皮膚疾患の入院治療が各地域でできる体制を
1986年宮崎医科大学医学部(現:宮崎大学医学部)卒業。北里大学形成外科、米マイアミ大学皮膚科留学などを経て、2015年から現職。
就任からまもなく4年がたとうとしている天野正宏教授。地域医療の最後の砦(とりで)として、県内唯一の医師養成機関として、何を目指していくのか。課題解決に向けた取り組みや人材育成に対する率直な思いを聞いた。
―講座の特徴は。
宮崎で唯一の大学病院として、「皮膚科の重症患者はすべて診る」という方針があります。地方の3次医療機関の現実問題として、重篤患者はすべて受け入れざるを得ない状況とも言えます。
偏りなく総合的に皮膚疾患を診断・治療する必要があるため、宮崎では数年でほとんどの内科系と外科系の皮膚疾患を経験できるのが教育面での利点でしょう。研究を進めながらさまざまな臨床実績を培うことができるのが特徴だと思います。
この4年間で8人の新人医師が入局。急速に若返りが進んでいると感じます。医局医師の3分の2が女性です。妊娠・出産などの女性特有のライフイベントを医局員全体で理解し合い、土日の当直勤務をなくしたり、勤務時間を短縮したりして、調整するよう努めています。
先々代の井上勝平教授は、常々、「優れた人は優しい人」と説いた。私はこの教えを踏襲(とうしゅう)し、医局員には患者さんはもちろん、仲間に対しても優しい心で接し、相互に助け合える優れた医師になるように話しています。これは女性医師が育児をしながら仕事を続けられる環境づくりにも役立っています。
―4年を振り返って。
重症薬疹、皮膚がん、重症アトピーなどの難治性の皮膚疾患を一手に引き受けている大学病院の教授として、日常診療や若手の指導に努めてきました。
研究面では、現在在籍している大学院生が、私の専門であり、宮崎を含む南九州に罹患(りかん)者が多い成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の遺伝子をターゲットにした研究を進めており、皮膚病の進行を悪化させる遺伝子を特定できそうな段階まできています。
私が医師になって30余年。多くの患者さんをこの病気で亡くしてきました。大学院生らの研究は、病気の解明、根絶に向けた大きな一歩であり、教授としてこの研究の前進を喜ばしく思い、大きく期待しています。今後も、研究のサポートに力を注ぎ、その先の方向性を共に見つけていきたいと考えています。
私の就任以来、9人が退局しましたが、うち7人が地元宮崎県内に開業するなど第一線で活躍。地域医療にとって、喜ばしいことです。
一方で、当医局から2人の皮膚科医を派遣していた県北地域の基幹病院である県立延岡病院では、われわれが経験豊かな常勤医師を派遣できなくなったため、昨年の10月1日以降皮膚科病棟を閉じる事態になってしまいました。
現在は、医局員が週3回、非常勤として延岡病院を訪問して診療することで、県北の皮膚科医療を支えています。
入局15年程度の医師が、開業のために次々と医局を去ると、医師の派遣に大きな影響が出る。地域医療は、綱渡り状態です。高齢化が進む宮崎で、入院を必要とするような皮膚疾患の患者さんを地元で治療できる体制の立て直しが、私の直近の課題となっています。
―教育で力を注ぐことは。
コモンディジーズを学んで専門医となり、しっかり診断・治療経験を積み、専門性と臨床力を兼ね備えた上で、患者さんに対して包容力のある対応ができる医師を育てていきたいと考えています。
当大学の卒業生の3割程度しか研修医として地元に残らない現状は、危機的であり、医学部全体で取り組む課題です。地域医療の根幹を担う若手医師の確保と、患者さんの声に耳を傾けられる専門性の高い皮膚科医の確保・育成がライフワークです。
宮崎大学医学部 感覚運動医学講座 皮膚科学分野
宮崎市清武町木原5200
TEL:0985-85-1510(代表)
http://www.med.miyazaki-u.ac.jp/home/derma/