九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

在宅を可能にする受け皿 地域包括ケア病床に期待

医療法人春風会 田上記念病院中村 浩一郎 理事長(なかむら・こういちろう)1985年東京大学医学部卒業、1986年鹿児島大学医学部第三内科入局。国立精神・神経センター(現:国立精神・神経医療研究センター)神経研究所、東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻神経内科助手などを経て、2006年から現職。  「2025年問題」が間近に迫る。老老介護や認認介護、独居老人など、ますます深刻になる高齢者の課題と医療をつなぐために、2019年10月に「地域包括ケア病床」を16床開設した田上記念病院。中村浩一郎理事長に話を聞いた。 ―地域の現状は。  地域の高齢化は、鹿児島も同じです。特に独居老人の割合は全国で1、2位を争い、老老介護や認認介護も多い。「在宅医療」が非常に困難な県だと思います。 確かに家族も家で診てあげたい、本人も診て欲しいと望むケースはあります。しかし、患者さん本人に介護が必要という意識がない、または望んでいないケースもあります。また、喀痰(かくたん)吸引を頻回に行う、あるいはバルーンが入っていて定期的に交換する必要があるなど、重い症状の人を家族が介護するのは、大変なことです。家族が、体力的にも精神的にも疲弊してきます。だからこそ、当院のような療養型の病院がなくてはならないと思っています。 ただ実際は、慢性期の患者さんはかなり減ってきています。例えば、重度の機能障害に陥っていた脳血管障害は、血栓溶解療法や内視鏡下血腫除去術など、体の負担が少ない治療が確立され、回復が非常に良くなっています。 心房細動で重い後遺症が残る脳塞栓にも、DOAC(直接経口抗凝固薬)などの有効な薬が開発されました。片まひを伴う失語症や高次脳機能障害の患者さんも随分減ったと感じています。 ─新病床を開設されました。  治療の進歩で助かる命が増えた一方で、在宅復帰のための治療や筋力回復のリハビリテーションを行うための受け皿が必要になっています。そこで、回復期病棟に加え、2019年10月、5病棟内に「地域包括ケア病床」を新設しました。 もともと脳神経内科が専門ということもあり、優秀なリハビリスタッフがそろっていたことも後押しになりました。 当院の5病棟内にある「地域包括ケア病床」は、診療科の枠を越えた病棟です。急性期から在宅までの居場所として患者さんに選んでいただくためには、あらゆることに対応できるだけの質の高い医療が求められます。立ち上げるに当たって、これまでの脳血管系中心の経営スキームから、患者さんの全身を診ることができる医療体制として脳神経内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、整形外科と診療科目を充実させ体制を整えました。 急性期の治療を終え、心身をゆっくり癒やしてもらう。充実したリハビリで、自宅でご飯を食べられるぐらいに回復する。そんな施設として、機能していきたいと思っています。 ─今後の課題は。  医療従事スタッフの人手不足です。特にこの地域は、厳しいものがあり、看護師も、当院で必要不可欠なリハビリスタッフも足りていない状況です。 さらに、リハビリ医療の向上を目指し、リハビリ歩行ロボット「ウェルウォークWW―1000」、高次脳機能障害を残した脳血管障害患者さんのためのドライビングシミュレーターなど、IoT技術やAI(人工知能)などの導入に早くから取り組んでいます。リハビリの効果を示すエビデンスの一つは「量」。ロボットであれば疲れるという心配はありません。同じ動作を単純に繰り返し、患者さんに実践してもらうことが可能です。もう一つが「質」。微妙にパラメータを調整し、難易度を変え、多彩なメニューを提供することができます。「量」と「質」の両面からロボットの導入は理にかなっているのではないでしょうか。 最近は、AIがデータ改善のサジェスチョンをしたり、予後予測したりするリハビリロボットも発売されています。患者さんにとってより良い医療を提供するツールとして、今後も注目し、活用していきたいと思います。 医療法人春風会 田上記念病院鹿児島市西別府町1799☎099─282─0051(代表)http://www.shunpukai-hospital.com/

