九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

「峠の手前で完結する医療」を目指して

JA北海道厚生連 帯広厚生病院 菊池 英明 院長(きくち・ひであき)1978年北海道大学医学部卒業、同第2内科、帯広厚生病院消化器内科主任部長、同副院長などを経て、2012年から現職。  農家一戸当たりの平均耕地面積42ヘクタール、食料自給率1100%(カロリーベース、十勝総合振興局調べ)。道内トップの大規模農業を展開する道東の十勝エリア。その中心都市、帯広で70年以上〝農業王国〟の医療を支えてきた帯広厚生病院が、2018年、移転新築を果たした。 ―スケールの大きな病院ですね。  敷地面積約7万6000平方メートル、病院は鉄筋コンクリート造り10階建て、東側に外来棟、西側に自家発電装置2台を設置するエネルギー棟が接続しています。 延べ床面積は約6万5000平方メートル、駐車場は約900台分。診療科は24科。1階に救命救急センター、3階に手術室、4階に総合周産期母子医療センター、5階から一般病棟となり、9階に緩和ケア病棟を開設。病床数651床のうち個室335床。屋上にはヘリポートを設置しています。 十勝エリアは日本最大の医療圏であり、2次医療圏と3次医療圏が同一という全国唯一の地域。当院は救命救急センター、道地方・地域センター病院、災害拠点病院、地域がん診療連携拠点病院などの指定を受ける中核病院。従来にも増して、地域の期待に応える医療を提供していきます。 移転新築の直接的なきっかけは、老朽化と、増築を繰り返したことによって内部構造や動線が複雑化して診療運営が非効率的になり、患者さん、職員に多大な負担をかけるようになったこと。建設に際しては、明快なゾーニングによるとシンプルな動線と、効率的な診療を導く合理的な内部構造の実現に力を注ぎました。 例えば、外来患者さんの動線は南口のメインエントランスから北口の救急・時間外エントランスまで、院内を一直線に縦断するホスピタルモールを主軸とし、ここを水平移動するだけで外来各科にアクセスできます。診療の効率化については、北口1階の救急ヤードと屋上ヘリポートをエレベーターで直結し、必要な処置室や機器を合理的に配置。スムーズな搬入・搬送や時間ロスのない診断・治療を可能にした救命救急センターが代表例になります。 患者さんの利便性の向上にも配慮しました。モールの起点に、一切の手続きをワンストップで行える総合支援センターを開設したほか、経済的不安など、さまざまな悩みを有する患者さんやご家族のために専門職員が出向いて個室で対応する相談窓口を新設。 また診察進行状況、調剤状況などが携帯端末に配信されるWebサービスも導入。さらに職員専用エリアの確保や専用エレベーターの設置、抗がん剤調製ロボットの導入など、職員の職場環境の向上に資する設計や設備も随所に施しています。 ―新病院として重点的に取り組んでいることは。  三つあります。まず先進的医療の提供。手術室と心・脳血管エックス線装置を組み合わせたハイブリット手術室の新設や、がん細胞へのピンポイント照射が可能な放射線治療用動体追跡システムなどを導入しました。二つ目は療養環境の向上。病室個室率50%をはじめ、緩和ケア病棟の開設、外来化学療法室の拡充なども行っています。 三つ目は災害に強い病院の実現。全館免震構造とし、最大出力3500キロワットの自家用発電装置の設置、飲料水の地下水利用などにより、災害時でもライフラインを自主確保して病院の機能を維持します。 十勝エリアは日高山脈や大雪山に囲まれ、札幌や旭川など他都市に移動するには山脈を越えなければなりません。時間も費用もかかるため、エリア内で必要十分な診療が受けられる医療体制の実現が、地域住民の昔からの願いでした。当院も1945年の開院以来、〝峠の手前で完結する医療〟を目標とし、今後もその点に変わりはありません。地域住民に喜ばれる医療の実現に努力していきます。 JA北海道厚生連 帯広厚生病院北海道帯広市西14条南10―1☎0155―65―0101(代表)http://www.dou-kouseiren.com/byouin/obihiro/

