九州ブロックにおけるアスベスト関連医療を担う

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独立行政法人労働者健康安全機構 長崎労災病院 アスベスト疾患ブロックセンター
吉田 俊昭 センター長(よしだ・としあき)

1979年長崎大学医学部卒業、同大学熱帯医学研究所内科入局。
長崎労災病院内科部長、同副院長などを経て、2018年から現職。

 大きな社会問題となったアスベスト健康被害に対して、2005年から診断・治療、患者への支援を行っているアスベスト疾患センター。九州で中心的な役割を果たしているのが長崎労災病院アスベスト疾患ブロックセンターだ。吉田俊昭センター長は、設立からこれまで、アスベスト疾患と向き合っている。

―アスベスト疾患とは。

 アスベストは「石綿」といわれる天然の鉱物繊維で、代表的なものにクリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)があります。耐熱性、耐薬品性、絶縁性などの特性を持ち、安価であることから工業用材料としてあらゆる業種で利用されてきました。わが国では1950年代から吹き付けアスベストの使用が中止される1970年代半ばまで、主に建築材料として広く使用されていました。

 大気中に飛散したアスベストを吸い込むと繊維が肺の中に残り、肺が線維化する石綿(アスベスト)肺、肺がんや悪性胸膜中皮腫などの原因となります。わが国で大きな社会問題となったのは、兵庫県尼崎市にあるアスベストを用いていた機械メーカー工場の従業員や工場周辺住民の死亡が、2005年6月に報じられてからです。

 この事態を重く見た政府は、同年「石綿障害予防規則」を制定するとともに、24の労災病院に「アスベスト疾患センター」を立ち上げました。当院もその一つであり、全国に七つあるブロックの九州の拠点として、ブロックセンターにも指定されています。

―アスベストによる健康被害の実態は。

 過去にアスベスト製品の製造作業などに従事されていた方や、周辺の地域住民の健康被害が問題になり、中皮腫の年間死亡者数は増加してきました。2000年に700人程度だったのが2015年には1500人を超え、その後はほぼ横ばい傾向にあります。

 アスベスト関連疾患の問題は、ばく露から発症するまでの潜伏期間が20〜40年かかることにあります。このことから、今後もアスベスト関連疾患の患者さんが増える可能性があることが分かります。

 業種別で見ると全国の患者の約半数が建設業従事者ですが、造船業が盛んな長崎県ではその従事者が半数を超えるなど、産業構造による地域差もあります。

―関連疾患の治療と補償制度について。

 アスベストばく露による肺がんの場合は一般の肺がんと同じく、外科的手術、抗がん剤治療を行うことになります。しかし、潜伏期が長いために患者さんも高齢者が多く、体力的に治療に耐えられるかという問題があります。

 また、中皮腫は予後生存率が低い病気で、生存期間中央値はステージⅠ・Ⅱで17カ月程度、ステージⅢ・Ⅳでは1年を切っています。悪性胸膜中皮腫の治療薬としてニボルマブ(商品名:オプジーボ)が2018年に認可されましたが、奏効率は3割程度。早期の発見、早期の治療が求められています。

 仕事でアスベストによる健康損害を受けた労働者やそのご遺族に対しては、労災保険による補償があり、周辺住民の方にも国からの救済措置があります。

 しかし、その適用条件や申請方法はあまり知られておらず、関連疾患の診断およびばく露所見については、その判断が困難なことも少なくありません。

 そこで、全国の労災病院を統括する労働者健康安全機構では、医師を対象に、最新の検査方法や診断方法、労災補償制度についての研修会を全国で開催しています。アスベスト関連疾患の実態と現状を広く知らせ、さまざまな啓発活動を行っていくのも、われわれブロックセンターの重要な役割となっています。

独立行政法人労働者健康安全機構 長崎労災病院
長崎県佐世保市瀬戸越2―12−5
☎0956―49―2191(代表)
http://nagasakih.johas.go.jp/

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