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1年間、耕してきた畑に新しい種をまいていきたい

熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座宮本 健史 教授(みやもと・たけし)1994年熊本大学医学部卒業。同附属病院整形外科、慶應義塾大学医学部整形外科特任准教授、東京大学医学部整形外科客員研究員などを経て、2019年から現職。慶應義塾大学医学部整形外科学先進運動器疾患治療学Ⅱ特任教授兼任。  熊本大学大学院生命科学研究部整形外科学講座に着任し、2020年4月でちょうど1年を迎える宮本健史教授。東京から17年ぶりに戻ってきたこの1年を振り返るとともに、新たな取り組みについて話を聞いた。 ―教授としての1年間は。  出身は熊本大学なのですが、2002年から東京で活動していました。2019年に戻ってきて、教授として大学の医局はもちろん県内の関連病院、開業医のもとへあいさつに回りました。初めてお目にかかる方も多くいたのですが、地域が抱えている問題や、現在、お考えになっていることなど、さまざまな意見、要望を聞くことができました。 熊本県内では、多くの熊本大学整形外科の同門の先生方が活躍されています。同門の医師が熊本大学の教授に就いたということを、とても喜んでくださっていると、実感しました。 地域の関連病院の人事担当の方にお聞きすると、医師本人のことよりも、お子さんの教育環境や親ごさんの介護といったご家族の都合で、「この地を離れたい」、あるいは「ここに定着したい」というご希望が意外に多く、驚いています。 医師の人事というものはとても難しく、要望を伝えられずに、黙々と頑張っていらっしゃる先生にも目を向けていかなければなりません。医師の公平で適正な配置については、地域の皆さんと一緒に考えるべき問題だと思います。私はその調整役としての責務を果たしていきたいと思います。 ―医局の運営について。  17年間といっても、たかが17年。人もそうですが、整形外科という医療領域の中では、そう大きく変わるものではありません。さらに、医療レベルも、地域格差はないと感じています。 ただし、医療技術は、日々進化しています。例えば手術ナビゲーションシステムの採用といったことも、今後の整形外科では考えなければならないでしょう。ただし、ミーハー的に新しい技術に飛びつくわけではありません。その技術が既存のものと比べ、本当に良いものかどうかを検証していく必要があります。その上で、患者さんをご紹介いただく地域の関連病院や開業医の先生方にフィードバックし、理解していただく必要があると感じています。 一方、大学病院には果たすべき使命があります。合併症の患者さんや骨軟部腫瘍といったほかの施設では扱うことができない悪性腫瘍など、重篤な患者さんを受け入れていかなければなりません。その使命を果たすためには、高い医療技術を持った、ほかの診療科とのネットワークが必要になります。ほかの診療科と連携して、難しい症例の手術に対応できる体制を整えることも、私が果たすべき役割の一つだと感じています。 ―就任前の1年間、教授が不在でした。  実は、前任の教授の退官や教授不在などがあり、しばらく当講座では大学院生を受け入れていませんでした。これからは、大学院生を積極的に受け入れ、研究などに取り組み、中心的な役割を担ってもらいたいと考えています。 本人たちの勉強になるのはもちろん、医局スタッフも指導をする役割が与えられることで、医局全体のレベルアップにつながります。数年後には学会や論文発表など、熊本大学から外部へ、発信力を高めていきたいと思います。 ―新しい取り組みも始められています。  2019年に取り組み始めたことがあります。現在の専門研修プログラムでは、医師は大学内だけでなく、地域の関連施設でも指導を受けるようになっています。 そこで、次年度から専攻医として、熊本県内の関連施設に加えて、関東など県外の医療機関と連携し、研修を受けることができるプログラムをつくりました。すでに希望者も募り、4月から関東の施設に行くことも決定しています。 東京の大学病院にいたころ、地方にいる優秀な人材を、なぜもっと活用しないのだろうかと感じたことがありました。 外の景色を見ているからこそ、見えてきたものがあります。どちらかが良いということではなく、熊本の良さとほかの地域の良さを融合させるようなことができないか。どちらも経験している私のような人間が、もっと自ら発信していかなければならないと、この1年、実感してきました。そこで、考えたのがこのプログラムです。 もっと熊本ができることを伝えたい思いもあります。関東の医療機関と熊本の人材との連携づくりに、ぜひ一役買っていきたいと思っています。 ―1年たって、いよいよ本格的に始動ですね。  就任からの1年間、しっかり時間をかけて畑を耕してきました。次年度からは、少しずつ種をまいていく時期だと思います。 地域の中での連携、関東との連携、大学としての研究の拡充、医局員や大学院生の育成など、種をどのようにまいていくか。熊本市内、天草、水俣、人吉、さらには福岡県の大牟田市まで回って、期待の大きさを感じています。また、多くの病院から、「麻酔科医が不足して手術ができない」といった現状も聞くことができました。17年というブランクを埋めつつ、そのみなさんの期待を裏切らないよう気を引き締めて、取り組んでいきたいと思います。 熊本大学大学院生命科学研究部 整形外科学講座熊本市中央区本荘1―1―1☎096―344―2111(代表)http://kumadai-seikei.com/