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2020年、創立90周年函館の地域医療を支え続け

社会福祉法人 函館厚生院 函館中央病院 本橋 雅壽 病院長 (もとはし・まさとし) 1983年北海道大学医学部卒業。仏アンリ・モンドール病院・研究所留学、NTT東日本札幌病院血管外科長などを経て、2017年から現職。  開院90年を来年に控える函館中央病院。「函館の街とともに育ってきた病院」と、本橋雅壽病院長は、その歴史に誇りを持つ。道南医療圏の基幹病院として「心ある医療」をモットーに急性期医療を担う。 ―道南医療圏での役割は。  北海道の地域の特性の一つが土地の広大さ。函館―札幌間の距離は、およそ300㌔で、本州で言えば東京から愛知までの距離とほぼ同じです。  そう考えると、ここ函館から大学病院がある札幌まで患者さんを運ぶのが、容易ではないことは想像に難くないでしょう。だからこそ、函館の医療は、ある程度この地域で完結する必要がある。そのために25診療科、527床を有していますし、救急、総合診療科を中心に「断らない医療」を続けています。  総合周産期母子医療センターは、医療圏の中でここが唯一で、NICUが9床、GCUが18床あります。医師は産科が6人、小児科が11人という体制です。  当院での分娩数は2018年で738件と、圏内の出生数減にかかわらず前年より増加。総合周産期母子医療センターとしての役割もあってハイリスクの出産の割合は高まっており、現在は総数の半分ほどがハイリスク分娩です。われわれは、圏内のハイリスクの出産をすべて引き受ける覚悟を持っています。  私は心臓外科医です。10年ほど前にこの病院に移ってからは、小児の心臓外科手術も担当しています。これも地域の医療はここで完結したいとの思いから始めました。  函館に住んでいる患者さんが札幌まで行って大きな手術をするのは大変です。特に、小児医療では、子どもの付き添いのために保護者が仕事を休まなければならない場合も多く、体力面だけでなく、経済面でも大きな負担がかかります。  病気以外の部分で大変な思いをする患者さんやご家族を少なくしたいという思いが、根底にあります。  虐待の早期発見や子育て支援を通じた予防活動にも力を注いできました。  7月27日(土)・28日(日)には、「第11回日本子ども虐待医学会学術集会」(会場:サン・リフレ函館)を、当院小児科の石倉亜矢子医師が大会長となって開催します。テーマは「かよわくて、きっとつよい―今日の一歩、踏み出す勇気―」。函館市内では児童相談所や警察などが虐待への対応で連携を強めています。函館の子どもたちの健康は責任を持って守る―。そんな気概を持って取り組んでいます。 ―注力されていることは。  この医療圏内の患者さんに高度な医療を提供できる病院を目指したいと考えています。例えば、北海道がん診療連携指定病院としてがんの診断、治療に力を入れています。2016年には道南唯一の腫瘍内科を設置しました。がんは今後、臓器横断的な治療がますます必要になってくるでしょう。腫瘍内科の役割も一層増すと考えています。  今年4月にはケモサポート外来を開始。看護師・薬剤師が、抗がん剤治療前、あるいは導入中の患者さんの不安などを聞き、サポートしています。  現在、当院にいる研修医は12人。研修医向けの朝の講義を実施するなど、教育面でのサポートを手厚くしています。講師は、当院の医師のほか北海道大学の教授にも依頼。教育体制を整備することが、当院の医療の質向上だけでなく、医師の確保にもつながると考えています。  学会発表などアカデミックな活動も推奨しています。昨年は整形外科、放射線科、泌尿器科の医師たちが、海外の学会で発表。報告記事と写真を、病院ロビーに掲示して紹介しました。  このような取り組みを通じて、当院でも最新の医療が受けられるということを、理解していただけるのではないかと思っています。 社会福祉法人 函館厚生院 函館中央病院 北海道函館市本町33―2☎0138―52―1231(代表)http://chubyou.com/

