岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科産科・婦人科学教室 増山 寿 教授

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女性の一生を総合力で支える

【ますやま・ひさし】 1987 岡山大学医学部卒業 1995 米国セントルイス大学客員研究員 2000 文部科学省在外研究員(米国ケースウエスタンリザーブ大学)2012 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科産科・婦人科学教室准教授 2017同教授兼岡山大学病院周産母子センター長

 「受精卵から胎児になり赤ちゃんが生まれ、思春期、妊娠・出産、更年期と続く女性の一生を"総合力"でサポートしていきたい」と話す岡山大学産科・婦人科学教室の増山寿教授。7月に教授に就任。医局への思いと今後の展開を聞いた。

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―教室の特徴と強みを教えて下さい。

 1888年に創設し、来年で130周年を迎えます。岡山藩医学館の流れをくむ第3高等中学校医学部産婦人科として開講。中四国の産婦人科で最も歴史のある医局です。これまでに1000人以上の産婦人科医を輩出してきました。同門会員は約500人。現在、医局員は30人でその3分の1は女性です。

 「婦人科」「周産期」「生殖内分泌」「ヘルスケア」と四つの分野に分かれており、産婦人科のサブスペシャルティ全領域の専門医・指導医が在籍しています。

 全体で行われる週に一度のカンファレンスのほか、分野ごとにカンファレンスやミーティングを実施。「他のグループが何をやっているのか分からない」ということがないように、全体カンファレンスでは全分野の症例検討や治療方針決定が行われ、そのディスカッションには医局員全員が参加します。

 医局内で顔の見える関係が作られています。ロールモデルとなる先輩の姿を見て話を聞くことは、自分の将来像を形成するための参考になるでしょう。

 患者さんの中には複数の分野の医師で診なければならない人もいます。そういった方にも総合力で診療できるのは当医局の強みですね。

―産婦人科医確保のための取り組みは。

 マンパワーを維持し、働き続けることのできる職場環境を作ることが重要です。これまでは患者が急変した場合、必ず主治医が呼ばれていました。現在は情報共有を徹底し、主治医が不在の場合でも当直医やオンコールでの対応が可能になりました。医局全体で患者を診ることにより一人ひとりの負担が減り、生活におけるオンとオフを切り替えられるようになったのです。

 医局の3分の1を占める女性医師への配慮も欠かせません。出産・育児休暇からの職場復帰後は時短勤務からスタートし、徐々に仕事を増やしながらできる限りフルタイムに戻ってもらいます。医局内でのコンセンサス(合意)を得ることで「サポートするのが当たり前」だという認識が着実に浸透してきているため、他のスタッフも進んで協力してくれます。

―周産期医療の「最後の砦(とりで)」として。

 産婦人科を取り巻く現状を把握するために、7月の教授就任以降、主要な関連医療機関を回ってきました。また県内外の関連施設に出向している医局員と面談を実施。会えない医局員にはメールや手紙といったツールを使って地域の現状やニーズ、勤務医の状況や要望などの把握に取り組みました。そうすると実際に行ったことで初めて分かることや、聞いていた話と現状が相違することも少なくないことが分かったのです。

 産婦人科医の不足や少子化で地域によっては分娩施設が減少傾向にあります。しかしこういった取り組みを継続して関連病院や地域の産婦人科医と「顔の見える関係」作りを図っていき、なにか問題が起こった場合は迅速に対応できるような関係を今後も構築していきます。

 9月23、24日に広島県で開かれた「第70回中国・四国産婦人科学会総会ならびに学術講演会」では、中四国地区で産婦人科の医局を持つすべての国立大学が集結してシンポジウムを開催しました。そこで産婦人科医を目指す人材を増やすための取り組みやアイデアをディスカッションし、情報を共有しました。

 大学同士の垣根は以前よりも低くなってきています。「自分のところが充足していれば良い」というのではなく、今後は他施設との協力・連携が欠かせません。

―医局の特徴を教えて下さい。

 岡山大学医学部附属病院の産科・婦人科では婦人科34床、周産期22床、NICU18床の合計74床が稼働しています。周産期病床では異常が確認されない通常分娩の方も受け入れていますが、妊娠に伴い合併症を発症するなどリスクの高い方が約8割を占めています。

 医療の進歩により、持病などが原因でこれまで妊娠を諦めていた方も妊娠・出産できるケースが増えてきました。それも影響して高齢出産や、普通分娩が難しく帝王切開をするケースが増加しています。

 研究の面では、以前の帝王切開で切開した子宮の創部に受精卵が着床する「帝王切開瘢痕部妊娠」の研究を中四国地方の大学病院や地域周産期医療センターと共同して進めています。

 発症は既往帝王切開2000例に1例とまれ。癒着胎盤や子宮破裂を起こしやすく、無事出産に至る確率はほとんどゼロに近いのが現状です。

 単一施設では症例数が少ないために研究が進んでおらず、治療の明確なガイドラインも存在しません。そのため現在は、他施設と共同して治療計画の案を作るために収集したデータをとりまとめている段階です。

 当院において40代以上で出産する産婦の割合は分娩数全体の約20%を占めています。出産する年齢が上がると糖尿病や肥満、その他疾患を発症するリスクが上がります。そのため、周産期における妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群といった病態の予知・管理の研究に長年力を入れて取り組んでいます。

 さらに当院では2001年から産科婦人科、精神神経科、泌尿器科、形成外科の四つの診療科で協力し「ジェンダークリニック」として性同一性障害(GID)に対する診断・治療に取り組んできました。早ければ2018年度からGIDの人を対象にした性別適合手術が公的医療保険の適用対象となります。今後ますますその需要は増えていくことでしょう。

 また、今後は妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「出生前診断」をはじめとしたゲノム(遺伝情報)を広く活用した医療や、保険診療化が進まず現在停止している「子宮全摘出術におけるロボット支援手術」の再開、早期の悪性腫瘍から徐々に適用の範囲が広がってきている腹腔鏡手術の症例数の増加などにも力を入れていきたいですね。

―今後の展開と若い医師へのメッセージを。

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 大学病院として新たな治療や研究を積極的に導入することも大事なミッションであり社会貢献だと思うのです。

 医局においては働きやすい環境を作り、その中で若い医師を増やし、育て、それぞれのサブスペシャルティにおいて力をつけていってもらうのが医局の望ましい姿だと考えています。

 まずは産婦人科医を志望してもらうために、学生のうちから「赤ちゃんとお母さんが初めて出会う瞬間である分娩を必ず見ておくように」と言っています。

 産婦人科は「おめでとう」と言える唯一の診療科です。これまでに何千人もの赤ちゃんを取り上げてきましたが、新しい生命の誕生に立ち会える喜びは何度経験しても嬉しいものです。その感動を若い医師にも体感してほしい。

 当医局にはすべてのサブスペシャルティに専門医・指導医がいますので、入局後にキャリアを考えていく中でさまざまな選択肢を選ぶことができます。良い医師に育てる自信はあります。少しでも興味を持ったのならば、ぜひ産科・婦人科医局の門をたたいてほしいと思います。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 産科・婦人科学教室
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
http://www.okayama-u-obgyn.jp/


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