医療法人起生会 表参道吉田病院  安藤 正幸 名誉院長

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疾患の原因となったのはいるはずのない菌だった

【あんどう・まさゆき】 1961 熊本大学医学部卒業1966 同大学院医学研究科博士課程修了 1970 米ジョンズ・ホプキンス大学 1979 熊本大学医学部第一内科助教授 1992 同教授 1997 熊本大学医学部附属病院院長 2001 表参道吉田病院名誉院長

 熊本大学第一内科(現:呼吸器内科)時代は夏型過敏性肺炎の病態解明など研究に注力。退官後は研究活動とともにベッドサイドでの診療に軸足を置く。1936年生まれの82歳。毎年の学会発表も欠かさない。医療への熱意はなお盛んだ。

◎肺は無菌なのか?

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 肺炎の原因菌を調べてみると、その多くが肺炎球菌、次いでインフルエンザ菌、マイコプラズマなどです。

 これらは従来の血液寒天培地の発育によって判明したものですが、遺伝子検査による網羅的な解析を用いることで、新たな原因菌がいることが分かりました。

 「成人肺炎診療ガイドライン2017」には、口腔内菌のプレボテラ属や嫌気性菌のフソバクテリウム属などが加わっています。なにしろ、肺炎患者さんの約半数は原因菌が不明。未知の細菌はまだ多くあると考えられています。

 「腸内などと異なり通常時の肺は無菌状態が保たれている」。長らくそう信じられてきたのですが近年、肺にはたくさんの常在菌が存在することが明らかとなりました。疾患の有無にかかわらずどんな人の肺にも菌がすみついているのです。

 これまでの議論の対象は主に培養した菌に限られていました。しかし肺にも常在菌がいるとなると、従来とは違った視点から病気の原因を検討する必要があります。

 人間の体にいる微生物が構成する「マイクロバイオーム(微生物の集合体)」は私たちの免疫や脳の機能などをコントロールしていると言われています。例えば、腸内細菌はクローン病や潰瘍性大腸炎などに関与しているという。同じようなことが、実は肺の中でも起こっていたのではないかと思うのです。

 2017年2月に東京で開かれた「第43回難治性気道疾患研究会」で、私はある興味深い症例について発表しました。患者さんは潰瘍性大腸炎の治療で病変を切除。その10年後に、大腸菌の感染による気管支拡張症を発症しました。

 切除後、数カ月から1年以内に同様の症状が起こることはありますが、潰瘍性大腸炎の症状が完全に消失し、これほどの間隔が空いて発症するのは極めて珍しいのです。

 なぜ10年も経って大腸菌が気道で病変を起こしたか。可能性としては大腸菌を認識して活性化するリンパ球が肺で炎症を引き起こしたのではないかー。そんな仮説を考えています。

◎難病の解明へ

 私の専門の一つであるサルコイドーシスは肉芽種という結節がさまざまな部位にできる難病です。肺の線維化による呼吸不全や心臓病変によって死に至ることもあります。2000年から4年間、私は「日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会」の理事長の立場にありました。

 順天堂大学医学部教授などを務められた本間日臣先生は、40年ほど前に世界で初めてサルコイドーシスの原因菌は「アクネ菌(ニキビ菌)」だとする説を報告しました。本間先生は私が最も尊敬する呼吸器学者です。

 その研究を受け継いだ東京医科歯科大学の江石義信教授が2012年、サルコイドーシス肉芽腫細胞内にアクネ菌の存在を同定。本間先生の説を裏付ける有力な成果として注目されています。この研究過程において、アクネ菌は微量ではあるものの、肺にも常在していることが分かりました。もしかしたら、この常在菌による免疫学的機序が疾患を起こしている可能性もあります。

 日本では本間先生の研究以来、アクネ菌病原説が共通認識です。ただし現状は世界中を見渡しても、1種類の菌がどの国でも普遍的にサルコイドーシスの原因であると証明した例はありません。欧米では結核菌が原因であるとの見方が根強く、アクネ菌病原説に異を唱える声も少なくない。

 そこで、江石先生が海外に渡り、現地の肉芽種の標本を使ってアクネ菌が局在していることを証明しようという計画が進んでいます。研究者というのは人が成果を発表したからといって鵜呑みにするわけではない。ですから実際に見せて、国際的に認めてもらおうというわけです。

 私が診療した「大腸の切除10年後に気管支拡張症を発症」した患者さんはまったくの偶然だったのですが、実は江石先生のご親族でした。サルコイドーシスの病態解明は私の長年の目標でもありますから、協力していきたいと考えています。

 私が描いた「大腸菌が肺に定着して呼吸器疾患を起こした」というストーリーもこれからエビデンスを重ね、提示していきたいですね。東京山手メディカルセンター呼吸器内科の徳田均先生と、共同研究に取り組む話も進んでいます。今後、肺の中にどんな種類の菌がいて、どのような疾患の原因となっているのか少しずつ明らかになっていくでしょう。

◎患者さんのそばに

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 熊本大学の教授を退官する少し前に、妻が肺線維症で亡くなりました。私の専門領域の疾患ですから、もっと早く病変を発見していればー。

 そんな反省もあって現在は「患者さんのそばで診療をしたい」という思いが第一にあります。表参道吉田病院では、毎日外来と入院患者さんを診療しています。

 ベッドサイドでは、終末期の医療のあり方についてもたびたび考えさせられています。患者さんの望みはなんだろうかとご家族たちも私たち医療者も悩み、さまざまな事情を抱えて治療方針を決めている。

 今年は、私が会長を務める「日本尊厳死協会くまもと」が発足して10年の節目です。心身が元気なうちに、終末期にどんな医療を受けたいのか意思を表明する「リビングウイル」の普及に取り組んできました。協会全体としては、終末期医療の法律の制定についても呼びかけています。

 毎年、行政、医師会、看護協会などが参加する市民向けの公開講座を開いています。また、熊本市はリビングウイルの啓発パンフレットを作成、配布しています。おそらく全国的にも熱心な自治体でしょう。引き続き、活動に力を入れていきたいと思います。

医療法人起生会 表参道吉田病院
熊本市中央区北千反畑町2-5
TEL:096-343-6161
http://www.kiseikai.or.jp/


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