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遺伝子細胞療法で悪性脳腫瘍に挑む

浜松医科大学 脳神経外科学 難波 宏樹 教授(なんば・ひろき)1979年千葉大学医学部卒業、同脳神経外科入局。米国立衛生研究所、千葉県がんセンターなどを経て、1999年から現職。  教授として教室をけん引して21年目。30年以上にわたり、悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療の研究を続けてきた。今、臨床への応用に挑んでいる。 ―30年以上にわたり脳腫瘍の治療研究を継続。  脳腫瘍は大きく二つに分けられます。一つは脳の膜などから発生する腫瘍。髄膜腫や下垂体腺腫などで多くは良性です。もう一つが悪性腫瘍。脳の中にできる神経膠腫(グリオーマ)です。 グリオーマは正常脳との境界があいまいで、きれいに摘出するのは不可能。腫瘍のコアな部分だけ取って放射線や抗がん剤に進むのが標準的治療です。現状、最も悪性度の高い膠芽腫では平均余命は1年半ほど。再発により治療成績はなかなか向上しません。今世紀に残された最も悪性な腫瘍の一つではないでしょうか。 グリオーマは脳の中で浸潤し広がる性質があります。それを追跡して根治するには―。脳の神経幹細胞に遺伝子を導入し、腫瘍に送り込んで増殖を抑制しようというのが、われわれが取り組む遺伝子細胞療法です。 今、臨床応用に進む段階です。神経幹細胞ではなく、骨髄などから容易に採取できる間葉系幹細胞を運び屋にする研究を重ねてきました。その一つの完成形がMuse細胞。東北大学の出澤真理教授が発見したこの細胞を使った共同研究で、極めて満足のいく結果が出たのです。 本気で臨床応用まで考えているのは私たちくらいでしょう。どうにか実現したいのですが、研究費の調達や企業との連携など、違う次元の壁があります。 iPS細胞もそうですが、細胞療法自体のハードルはまだ高い。安全な治療法として確立できると確信しているのですが、一筋縄ではいかない。何とか打破したいと、みんなで頑張っているところです。 ―もう一つの特徴である「機能的脳神経外科」について教えてください。  パーキンソン病患者を主な対象に、脳に電極を埋め込んで電気刺激で治療する外科手術を行っています。この治療で走れるまでに回復する患者さんもいます。 機能的脳神経外科はうちで40年ほど続く研究分野。テーマの一つに「精神疾患に対する脳深部刺激」があります。例えば強迫神経症は、脳のある部分を刺激することで改善することがあります。ぜひ臨床に応用したいと杉山憲嗣准教授が取り組んでおり、精神科のドクターも前向きに考えているところです。 いまだに精神疾患に対する手術は認められないという風潮がありますが、うちがやらなければどこがやるんだという思いがあります。実現すべき時期に来ていると考えています。 来年1月には、杉山准教授が会長を務める「第59回日本定位・機能神経外科学会」も開催されます。これを一つのきっかけとして、少しでも前進していけたらとの思いがあります。 そのほかの臨床では、頭蓋底手術も得意分野としています。脳の深い部分にある腫瘍を扱う手術のエキスパートがいますので、広範囲から患者さんが来られます。そして血管内治療。これも重点的に人を育てています。 ―9月開催の「第24回日本脳腫瘍の外科学会」の学会長です。コンセプトは。  脳腫瘍は外科だけで治るものではありません。世の中だんだん切らない方向に向かっている。分子標的薬などもある中、どこまで手術をすべきか―。外科治療の意義を改めて考える内容にしたいですね。 外科医の役割はどんどん変化しています。放射線治療などを専門とし、手術をしない脳外科医も増えています。そういう成績も持ち寄っていただき、脳腫瘍を多角的に理解する場になればいいですね。 浜松医科大学 脳神経外科学浜松市東区半田山1―20―1☎053―435―2111(代表)https://www.hama-med.ac.jp/education/fac-med/dept/neurosurgery/

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がん免疫療法の道を開いた ノーベル賞受賞の本庶氏招き〝感謝の会〟