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地域医療の核としてあらゆる泌尿器疾患に対応

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科腫瘍学講座泌尿器科学分野 榎田 英樹 准教授(えのきだ・ひでき)1992年鹿児島大学医学部卒業。鹿児島市立病院泌尿器科、出水市立病院(現:出水総合医療センター)泌尿器科、鹿児島大学大学院医歯学総合研究科腫瘍学講座泌尿器科学分野講師などを経て、2012年から現職。  鹿児島県内の地域医療の核として、あらゆる疾患の治療を行っている鹿児島大学・泌尿器科学分野。腎臓移植や小児泌尿器疾患などのスペシャリストをいかに育成しているのか、また基礎研究への取り組みなどを、医局長を兼任する榎田英樹准教授に聞いた。 ─医局の特徴、強みは。  現在、医局には18人、関連病院に出向している医師を含めると40人弱が在籍しています。 一般的に泌尿器科は排尿障害とがんの治療を主としていますが、当科は腎臓移植、血液透析を含む血液浄化治療、小児の先天奇形や不妊の治療など、幅広く行っています。 全国的に見ても、腎臓移植と小児医療の両方を診る医療機関は数えるほどです。当病院が診なければ、患者さんは東京や福岡の病院まで行かなければなりません。特に腎臓移植は、手術後の管理が大事ですから、地元の病院で受けるほうがいい。地域医療の観点からも当科の存在意義は大きいと考えています。 もちろん、高度な手術は、専門の医師でなければ対応できません。そこで、高度専門技術を必要とする手術の症例数が多い病院に、医師を2年間ほど派遣。研修によって技術を習得する手法をとっています。2019年は、腎臓移植手術の研修から医師が戻ったことでマンパワーがアップし、年間27症例の腎臓移植手術を行いました。 ─診療の現状は。  高齢化が進み、泌尿器科医の需要はこれまで以上に高まっています。 最近は、患者さんのダメージが小さいロボットや腹腔鏡を使用した手術が増えました。 以前は、大きく浸潤した局所進行の前立腺がんは、手術を行っていませんでしたが、現在は、術前のホルモン化学療法で腫瘍を小さくし、ロボットを使って取り残しがないように切除して再発を抑えています。 また、2005年から密封小線源療法にも取り組み、治療数は600人を超えます。放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込む治療法で、麻酔は下半身だけに効く腰椎麻酔、治療時間も3時間程度で済みます。比較的悪性度の低い種類のがんが対象ということもあり、約95%の根治率を達成しています。 ─地域医療の現状は。  離島については、現在、奄美大島に常勤の医師3人が出向。種子島医療センターには非常勤の医師が週1回通っています。 ドクターヘリで運ばれる急患も受け入れていますが、治療後が問題です。離島に帰る際は、船や飛行機を利用しますが、寝たきりの患者さんの場合、安全上の問題から断られることがあります。そのため蘇生用の機器を持って、医師が付き添うこともあります。 離島に限らず鹿児島はへき地が多い地域です。本来は、各地に泌尿器科医を出向させるべきですが、医師不足のため十分な対応ができていません。学生に早い時期から泌尿器科の魅力を伝えるなどして、医師の育成にも尽力しています。 ─教育・研究は。  後期研修の1年目は医局で高度な医療を経験。2年目以降は、地域医療を担う連携病院で経験を積んでいきます。 連携病院では、自分の診断・治療の結果に責任を持たなければならない場面が多くなります。そうした経験が自立心を育み、一人前の泌尿器科医に成長させてくれます。 また、研究も大切な仕事です。当教室では、マイクロRNA(短鎖核酸)の基礎研究に力を入れています。 独自の患者プロファイルを作成・解析し、がんで発現するマイクロRNAを尿中で測定することに成功しました。現在は、尿路上皮がんの診断・予後予測マーカーの開発と、新規治療法の開発につながる研究を行っています。将来的には、研究成果を、臨床の現場に応用し、社会に還元したいと考えています。 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 腫瘍学講座 泌尿器科学分野鹿児島市桜ケ丘8─35─1☎099─275─5111(代表)https://www.kufm.kagoshima -u.ac.jp/~urology/

