独立行政法人国立病院機構 松江医療センター
井岸 正 院長(いぎし・ただし)
1986年鳥取大学医学部卒業。
米国立衛生研究所客員研究員、鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター教授、
松江医療センター副院長などを経て、2020年から現職。
◎「呼吸器」と「神経」を両輪で
就任の抱負を一言で言うと、松江医療センターの「呼吸器」と「神経」の診療を両輪として、それぞれを充実、発展させたいと思っています。
当院は、伝統的に呼吸器疾患と神経難病、筋ジストロフィー、重症心身障害を主な診療対象疾患としてきました。病院の起源は明治までさかのぼるのですが、1971年に二つの国立療養所が合併して、現在につながる国立療養所松江病院が発足しました。
当時は、結核病床が半数以上を占めていました。重症心身障害、筋ジストロフィーにも力を入れていましたが、ほぼ同時期に神経難病への取り組みも開始しています。政策医療を提供することが病院の使命であったものの、結核の減少と相まって、呼吸器診療の主役は肺がん、肺気腫、気管支ぜんそく、呼吸不全などに移ってきました。
1979年からは、呼吸器外科も標榜(ひょうぼう)。呼吸器疾患診療において山陰で中心的役割を果たしてきました。一方、神経難病、筋ジストロフィー、重症心身障害に対する医療(療育)は、発足当初より一貫して重要なものです。このような経緯もあることから、「呼吸器」と「神経」は、今も松江医療センターの両輪であると捉えています。
◎独自の診療で対応
呼吸器病センターを有し、強みとする呼吸器疾患の中で、呼吸器内科・外科ともに重要なのが肺がん診療です。複雑化する薬物治療や、低侵襲な外科手術にしっかりと対応できる体制を強化していきます。
慢性呼吸不全の管理では、独自のユニークな試みを実施。リハビリの体制も充実させており、対外的にもアピールしていきたいと思っています。
神経領域に関しては、患者数も増加傾向にあります。神経領域の難病医療協力病院の指定を受け、神経病理解剖が重要であるとの認識を持ち、自前での実施ができる体制を目指したいとも考えています。
◎領域で異なる医療連携のあり方を
医療連携において、「呼吸器」と「神経」では、地域の医療機関との関わりが異なります。呼吸器疾患診療は急性期医療も含めた一般診療、あるいは地域医療の色合いが強い。従って、近傍の開業医さんからの患者紹介や逆紹介といった病診連携を重視しています。
一方、「神経」に関しては、慢性期医療が中心となります。筋萎縮性側索硬化症や筋ジストロフィーなどは、急性期病院などの専門医に診断を受けることが多いかと思います。しかし、入院が必要になった場合には長期に及ぶため、急性期病院では対応が困難です。当院はその受け皿として、2次医療圏を越えた広範囲の病院との連携が重要になると考えています。
◎意思決定のプロセスを大切に
診療に当たっては、医療行為に対する患者さんの理解と納得をしっかり得ることを心掛けています。
例えば、肺がんの患者さんを診る場合、1次治療を含めた早期の治療に対するガイドラインはしっかりしたものがあります。ところが、治療が進んでいくと、多くはガイドラインそのものが存在しない状態になります。大きな副作用もあり得る治療をするべきかどうかは、客観的には判断は非常に困難です。
その際に大きなよりどころとなるのは、患者さんご本人の意思や意欲になります。何かを提案するにしろ、しないにしろ、期待できる利益と起こりうる不利益をしっかり理解と納得いただくことは、極めて重要であると考えています。
ただし、結果が望ましいものではないこともあります。医療は不確実性を伴うものであるとの前提に立ち、意思決定のプロセスを大切にしていきたいと考えています。
独立行政法人国立病院機構 松江医療センター
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