 2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学高等研究院副院長・特別教授の本庶佑氏を招いた「がん患者・家族・遺族、臨床研究者から偉業を称え、感謝を伝える会」が4月2日、京都市内で開かれた。認定NPO法人「西日本がん研究機構」(理事長:中川和彦・近畿大学医学部腫瘍内科教授)などが共催。患者を中心に約200人が参加した。 患者本人とその家族の「未来を変えてくれた」 本庶佑氏に質問する時間も設けられた  患者代表として登壇した清水公一さんは、非小細胞肺がんの治療で免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名:オプジーボ)が奏功したことを報告。 「2012年、子どもが生まれて3カ月の時に肺がんが見つかった。手術を受けたが転移。その後、放射線治療や抗がん剤治療も受けた。2016年にニボルマブの投与を開始したところ奏功し、今も生きて、家族と一緒にいることができている。ニボルマブは自分と家族の未来を変えてくれた」と本庶氏に感謝を伝えた。 まだまだ未熟な段階 若手の研究参入に期待  本庶氏はスピーチで「生命科学の分野はまだ分からないことの方が多い。1992年にPD―1を発見した際には、がんの治療につながるとは夢にも思わなかった」と振り返った。 現状については「インフルエンザに感染して、くしゃみ程度で済む人もいれば、命を落とす人もいるように、人間の免疫の力は個々によって違う。免疫チェックポイント阻害薬が効いた患者さんは、もともとの免疫力が高かった可能性がある」。この治療法を確立するために「もっと多くの若い人がこの分野に参入し、研究を継続していくことが重要だ」と強調した。 京都大学は2018年12月、本庶氏が寄付したノーベル賞の賞金を原資に「本庶佑有志基金」を設置。若手研究者の支援に取り組んでいる。「研究者や医療者の役割は、患者さん自身の治ろうとする力を支えること。今世紀中に、がんが死に至る病ではなくなることを期待している」と語った。 湧き水が小川になり30年で大河となった がん患者を中心に約200人が来場  中川理事長は、「本庶先生は免疫細胞にPD―1という物質を発見。これが、がん細胞に発現するPD―L1と結びつくと、本来がん細胞を攻撃するTリンパ球を不活化する。これを改善するのがPD―1抗体のニボルマブ」と、メカニズムを説明。「この研究は誰も見向きもしなかった岩からの湧水を、30年ほどかけて小川、さらには大河へと育てた素晴らしいものだ」と言葉に力を込めた。

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感覚を「診る」のは人間にしかできない

熊本大学大学院生命科学研究部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 折田 頼尚 教授(おりた・よりひさ)1996年岡山大学医学部卒業。米ピッツバーグ大学客員研究員、癌研究会附属有明病院(現:がん研究会有明病院)、岡山大学医学部附属病院(現:岡山大学病院)などを経て、2017年から現職。  2017年6月に着任後、これまで熊本大学耳鼻科ではあまり盛んではなかったがん研究に力を入れている。もうすぐ就任3年目がスタートする折田頼尚教授に話を聞いた。 ―どんな2年間でしたか。  日々の研究や手術などと向き合い、まさにあっという間でした。岡山県から熊本県に移り住み、ようやくこの土地に慣れてきたというのが実感です。 着任して以降の2年で新たな入局者を9人迎えました。現在、メンバーが20人を超え、まだまだ体制を整えなければなりませんが、入局者が増加傾向にあることを嬉しく感じています。 私が新たな研究テーマとして取り入れた頭頸部がんの領域については、今年初めて文部科学省の科研費を獲得し、研究を推進できる体制になってきました。熊本大学ではこれまでに頭頸部がんの研究実績がなかったため、申請書を書くのに苦心しました。ようやく資金や研究員の配置が整い、いよいよ研究の第一歩を踏み出すことができました。 育成面では研究と臨床のバランスが重要だと考えています。若い人材を研究に導くとともに、臨床の現場でもしっかりと経験を積んでもらうことが大切です。熊本県の状況としては、医局員を派遣する医療機関の数や、若手を育てる医師の数がまだまだ不足しています。 当面は大学が中心となり人材を育てていくことが必要です。近い将来、専門医や各病院で指導する側に立てる人材を増やすべく、まずは医局員一人一人が「どんな医師になりたいのか」ということに耳を傾けるようにしています。 医局には研究者になりたい者もいれば、臨床でプロフェッショナルを目指す者もいます。なるべく本人の意向に沿いながら、適性を判断してアドバイスすることを心がけています。医局の人数が増え、高いレベルの若手が育てば、いずれは天草や阿蘇といった耳鼻科医が不足している地域の医療もカバーすることができます。各病院に勤務する医局員によって、連携を強化することもできるでしょう。 私たちは、鼻や耳だけでなく鎖骨から上、脳から下の範囲をすべて診る科です。境界領域は他科の先生と連携を取りつつ、専門性が求められる部分はしっかりと担っていく。このチームワークが熊本全域で当たり前に構築されることが理想だと考え、日々若い医局員たちと向き合っています。 ―今後の展望を。  本庶佑先生がノーベル医学生理学賞を受賞されて一躍有名になった、がんの免疫療法やがんを取り巻く微小環境の研究を進めたいと考えています。 頭頸部がんは飲酒や喫煙などが要因。全領域のがん患者の数からすると比較的まれながんです。重症化すると顔面が変形したり、飲食が困難になったり、場合によっては治療の際に声を犠牲にせざるを得ない場合もあります。 かなり進行したケースでは、大きな外科手術が必要となることもあります。放射線治療や抗がん剤で根治可能か、積極的に手術をすべきか。その見極めが大切です。負担をより軽減できる免疫療法の研究が進めば、いつか大きな手術をせずとも治せる日がやってくるでしょう。 画像検査や血液検査といったデータ解析に、今後AIが次々と導入されることが予測されます。それでも耳鼻咽喉科・頭頸部外科は、人間の診断が不可欠な医療。なぜなら感覚器官はとてもデリケートだからです。 耳鼻科領域の患者さんの訴えは、たとえ同じ疾患であっても個々の患者によって大きく異なります。それをAIで判断するのは難しいでしょう。人が人を診ることが必要な分野だからこそ、臨床と研究のバランスを大切にした医療を届けていきたいと思っています。 熊本大学大学院生命科学研究部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野熊本市中央区本荘1ー1ー1☎096―344―2111(代表)http://kumamoto-ent.com/

