団法山会山下診療所理事長)
テレビ電話を活用した「オンライン診療」が役立った事例を三つに分類して紹介したい。
一つ目は、これまでも受診していた患者さんに対する診療の継続。慢性疾患の患者に対する診療、服薬管理を実施することができた。
二つ目は、「相談窓口」としての役割。なんらかの症状があり、「COVID―19に感染したのではないか」と不安を抱いた方の相談を受けた。軽症と重症をトリアージし、対応の仕方をお伝えすることで、保健所などに患者が殺到する数を減らすことに貢献できたのではないかと思う。
三つ目は、COVID―19に感染した疑いのある患者さんへの対応。当院をかかりつけにしている患者さんに発熱、咳の症状が出た直後と、保健所からの指示で自宅待機をしている期間に、合計4回、オンライン診療を実施し、自宅隔離の様子の確認や精神的なサポートを続けた。
今回、特に感じたのは、画面を通して交わされる情報量の多さ。患者の状態が悪化していることがよくわかり、保健所が画面を見ながら患者と会話していたら、自宅待機にしなかったのではないかという印象を抱いたほどだ。医師が顔を見せて会話しながら患者をサポートすることも重要で、オンライン診療の意義を感じた。
緩和の流れが加速している
岸本 泰士郎 氏(慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室専任講師)
精神科は、診療の大部分を、医師と患者が互いの顔を見て会話をしながら進めていくことから、オンライン診療がなじみやすい領域だ。米国のある調査によると、診療科活用率は精神科がトップだった。
2018年度、遠隔による精神科医療の診断の信頼性、有効性などを検証し、ガイドラインの策定をする研究(AMED「J―INTEREST」)に取り組んだ。例えば、診断については、高齢者の認知機能検査(MoCA)を対面と遠隔で実施したところ、二つの方法の検査結果は、非常に高い一致度を示した。
治療に関しては、強迫症、パニック症の患者さんに対する認知行動療法を実施。30人中29人が治療を完遂し、患者満足度アンケートでは「非常に満足」「満足」「少し満足」と答えた人が9割を超えた。
現在は頻回の診察や薬物調整が必要な患者を中心にオンライン診療を実施。若い方や、中には80歳の方も家族のサポートを受けて「受診」。「画面上とは言え会えて嬉しい」「数カ月ぶりにマスクなしの先生を見ることができた」などと喜んでくれた姿が印象に残っている。
COVID―19の拡大を受けた遠隔診療の緩和措置などについて、17カ国の状況を調査した。保険制度の違いがあり、一概に比較できないが、緩和の流れが加速していると言うことはできるだろう。
現場の意見を制度設計に
中里 信和 氏(東北大学大学院 医学系研究科てんかん学分野教授)
2011年の東日本大震災後、被災地支援をきっかけにオンライン診療に取り組んできた。病院全体で遠隔診療のワーキンググループをつくり、推進しようと考えている。
9年間の経験から、私が専門とするてんかんの診療に、オンライン診療が有用だと感じている。
てんかんの診断の際、大きなウエートを占めるのが初診時の問診。発作症状に詳しい専門医の問診が検査よりも有用だ。症状で多いのが小さな発作だ。本人には発作が起きている時の記憶がないことが多いことから、ご家族への聞き取りも重要だ。オンライン診療なら、患者や家族の病院までの移動の負担を軽減できる。
私たちは2019年5月、てんかんのオンライン・セカンドオピニオンを開始した。紹介された患者の中には、10年以上、てんかんの薬を服用していたにもかかわらず、実際はてんかんではなかったという人もいた。
専門医による初診・問診によって診断を明確にし、患者が住む地域の医師のもとで治療を受けるというのも、一つの方法ではないだろうか。
オンライン診療の普及に拙速な議論があってはならないが、オンライン診療が広がっている海外の実情などにも目を向け、遅れをとらないようにすることも大事だ。実際に取り組んでいる現場の意見を聞きながら、今後の制度設計に取り入れてほしいと願う。
オンライン診療の検証が重要
今村 聡 氏(公益社団法人 日本医師会副会長)
今村氏が日本医師会の立場から講演した。
厚生労働省は2018年、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」を公表。その後も改訂を重ね、少しずつ推進してきた。
しかし、COVID―19拡大を受けて、国は4月、時限的にオンライン診療の規制を緩和。従来はほぼ認められていなかった初診時の利用も可能になった。さらに、緊急事態宣言解除後も、当面、この緩和は効力を有することになっている。
懸念しているのは、決定のための議論が、本来検討すべき場ではない会議によって進められたことだ。今回は非常時であり、医療提供体制を維持するために必要な決定だったと思うが、このような議論の進め方が常態化するのはよくないと考えている。
今後、医療機関は、実施したオンライン診療の内容などを報告し、これを都道府県は原則3カ月に1度程度のペースで検証することになった。実用性、実効性の観点から、運用についてのデータを検証していくことが重要だ。
患者にとって利便性が高く、医療者の感染を防止するのに有効だったというエビデンスが得られれば、それに基づいて広げていくことはあり得る。特に医療資源の不足する地域で十分に機能したのか、医療安全の面で課題はなかったのかといった点も含めて検証を進めてほしい。