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沖縄唯一のTAVI実施機関 低侵襲と2次予防を実現

琉球大学医学部附属病院 心臓血管低侵襲治療センター岩淵 成志 特命教授(いわぶち・まさし)1986年信州大学医学部卒業。福山循環器病院、社会保険小倉記念病院(現:一般財団法人平成紫川会小倉記念病院)などを経て、2020年から現職。琉球大学大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学講座診療教授兼任。  第三内科循環器グループの診療教授と兼務し、2020年2月から心臓血管低侵襲治療センターの特命教授に就任した岩淵成志氏。TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)の沖縄県唯一の認定施設として、同県内の大動脈弁狭窄症の患者を一手に引き受けている。 ―カテーテル治療のメリットは。  最大のメリットは低侵襲であること。これまで確立されていた冠動脈バイパス術では、高齢者の場合、社会復帰まで1〜3カ月を要しますが、カテーテル治療は2泊3日程度で退院できます。 ただ、冠動脈バイパス術は末梢部分の血管につなぐので、その手前で動脈硬化が進行しても影響は出ないというメリットがあります。 カテーテル治療は、ステントを留置した患部の前後で動脈硬化が進むと、再び症状が出たり重症化したりすることがあり、2次予防(再発防止)が必須です。LDLコレステロールを下げる指導やリハビリの徹底で、成績が大きくアップしました。 ―沖縄では唯一のTAVI認定施設です。  2013年、大動脈弁狭窄症の治療において、TAVIが保険適用となりました。ちょうど私が赴任してきた頃です。 琉球大学医学部附属病院では、施設認定基準を満たすハイブリッド手術室の整備を進めていました。完成後、施設認定の準備をし、2015年にTAVIを開始しています。2019年の治療数は、78症例になりました。 ―ハートチームの役割とは。  患者さんのQOLを維持するには、しっかりとした2次予防が必要です。循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、放射線技師、看護師、リハビリスタッフで構成するハートチームで、手術適応の可否の判断や術後のリハビリをフォローします。 通算200例を超えたTAVIの患者さんには半年ごとに外来を受診していただいています。治療後はQOLが上がることが分かってきており、術後に腎機能や認知症が改善した例もあります。ただし、もともと寝たきりや重い認知症の患者さんの場合は、TAVIを受けることができません。 大動脈弁狭窄症は高齢者に多い疾患です。自覚症状がないこともあり、早期発見できていないのが現状。切羽詰まった状態で搬送されて治療しても、回復に時間がかかります。心音を聴診することが第一歩ですので、開業医の先生などへの周知に努めたいと思います。 県内全域から大動脈弁狭窄症の患者さんが当院に集まってきます。患者さんの平均年齢は、全国平均よりやや高いのですが、ほとんどの方が治療後に自立歩行で退院しています。90代の女性は、弁置換術の後、サトウキビ畑で元気に働いています。 ―後進の指導はどのように。  CTのデータを基につくった琉球大学オリジナルの模擬血管モデルが四つあります。これを使って年に1回、県内の若手医師を対象にワークショップを実施。左冠動脈主幹部にステントを留置する訓練では、どのような事態が起きるのか、合併症が起きた時の対処法など、高難度のトレーニングを行っています。 カテーテル治療は、造影剤を入れてエックス線画像を見ながら実施します。しかし、訓練ではエックス線も造影剤も使えないので、同じシステムを、理化学研究所と共同開発して特許も取得しています。 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の教育では、ライブデモンストレーションを取り入れています。西日本エリアの若手術者育成を目的とする「ARIA」の会長を務めた2018年には、当院の手術室と福岡市の会場をライブ中継して手技を披露しました。若い医師に技術を継承し、今後の治療にもっと生かしてほしいと願っています。 琉球大学医学部附属病院 心臓血管低侵襲治療センター沖縄県中頭郡西原町上原207☎098―895―3331(代表)http://www.naika3.med.u-ryukyu.ac.jp/ (第三内科)