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各分野の専門家を育成 四国の眼科医療に貢献

愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座 白石 敦 教授(しらいし・あつし)1986年日本医科大学医学部卒業、同第2外科(内分泌外科)学教室入局。米シンシナティ大学眼科客員講師、愛媛大学眼科学准教授を経て、2016年より現職。  「専門分野で知識を深めることで、自信を持って治療に臨むことができる」と語る白石敦教授。自らの経験を基に後進の教育に情熱を傾ける。カダバートレーニングなど新しい教育法にも挑戦。愛媛県、そして四国の眼科医療の質の向上がその原動力だ。 ―医局の特徴や教育について聞かせてください。  県唯一の眼科学講座の役割の一つとして、どんな眼科疾患でも愛媛県内で治療を受けられるようにする体制作りが求められます。これに対応するには幅広い人材の育成が重要ですので、入局後はあらゆる分野の手術や疾患を可能な限り経験できるように関連病院での研修をします。 大学に戻ってからは基礎研究や臨床研究も大切ですから、専門を深く掘り下げてもらいます。知識の柱をつくっていく時期は、ある分野に特化する方が成長できるのではないでしょうか。また、深い専門知識を得ることによって他の分野のことも理解できる。それで自信がつけば、余裕をもって治療に当たることができるでしょう。 特に愛媛大学医学部附属病院はほとんどの眼科疾患をカバーできるよう角膜、網膜、眼形成など専門外来を幅広く設けています。患者さんをご紹介いただく際に開業医の先生にとってもわかりやすいというメリットがありますし、医局員も各専門で知識を深め、技術の向上に励んでいます。 手技の教育では、ご遺体(カダバー)を用いた実習に取り組んでいます。愛媛大学医学部は厚労省からカダバーのトレーニング施設に認定されているため、この実習が可能です。 白内障などの内眼手術のトレーニングでは入手しやすい豚眼を使用しますが、涙道や眼瞼(けん)手術のトレーニングにはカダバーが非常に有効です。シール法という解剖体固定により、生体に極めて近い物理的性質を維持できる上、出血や腫れも無いため解剖や実習が大変分かりやすいのです。他大学にはない取り組みのため公開実習では全国から受講者が集まります。 ―2017年、日本涙道・涙液学会の理事長に就任。  本学会は2011年に発足。涙道の専門医の育成が目標の一つ。専門医は徐々に増えてきましたが、まだまだ偏りがあり専門医の治療を受けられない地域もあります。 涙道閉塞症の患者さんは高齢者の3~5%程度いると言われ、これは白内障にも相当する数字です。原因はさまざまですが、抗がん剤の副作用によるものも報告されています。常に涙が出続けてハンカチが手放せない状態は、患者さんのQOLを著しく低下させています。 専門医がいない地域では治療が進まないケースも少なくないようですが、手術でかなり改善します。治療は涙道内視鏡を用いた涙管チューブ挿入術と涙嚢(のう)鼻腔吻合術(DCR)。DCRには皮膚を切開する方法と、鼻腔から鼻粘膜や骨を切除しバイパスを作る方法があります。 学会は毎年、日本眼感染症学会、日本眼炎症学会、日本コンタクトレンズ学会とともにフォーサムを開催。今年で第8回となる総会は7月に京都で開催。この8年の間に学会主導の多施設研究も実施され、学術的な研究発表も増えるなど大きな進歩を遂げました ―四国全体での取り組みも盛んですね。  四国の大学の眼科は非常に良い関係を築いており、毎年共同でセミナーを開いています。全国から専門家を招いて開くこのセミナーでは、さまざまな分野の最前線を知ることができるとあって開業医の先生にも好評です。 今年で13回目、参加者は年々増加しています。当講座でも、講演会や勉強会を積極的に開催。眼科医療の質を上げるためにも風通し良く地域連携を進めていきます。 愛媛大学大学院医学系研究科眼科学講座愛媛県東温市志津川☎089―964―5111(代表)https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/ophthalmology/

