琉球大学病院 光学医療診療部(第一内科消化器グループ)
外間 昭 診療教授(ほかま・あきら)
1988年琉球大学医学部卒業。
琉球大学第一内科、米ハーバード大学マサチューセッツ総合病院留学などを経て、
2014年から現職。琉球大学病院光学医療診療部部長兼任。
離島への医師派遣、亜熱帯性気候ならではの風土病やインバウンドに伴う大陸や東南アジアからの輸入感染症対策と、琉球大学の担う役割は大きい。外間昭診療教授に、専門医不足の現状と、離島医療、感染症研究への取り組みを聞いた。
―離島医療の現状と課題は。
沖縄県には有人の島が47あり、へき地に分類される本島北部に県立の病院と診療所が18施設あります。離島へき地においては、消化器と呼吸器内科の専門医が絶対的に不足しています。現在、沖縄県立八重山病院、沖縄県立宮古病院、北部地区医師会病院の3施設には、消化器内科医と呼吸器内科医を、琉球大学の第一内科からほぼ2年交代で派遣しています。医局員のほとんどが、一度は3施設のどこかで勤務経験があり、第一内科が離島医療の支えとなっています。
ただ、新臨床研修制度が始まって以降、入局者が減っています。医師の育成で定評がある沖縄県立中部病院の存在もあり、沖縄県は初期研修医の人気が高く、毎年150人を数えます。しかし、専攻医を目指す後期研修になると県外に去り、年間100人程度に急減するのが課題です。
―離島医療の現状を。
私たちは、離島勤務をポジティブに捉えています。生活の利便性などマイナス面をはるかに上回る症例経験が、大きな財産になるからです。離島の病院も、内科専門医や消化器内視鏡専門医の教育病院、教育関連病院になっており、経験した症例はすべて専門医資格申請に必要な症例数にカウントされます。
離島ではどのような内科領域も診る必要があるので、総合診療医の修練にもなります。派遣先で切磋琢磨し、非常に多くのことを経験し、島民の方には感謝され、やりがいも感じる。離島勤務を終えると、人間的にも医師としてもふた回りは大きく成長して戻って来ます。
離島勤務後は本人の希望を聞き、例えば内視鏡診療の国内留学など、全員が平等に勉強する機会を得られる仕組みにしています。
―疾患の地域特性は。
かつては粗食だったがゆえに男女とも全国一の長寿県でしたが、「26位ショック」というのがありました。2000年に男性の平均寿命が一気に落ちたのです。特に大腸がん死亡率は、青森県と並んでワースト1位です。
米軍基地の影響で、いち早く食の欧米化が進み、生活習慣病が多くなったのが要因。メタボとアルコール性肝がんが、臨床現場で問題になっています。
一方で、胃がん死亡率は全国より低く、大分大学との共同研究で胃の発がん因子であるピロリ菌のタイプが本土と異なることが分かりました。ある離島にしかないD型肝炎も地域特性の一つで、これはB型と一緒に感染するウイルス肝炎です。
来日観光客の増加で、インフルエンザが一年中流行しています。中国で拡散しているウイルス性肺炎も警戒しています。熱帯、亜熱帯の感染症を完全防御するため県を挙げて態勢を整え、大学病院には陰圧感染対策病室8床を備えています。
―これまでの研究成果は。
感染症の臨床研究は私たちの教室の強みです。代表例は、沖縄県と鹿児島県奄美群島の風土病、糞線虫症治療の解明です。地表に住む線虫がヒトの体内に侵入して住みつき、手術や免疫力が低下する治療がきっかけで一挙に増殖して死に至る疾患です。
第一内科で約30年をかけて取り組み、保虫者を容易に判別する検査法を開発。治験を重ね、駆虫薬イベルメクチンが有効だと突き止めました。この治療薬が保険適用され、保虫者は60歳以上の2万人までに減っています。
現在は、エイズウイルス(HIV)やヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV―1)を背景とした、サイトメガロウイルスの早期診断を中心に取り組んでいます。潰瘍性大腸炎とクローン病が増えている消化器内科では、その専門医を育てていきます。
琉球大学病院 光学医療診療部(第一内科消化器グループ)
沖縄県中頭郡西原町上原207
☎098―895―3331(代表)
http://www.ryukyu-med1.com/