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アルツハイマー病の発症を予測し、予防へ

島根大学医学部内科学講座 内科学第三長井 篤 教授(ながい・あつし)1988年島根医科大学医学部(現:島根大学医学部)卒業。同附属病院、同臨床検査医学講座教授などを経て、2019年から現職。しまね認知症疾患医療センター長兼任。  脳神経内科、膠原病内科、血液内科の領域を扱う島根大学の内科学第三講座。特に認知症においては県内の基幹認知症疾患医療センターの役割も担う。同センター長を務め、2019年9月には教授となった長井篤氏に、就任に当たっての抱負を聞いた。 熱意あふれる恩師の影響を受けて  脳神経内科を目指したのは、学生時代に出会った、ある恩師の影響だった。 「当講座の2代目教授であり、学長も務められた小林祥泰先生は、私が学生の頃は講師という立場でした。脳神経内科医と言うと、冷静に分析するイメージがあるのですが、先生はとにかく熱心で、議論も非常に活発でした。そんなアグレッシブな先生に多大な影響を受けて、脳神経内科医の道を目指すことになったのです」 小林氏は、日本初のMRIによる脳ドックを創設し、脳卒中医療の発展に大きく貢献した人物だ。小林氏が築いた、時代の先を行く取り組み、そして気風は、今も講座に息づいている。 「現在は、脳ドックを発展させ、軽度認知障害患者のMRIのデータをAI(人工知能)に深層学習させることで、アルツハイマー病の発症予測ができないかという研究に取り組んでいます。教室は若い人が多く、意欲にあふれています。彼らの適材適所を見極め、スムーズな臨床や研究を行える環境を整えることが、今後の発展にもつながると思っています」 脳卒中と認知症 二本柱に懸ける思い  2019年9月に、島根大学医学部臨床検査医学講座教授から内科学第三講座の教授へ。内科学第三は、脳神経内科、血液内科、膠原病内科が専門だ。自身に求められているのは、時代への即応と捉えている。 「高齢者を取り巻く環境が大きく変わってきており、しっかりと対応していく必要があります。その中でも、二本柱となるのが脳卒中と認知症です」 島根大学では、高度脳卒中センターの設置に向けての取り組みを始めている。 「実現に向けて、まずは急性期から慢性期まで、多職種で編成するチーム医療に取り組んでいます。病院に来るまで対応に当たる救急隊や院内の他科との連携、回復期以降をお願いする地域医療機関との連携も、さらに強めていきたいと考えています」 認知症の診療は、2015年に附属病院内に設立された「基幹型認知症疾患医療センター」で対策に当たっている。 「地域型・連携型認知症疾患医療センターの病院、かかりつけ医や介護を含めた地域包括ケアセンターと協働し、ようやくすべての圏域をカバーできるようになりました。基幹型である島根大学は、その要として全体をサポートしていきたいと思います」 発症を予測し予防していくために  島根県の脳神経内科の分野をさらにレベルアップさせたい。そんな思いを持ち続けている。キーワードは〝連携〟だ。 「教育も、地域との協力関係も、まだ整っていません。これからはもっと周囲を巻き込んで連携していかなければならないと強く感じています。一人の力はわずか。多くの人の力が集まることで大きなことができる。医学部に限らず、島根大学全体で取り組むプロジェクトもあります。お誘いを受けたら、積極的に協力していく方針です」 かつての恩師から影響を受けた熱い思い、時代の先を行く精神が、その根底にある。「脳神経内科は難治性疾患が多い領域です。発症してからの治療も大切ですが、発症を予測し、発症そのものを防ぐ予防の研究は不可欠です。その実現に向けて、一歩一歩、近づいていきたいと思います」 島根大学医学部内科学講座 内科学第三島根県出雲市塩冶町89─1  ☎️0853─23─2111(代表)https://www.shimane-u-internal3.jp/

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第32回日本整形外科超音波学会 風景常新 ―まだ観ぬ世界へ―