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県内屈指の症例数で甲状腺治療の中核となる

医療法人福甲会 やました甲状腺病院 山下 弘幸 理事長・院長(やました・ひろゆき)1982年徳島大学医学部卒業、九州大学医学部第一外科入局。米シンシナティ小児病院、野口病院副院長、やましたクリニック(現:やました甲状腺病院)院長を経て、2012年から現職。  甲状腺、副甲状腺疾患の治療を担うやました甲状腺病院。35床の病院となって2年。手術件数は年間1千例に迫り、甲状腺専門病院として、全国有数の実績を積み重ねている。 ―甲状腺疾患の近年の傾向と、貴院での取り組みを。  患者さんの7割が他院からの紹介です。最近は、不妊治療専門クリニックからの紹介でいらっしゃる方が増加。晩婚化が進み、不妊治療を行う人が増えたことが一因でしょう。甲状腺疾患の罹患(りかん)率そのものが高くなったのではなく、検診などで見つかりやすい状況になっているのだと思います。 橋本病やバセドウ病などは遺伝的要素が強い病気なので、お母さんが娘さんを連れてこられる場合もあります。 当院では、甲状腺疾患にかかわる内服治療、手術、放射性ヨード治療(バセドウ病および甲状腺がん)の選択が可能で、抗がん剤治療は他施設の腫瘍内科と共同治療を行っています。 現在、常勤医師数は9人。外科医が5人、内科医が2人、麻酔科医が2人です。甲状腺の手術では術当日の管理が非常に重要です。頸部は狭い領域に嚥下・呼吸・発声に必要な臓器や神経があり、それらの損傷や出血などで生命にかかわる合併症も皆無とは言えません。安心して手術を受けてもらうため手術日は常勤外科医と院長の2人で当直します。 全常勤医は甲状腺・副甲状腺疾患に精通し、手術技量も高く、チームワークも非常に良い。定時に診療が終わることが多いので、研究発表などの準備にも時間がとれます。患者さんが増えているので、医師を募集しているところです。 患者さんからも信頼を得られるよう、努力しています。当院には毎日多くの患者さんがいらっしゃいます。受付や技師などの他のスタッフにも、意識改革を促しています。 ―感じている課題は。  甲状腺の薬は、毎日飲み続けることが肝心です。私は、患者さんに対して、「もし服薬をやめるといろいろな不調が出てくるよ」と、具体的な症状も交えて伝えています。  しかし、認知症などで自己管理が難しくなると忘れてしまう。甲状腺治療のホルモン薬は、飲み忘れてもすぐに大きな影響が現れず、じわじわと悪化するので気付きにくいのです。「体調がすぐれない日が続いているな」と感じて再び受診される方も多いですね。 慢性疾患のため、90日処方が適用されているのも自己管理が難しい要因でしょう。3カ月に1度の来院だと、医師側としても把握するのが難しい。血圧のように2、3週間おきに受診していただけるといいのですが、そうすると受診料などが上乗せになり、結果的に患者さんの金銭的負担が大きくなってしまうのです。 解決策としては、厚生労働省が推進しているように、薬剤師の〝かかりつけ〟を決めておくことがベストだと思います。複数の病院で処方されている薬を把握してもらうことで、飲み合わせや副作用の相談もできますし、残薬解消にもつながるでしょう。 他領域の病気も同様でしょうが、甲状腺・副甲状腺疾患も適切な治療を受けられていないケースが少なくありません。 特に若年層のバセドウ病の初期治療は、専門医に任せた方が絶対にいい。将来、妊娠を希望しているかどうかによって、手術か内服かなど治療方針は変わりますし、薬の量や副作用も調節しながら経過を診なければいけません。汗をかく、脈が速くなる、目が出るといったバセドウ病の症状が少しでも見られた場合は、すぐに専門医を受診していただきたいですね。 多くの先生方や行政のご協力をいただき当専門病院ができたわけですから、甲状腺・副甲状腺疾患の治療でさらに貢献したい。福岡における甲状腺・副甲状腺疾患診療の中核にならなければいけないと、半ば使命感に駆られています。 医療法人福甲会 やました甲状腺病院福岡市博多区下呉服町1―8☎092―281―1300https://www.kojosen.com/

