産業医科大学医学部 呼吸器内科学
矢寺 和博 教授(やてら・かずひろ)
1994年産業医科大学医学部卒業。
カナダ・ブリティッシュコロンビア大学留学、
産業医科大学呼吸器内科学准教授などを経て、2016年から現職。
産業医科大学病院呼吸器内科診療科長、同呼吸器病センター部長兼任。
北九州近郊の中核医療機関として、診療・教育・研究に取り組む産業医科大学。呼吸器内科医が不足する中、良質な呼吸器内科専門医を一人でも多く養成しようと尽力する矢寺和博教授に、教室運営の現状や医師の育成方針について話を聞いた。
─教室運営の現状は。
3次救急が中心ですので、コモンディジーズよりも高度で集学的治療を必要とする疾患を扱うことが多いです。この1、2年は、専門医制度の変更や働き方改革の影響を受け、教室運営にも変化が表れてきています。
2018年にスタートした新専門医制度では、医師の地域偏在などを解消するために、一部の都道府県・診療科において基本領域ごとの専攻医の採用人数に上限が設けられています。福岡県もその対象になっているため、希望する人数の採用が難しくなってきました。
しかし、呼吸器内科医は依然として不足。北九州市近郊には医師不足の地域があります。医師の偏在を解決しようとするのであれば、県ではなく地域で考えるべきです。このままでは逆に、地域医療の崩壊につながりかねないと懸念しています。
診療範囲は北九州市内のみならず、東は山口県の周南地域、西は遠賀・中間地域までカバーしています。遠方は週1回の訪問で済むように調整したり、逆に患者さんを当病院に送っていただいたり、十分ではありませんが、二重、三重のバックアップ体制を敷いて対応しています。
また、呼吸器疾患の受け入れ窓口を一本化しようと2015年に開設した「呼吸器病センター」が定着してきたことも大きい。事前に患者さんの症状の詳細を把握できるようになり、緊急度を考慮した効率の良い診察が可能になりました。
─医師の育成は。
北九州市は、高齢の一人暮らしの患者さんが多い地域です。高齢者は一つの病気でバランスが崩れることがよくありますので、身体的な治療に終始せず、患者さんがどこでどのように生活しているのかまで考慮し、全人的医療を提供するよう指導しています。
呼吸器内科医は、呼吸器疾患の病態を評価できる知識が必要です。また、自ら治療するか、他の診療科の専門医にお願いするかの判断も必要になってきます。
さらに、近年注目されている肺がん治療薬の免疫チェックポイント阻害薬は、全身に副作用が出る可能性があり、がんの治療だけを行えばよいという時代ではなくなってきています。これからは内科医として、全人的な対応ができるスキルがより重要になってくるでしょう。
呼吸器内科医である前に一人の内科医であり、内科医である前に一人の医師であることを、若い医師たちにも忘れないでいてほしいと思っています。
一方、呼吸器内科、呼吸器内視鏡、気管支鏡、感染症、アレルギーなど、可能な限り専門医資格を取得するよう指導しています。資格を取得することで、医師としての自信を得られますし、それを維持しようとモチベーションアップにもつながります。
─今後の展望は。
医師が働きやすく、やりがいを感じる環境を整えていきたいと思います。
女性医師が、出産や育児でキャリアを断絶することなく、安心して働けるように取り組んでいます。また、北九州市内の病院に医局から3〜5人ほど派遣して、診療のサポートを行うことができる環境が、地域医療と医師の働き方の両面で理想的ではないかと考え、実現に向けて構想を練っています。
プロフェッショナルの世界は実力主義です。若い医師には、医師としての実力をしっかりと身に付けて、私を含め、先輩医師たちを超えていってくれることを期待しています。
産業医科大学医学部 呼吸器内科学
福岡県北九州市八幡西区医生ケ丘1─1
☎093─603─1611(代表)
https://www.uoeh-u.ac.jp/kouza/kokyuki/