 画質の精度向上とともに、急速に普及が進みつつある運動器エコー。そのトップランナーたちが集う「第32回日本整形外科超音波学会」が6月6日(土)・7日(日)、奈良市で開催される。現場の盛り上がりを体感できる2日間となりそうだ。 ブーム到来、運動器エコー 会長 田中 康仁 氏 (奈良県立医科大学整形外科教授)  内臓を診るものだった超音波が運動器に使われ始めて三十数年。機器の発展とともに、運動器エコーは整形外科領域の診断・治療に欠かせないモダリティーになりつつあります。 エコーは非侵襲で扱いやすく、かつ必要な場に持ち込んで手軽に使えるのが特長です。該当部位を動かしながら、一瞬で出血や肉離れなどの状態を確認できるので、治療の判断がすぐできる。開業医や理学療法士などに重宝されており、現場ではかなり盛り上がっているなと感じますね。そういう意味では、整形外科超音波はボトムアップの世界。全国の大学に重要性が広まれば、リサーチも飛躍的に進むでしょう。日常の診療だけでなく、エコーを学問として体系化するための一里塚となる学会にしたいと考えています。 近年注目されている「ハイドロリリース」や「筋膜リリース」、あるいは「エコーガイド下インターベンション」。これらの言葉は、実はまだ定義があいまいな状態です。今後、解剖学的な裏付けをもってきちんと定義しなければなりません。その方向性を示すのも、今回の大きな目標です。開催テーマは「風景常新―まだ観(み)ぬ世界へ―」。「風景常新」は、川端康成が日本画家の東山魁夷に贈った言葉です。初心者からマニアックなヘビーユーザーまで、新しい発見のある学会を目指します。 エコーの名手 ライブで「魅せます」  特別企画の一つは、「言葉の定義 エコーガイド下インターベンションの手技」。超音波を用いた手技を、医学用語としてどう定義すべきか、ディスカッションしながら探ります。 必見は、ライブパフォーマンス。エコーの名手が、さまざまな体形の被験者の画像で「魅せます」。手元とエコー画面、二つのスクリーンを見比べながら、コツを発見してほしいですね。特別ゲストには、お笑い芸人でボディービルダーのなかやまきんに君が登場。どんな筋肉なのか、丸見えになりますよ(笑)。 教育研修講演にも力を入れています。小林只医師(弘前大学医学部附属病院総合診療部)と宮武和馬医師(横浜市立大学附属病院整形外科)の登壇は楽しみですね。肉離れも面白いテーマ。韓国とアメリカからの最新情報や、理学療法士による筋肉描出やテーピングの話題もあります。 今年はちょうど五輪・パラ開催年。スポーツへの関心が高まる中、シンポジウムでは「超音波を用いたアスリートサポート」を目玉として取り上げます。メディカルチェック、チームドクターやアスレチックトレーナーによる活用法、診断・治療への応用などのセッションを予定しています。 伝統的なテーマとしては、小児診療とリウマチ診療の分野をピックアップし、現状を紹介します。今回講演をお願いした多くは、卒後10年以内の若手たち。担い手である新世代がどんどん活躍することで、議論がより活発になればと願っています。 奈良は全国的にも、エコーが広く普及している県です。一流雑誌に英語論文を掲載して学位を取るなど、優秀な開業医の先生も多く、日頃から「奈良=エコー先進県」を自負しています。この地から新しい風を起こせたらと思っています。 今回、会場規模もスケールアップしました。開業医の先生が参加しやすい週末開催です。一人でも多くの参加を、お待ちしています。 学会の主なプログラム(予定)6月6日(土)●「超音波を用いたアスリートサポート」●「ライブパフォーマンス エコーできれいな絵が出せないあなたに手とり足とり教えます」6月7日(日)●「言葉の定義 超音波ガイド下インターベンションの手技」 会期:6月6日(土)・7日(日) 会場:なら100年会館 運営事務局:コンベンションリンケージ jasou2020@c-linkage.co.jp学会HP:https://www.c-linkage.co.jp/jasou2020/

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第38回日本肝移植学会学術集会 肝移植医療の新たな展開 Advance toward the New Stage