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始まった次代の医療 けん引できる人材を

佐賀大学医学部附属病院 呼吸器内科 荒金 尚子 診療教授(あらがね・なおこ)1987年佐賀医科大学(現:佐賀大学医学部)卒業。埼玉県立がんセンター、米テキサス大学MDアンダーソンがんセンターなどを経て、2015年から現職。  専門領域は肺がん。診療教授として臨床、研究の第一線に立ち、佐賀大学医学部附属病院がんセンター長も務める呼吸器内科の荒金尚子氏。現在、国が進める「第3期がん対策推進基本計画」が目指すのは「がんの克服」。荒金氏の視点を通して、呼吸器領域におけるがん医療のこれまでとこれからに迫った。 ―なぜこの領域を専門に。  佐賀医科大学(現:佐賀大学医学部)を卒業し、研修医として内科に入局した当時、治療で最も苦労した疾患が肺がんでした。  現在ほど抗がん剤の種類も多くはなく、患者さんはとても苦しい思いで治療を続けながらも、なかなか効果が得られない状況がありました。例えばステージ4の場合、診断から1年が経たずして亡くなるケースも少なくなかったのです。  また、患者さんやご家族に対してどのように診断結果をお伝えするのかなど、さまざまな面でがん医療の仕組みが整っていないと感じていました。  そうした現状をなんとか変えることができればと考え、埼玉県立がんセンター、米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究員として、がん治療の基本を学びました。  MDアンダーソンがんセンターでは、主にビタミンA誘導体の一種であるレチノイン酸のがん再発予防効果などに関する実証研究に取り組みました。  2000年に当学に戻って以降は、肺がんのバイオマーカーの臨床研究のほか、近年は血液などを用いて低侵襲でがん組織の検査を可能にするリキッドバイオプシーの研究にも力を入れています。 ―がんセンターについて教えてください。  佐賀大学医学部附属病院がんセンターが開設したのは2009年のことです。  まず2001年、診療科の垣根を越えた横断的臨床腫瘍班が立ち上がりました。2005年には、「がん薬物療法専門医」の育成施設として日本臨床腫瘍学会の認定を取得。現在、多職種が連携して多様ながんの診療を展開しています。 センターの役割は、佐賀県におけるがん医療の中核施設として質の高い医療を提供しつつ、地域の医療機関や住民へ向けて正しい情報を発信することです。 佐賀県のがん診療連携拠点病院として、県内の他の拠点病院である佐賀県医療センター好生館(佐賀市)、唐津赤十字病院(唐津市)、嬉野医療センター(嬉野市)と協力してがん医療の底上げを図ります。 当センターでは各がん専門医、がん薬物療法認定薬剤師、がん専門薬剤師、がん看護専門看護師、メディカルスタッフらがチームとなって、外来化学療法から緩和ケア医療、就業支援まで多岐にわたる診療やサポートに取り組んでいます。 週に1度、複数の診療科が集まって症例や治療方針を検討する「キャンサーボード」の開催も活発です。 ―今後のがん医療について、どのような点に注目していますか。  次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析によって一人一人の体質や症状に合わせた治療を可能にするがんゲノム医療。今年、「がん遺伝子パネル検査」の保険適用が見込まれるなど、がんゲノム医療をめぐる動きが本格化します。  全国に11カ所あるがんゲノム医療中核拠点病院を中心に、当院を含む各地の連携病院が、がんゲノム医療の推進役を担います。  当院は京都大学医学部附属病院と連携。ウェブカンファレンスなどを通じて臨床試験や遺伝子変異などの情報を共有し、がんゲノム医療の研究を進めているところです。 私たちが積み重ねるエビデンスは、いずれ新たな治療法や薬剤の開発につながるでしょう。こうした次世代の医療に対応し、けん引できる人材を輩出する。佐賀大学の重要なテーマであると捉えています。 佐賀大学医学部附属病院 呼吸器内科佐賀市鍋島5─1─1☎0952─31─6511(代表)http://www.saga-hor.jp/

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