医療現場と医学生の伴奏者として
4月スタートの新専門医制度の下、地方都市では、いかに次世代を担う若手医師を増やしていくのか。
―貴院の卒後研修臨床センターの特徴は。
私のミッションは「若手医師の地域定着と医師循環サイクルの強化・拡大」。卒前から卒後まで一貫した「地域循環型教育体制」を通して、医師を養成・サポートする業務を一手に担っています。
2017年度に行われた新専門医制度の専攻医一次登録において、宮崎は全国最下位の登録数でした。二次、三次と進むにつれて数は増えたものの、全国平均からするとかなり少ない。これは、私の業務の中で最も頭を悩ませている点であり、改善のため力を注いでいる点でもあります。
2006年度の入学試験以降、当医学部に20人の「地域枠」が設置されました。それによって地元に残る研修医は増加しています。
地域全体で見ると医師不足はいまだ深刻ですが、診療科によってばらつきがあり、毎年順調に研修医を確保できている診療科がある一方で、例年「ゼロ」またはゼロに近い研修医しか集まらない診療科があることが、当センターの調査で判明しました。
縦割りになりがちな診療科ごとの医師育成。研修医の診療科偏在を解析し教授会で情報をシェアしたことで、研修医確保を大学や地域全体のマターととらえ、教授会などで共通戦略を話し合いながら、充実した専門プログラムを運営する動きが加速しています。
2016年、「宮崎大学医学部附属病院専門研修プログラム連絡協議会」が設置されました。病院長を筆頭に、各診療科と連携病院の代表、専攻医代表に、県医師会、そして医療人育成支援センターと当センターのメンバーが加わり、宮崎大学28診療科がカバーする基本19領域の専門研修プログラムの質的向上と良好な運営を目指しています。
近年、宮崎では、初期研修を受けた病院に研修医が残る傾向が見られます。「この先生がいなかったら、地域の医療は維持できない」と感じるほどの働きを見せる先輩医師の生きざまを見て、パワーを体感することで、宮崎での医療の特性をつかみ、やりがいと責任感を持って現場に戻っていくというサイクルは、地方医療にとっては貴重です。
このサイクルを強固にするには、初期研修医教育の時点からコモンディジーズへの対応能力を磨くだけでなく医療の全体像をつかめるようにする必要がある。「オール宮崎」でプログラムの充実を図っています。
―今後の意気込みを。
地理的要因、社会インフラ不足、若者の人口流出...。宮崎の医師不足を打開するための課題は、医療以外の領域でも共通し、悩みは尽きません。卒前と卒後を一貫してサポートする医師教育システムの仕事量は膨大で、私も週2回程度しか臨床医として診療できないという、医師としての個人的な葛藤も大きい現状です。
それでも、卒業式で「宮崎大学で医療を学んでよかった」と言ってくれる医学生の言葉が、魔法のように私を突き動かすのです。
宮崎での医療は刺激的とは言えないかもしれません。しかし、医療技術が遅れているわけではありません。さらに、温かい雰囲気の中で心のこもった医療を実現することができます。
医療シミュレーション教育も積極的に活用し、即戦力となる専門医を育て、医学生のころからキャリアを考える機会を増やし、医師・看護師共通教育基盤構築に取り組んで「宮崎モデル」と呼ばれる卒前・卒後一貫教育の新モデルを確立する。そして、宮崎で学び・活躍する研修医を増やしていきます。
私自身、いつでも医学生や研修医の気持ちに寄り添い、画一的な価値観に縛られない理解者として、彼らを支える柔軟な教育者でありたいと思っています。
宮崎大学医学部附属病院 卒後臨床研修センター
宮崎市清武町木原5200
TEL:0985-85-1510(代表)
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/sotsugo/