 第38回日本肝移植学会学術集会が6月25日(木)・26日(金)に松山市で予定されている。改正臓器移植法施行10年、MELDスコア導入1年などの節目を迎え、「日本の肝移植医療は新たなステージに入る」と話す髙田泰次集会会長に、見どころを聞いた。 増加見込みの臓器提供件数 集会会長 髙田 泰次 氏 (愛媛大学大学院医学系研究科 肝胆膵・乳腺外科学講座教授)  改正臓器移植法の施行からちょうど10年。脳死による臓器提供条件が緩和されたことにより、脳死下での臓器移植は年間70件近く実施されるようになりました。 厚生労働省や日本移植学会は今後10年で、脳死下での臓器提供件数がさらに増えると予測。今学会では手術数が増加した場合に、病院や医師はどう対応していくのかを、議論する予定です。 脳死や心停止下での臓器移植は常に緊急手術になるので、手術室とスタッフの確保、その時に予定されていた他の手術のリスケジュール、ドナーのいる病院からレシピエントのいる病院までの臓器の効率的な受け渡しなど、調整すべきことは多岐にわたります。移植チームのスタッフがオーバーワークにならないよう、うまくシステムを作っていきたいと思います。 MELDスコアが導入されて1年になろうとしています。MELDスコアというのは、肝機能や腎機能を示す数値を基に計算して出した指標です。この指標を基準として、重症の人から移植することにしました。MELDスコアが高い人は移植後の成績が悪いということが分かっていますので、合同検討会で検証する予定です。 今学会では日本移植学会や日本肝臓学会、日本臓器移植ネットワーク、厚労省や臓器移植コーディネーターなど多くの関係者に参加いただき、医療的側面と社会的側面の両方から肝移植医療の在り方を検討していく方針です。 移植医療が直面する課題  肝移植医療の直面する課題として、若手人材の確保があります。若い人に興味を持ってもらえるよう、肝移植の醍醐味(だいごみ)を伝える目的のシンポジウムを準備しています。生体肝ドナーに対する低侵襲の肝切除手術の様子をビデオで流すことも予定しています。 また、移植医療全体の社会的な課題として、臓器移植コーディネーターの育成や移植患者の就労支援があります。臓器移植コーディネーターの育成については、今回初めてパネルディスカッションを企画しました。移植患者の就労支援については、各地の現状を取りまとめて検討しようと、要望演題のテーマにしています。 ほかにも、適応基準が昨年拡大された肝細胞がん治療における肝移植の役割についてのシンポジウム、肝移植術後の疼痛管理とリハビリについてのワークショップなど、目新しいトピックを導入しています。 脳死下での臓器移植件数は伸びていますが、ドナー不足はまだまだ深刻です。臓器提供の啓発や、心停止ドナーによる提供臓器の機能回復など、臓器確保の努力が全方向で行われています。 iPS細胞による臓器作成も期待されるところです。ヒト肝臓作成の研究に取り組む、東京大学医科学研究所の谷口英樹教授に特別講演を依頼しました。 生体肝移植は特別な治療ではない  島根医科大学(現:島根大学医学部)で日本初の生体肝移植が行われてから約30年。総肝移植数は今年、1万件を超える見込みです。生体肝移植は保険診療であり、特別な治療ではありません。かかりつけ医から患者さんに提案する一つの選択肢としてもらいたいと思っています。 今回は、次の10年の方向性を決める重要な節目となります。肝移植医療に関わる多くの医療者に参加いただくことを願っています。 開催地となる松山市は、じゃこ天や寿司などの食や道後温泉もあります。どうぞ楽しみにお越しください。 学術集会の主なプログラム(予定) ●特別講演「iPS細胞を用いたヒト肝臓の再構成」6月25日(木)午後1時40分~同2時30分(予定) 谷口 英樹氏(東京大学医科学研究所教授)●パネルディスカッション「臓器移植法改正後10年のあゆみと、これからの10年」●シンポジウム「『肝移植の醍醐味』の伝承」 会期:6月25日(木)・26日(金) 会場:ANAクラウンプラザホテル松山運営事務局:メッド jlts38@med-gakkai.org 学術集会HP: https://ww2.med-gakkai.org/jlts38/

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第35回日本老年精神医学会 地域を支える老年精神医学

 地域において大きな課題となっている老年精神医学について考える「第35回 日本老年精神医学会」が6月13日(土)・14日(日)に米子コンベンションセンターで開かれる。鳥取県で初の開催、脳神経内科医が大会長を務めるのも26年ぶりという。大会長の浦上克哉・鳥取大学教授に今回のポイントを聞いた。 鳥取だから発信できること 大会長 浦上 克哉 氏 (鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野 教授)  少子高齢化が進む中で、鳥取県は特にその進行が速い地域です。地域包括ケアで対応していくという方針が示されていますが、公的な保険がパンクしているから「自助と互助で頑張ってください」と言っているようにも映ります。もはや元気な高齢者が一人でも増えていかない限り、自助も互助も成り立ちません。そこで問題になるのが老年期の精神疾患。ここに効果的な手を打つことで地域を支えられるのでは、という思いから、テーマを「地域を支える老年精神医学」としました。 早期診断によって重症化を防いだり、認知症を防いだりと、われわれにできることはたくさんあります。特に認知症予防に関して鳥取は先進地で、さまざまな成果を全国に発信しています。私たちは2004年から鳥取県琴浦町で、認知症予防の取り組みを継続して行ってきました。認知症を治すことは難しくても、認知症予備群を見つけて可逆的な状態の方にアプローチし結果を出すことは可能です。 これまでは経験論でしか議論されてきませんでしたが、ようやく「とっとり方式認知症予防プログラム」という形にまとめることができましたので、この機会に発表させていただければと考えております。国も認知症の対策は「共生と予防」が柱と大綱を定めました。予防に力を入れてきた私たちだからこそ発信できることがあると信じています。 まずは、言葉の定義から  学会は13日(土)からですが、今回は前日からさまざまな企画を用意しています。「市民公開講座」も12日(金)です。せっかくの機会ですから本学会の池田学理事長に認知症の話を、慶應義塾大学の三村將教授には高齢者うつの話をしていただく予定です。地域の皆さんとも話題を共有できたらと考えています。 精神科医の方にも早期の鑑別診断を受け持っていただきたく、「精神科医のための神経所見の取り方講座」を開催する予定です。脳神経内科医と精神科医の中では暗黙のすみ分けが存在しますが、脳神経内科医がいない地域も多く存在します。医師を増やすことが先決ではありますが、当面の対策としては有効だと考えています。 12日(金)の夕方には、専門医を対象にした「生涯教育講演会」も企画しています。認知症や高齢者の精神神経疾患に普段あまり触れていないと思われる公認心理師の方を育成できればと思っています。 見たことのない「絵」で魅せる  今回〝オール鳥取〟という形で鳥取大学の兼子幸一教授と花島律子教授に、副大会長を務めていただきます。教育講演では兼子先生に高齢者の統合失調症について、花島先生には高齢者のパーキンソン病についてお話をいただく予定です。 昨今、海外の高名な先生を学会に呼ぶのが難しくなってきていますが、前ソルボンヌ大学教授のハラルド・ハンペル氏をお招きすることができました。バイオマーカーや画像検査、検体を使った早期診断の開発など認知症全般に詳しく、最前線のお話が聞けると期待しています。 山陰地方は交通の便が悪い地域です。そんな山陰で気軽に最新情報を得る機会は、そうありません。日本はもちろん、世界をリードするトップランナーが集まる貴重な会です。ぜひご参加いただき、地域の老年精神医学のレベルアップに役立てていただければと、願っています。 学会の主なプログラム(予定) ●シンポジウム「認知症の共生と予防」6月13日(土) 午後3時30分〜同5時粟田 主一氏(東京都健康長寿医療センター研究所)、櫻井 孝氏(国立長寿医療研究センター)●特別講演「疾患修飾薬開発とバイオマーカー研究の最新情報」6月14日(日) 午前10時40分〜同11時30分  ハラルド・ハンペル氏(前ソルボンヌ大学)●「前頭側頭型認知症の最新情報」6月14日(日) 午後2時45分〜同3時30分 池田 学氏(大阪大学) 会期:6月13日(土)・14日(日) 会場:米子コンベンションセンター問い合わせ:ワールドプランニング jps.taikai@nqfm.ftbb.net学会HP:http://184.73.219.23/rounen/D_gakkai_koenkai/35th/

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